現場レベルで生産性を上げることより、経営レベルで生産性を上げることが重要!
なぜ製造業はRPAに注目するのか?(1)からの続き
IV. RPAの活用例:製造業の在庫管理・生産管理を中心に
RPAは、人事、経理、営業支援など、企業の様々な部門で活用されていますが 、ここ
では製造業の中核業務である在庫管理と生産管理における具体的な活用例を見ていき
ましょう。
★無料ものづくりネット相談・お問い合わせフォーム
(RPAについてもっと知りたい方、導入を検討されている方、お問い合わせください)
●在庫管理での活用例
在庫管理は、欠品による販売機会損失や過剰在庫によるコスト増を防ぐために、正確
さとスピードが求められる重要な業務です。RPAは以下のような作業を自動化できます。
データ入力の自動化: 商品や原材料の入出荷時に発生するデータ入力作業は、RPAの
得意分野です。例えば、取引先からメールで送られてくる納品書(PDFやExcel)の
内容をRPAが自動で読み取り、在庫管理システムやERPシステムに数量や品番などの
情報を入力します 。手作業による入力ミスや時間の浪費を防ぎます 。
在庫数の確認・通知(リアルタイム監視): RPAは、定期的に在庫管理システムを
チェックし、現在の在庫数を把握します 。設定された閾値(しきいち:基準となる値)
を下回った場合や、システム上の在庫数と実在庫に差異が見つかった場合に、担当者
へ自動でメールやチャットで通知を送ることができます 。これにより、在庫状況を
リアルタイムに近い形で把握し、迅速な対応が可能になります。
複数システム間の在庫同期: 特にECサイトなどを運営している場合、社内システムと
ECサイトの在庫数を常に一致させておく必要があります。RPAは、一方のシステムで
の在庫変動を検知し、もう一方のシステムへ自動で反映させる作業を行うことができ
ます 。これにより、売り越し(欠品)や販売機会の損失を防ぎます。
定型レポートの自動作成: 在庫状況報告書、滞留在庫リスト、在庫回転率レポートなど
定期的に作成が必要なレポート業務もRPAで自動化できます 。システムから必要なデ
ータを抽出し、決められたフォーマットにまとめて出力します。
発注業務の自動化: 在庫数が事前に設定した発注点を下回った場合に、RPAが自動で
発注書を作成し、場合によっては仕入先へメールなどで送信する、といった一連の
発注プロセスを自動化することも可能です 。これにより、発注漏れや遅延を防ぎ、
適正な在庫レベルを維持しやすくなります。
●生産管理での活用例
生産計画の立案から製造指示、実績管理まで、生産管理業務にもRPAを活用できる
場面が多くあります。
生産関連データの入力: 作業指示書の内容、生産開始・終了時刻、使用した部品や
原材料の数量、品質検査の結果などを、生産管理システム(MES)や基幹システム
(ERP)へ入力する作業を自動化します 。紙の作業指示書や検査記録なども、AI-
OCR(光学文字認識)技術と組み合わせることで、RPAによる自動入力が可能に
なります 。
システム間のデータ連携: 製造業では、販売管理システム、生産計画システム、MES
ERPなど、複数のシステムが使われていることが一般的です。しかし、これらのシス
テム間がうまく連携されておらず、手作業でデータを転記しているケースも少なくあ
りません 。RPAは、異なるシステム間でのデータコピー&ペーストや、必要な形式に
データを加工して転記する作業を自動化できます 。特に、古いシステム(レガシー
システム)が残っている場合に有効です 。
定型レポートの作成: 日報や週報といった生産実績レポート、設備の稼働状況レポート
不良品発生状況レポートなどを、関連システムからデータを収集して自動作成します 。
これにより、管理者は常に最新の状況を把握し、迅速な意思決定を行うことができます。
生産スケジューリング・進捗管理の補助: 複雑な生産スケジューリングの最適化はAIの
領域ですが 、RPAはその前段階のデータ収集や、簡単なルールに基づいたスケジュール
の更新、生産進捗状況のモニタリングと遅延発生時のアラート通知などで活用できます 。
在庫管理
・データ入力(入庫、出庫、調整)
・在庫レベル監視とアラート(閾値、差異)
・複数プラットフォーム間の在庫同期(例:ERPとECサイト)
・定型レポート作成(在庫レベル、滞留在庫)
・自動発注(発注点に基づく)
生産管理
・生産データ入力(作業指示、実績、品質チェック)
・システム間データ連携(例:販売→計画→MES→ERP)
・定型レポート作成(生産状況、パフォーマンス)
・スケジュール補助(データ収集、簡易更新)と監視
これらの例はほんの一部であり、RPAの活用範囲はアイデア次第でさらに広がります。
重要なのは、自社の業務プロセスの中で、どこに繰り返しが多く、時間がかかり、
ミスが発生しやすい定型作業があるかを見つけることです。
V. RPA導入のメリット:どんな良いことがある?
RPAを導入することで、製造業は多くのメリットを享受できます。主な利点を整理し
てみましょう。
時間の大幅な節約と効率化:
これがRPA導入の最も直接的なメリットです。RPAロボットは人間よりもはるかに
高速に作業を実行し、24時間365日稼働できます 。これまで何時間もかかっていた
データ入力やレポート作成などの作業時間を劇的に短縮し、業務全体のスピードア
ップを実現します 。
ミスの削減と品質向上:
人間による手作業では避けられない入力ミス、転記ミス、計算ミス、手順の飛ばし
などを、RPAは根本的に排除します 。これにより、データの正確性が向上し、業務
プロセス全体の品質が安定・向上します。後工程での手戻りや修正作業も削減されます。
コスト削減:
作業時間の短縮とミスの削減は、結果的にコスト削減につながります 。残業代の削減
エラー修正にかかる費用の削減、そして将来的には採用や教育コストの抑制も期待で
きます。
従業員の負担軽減とモチベーション向上:
退屈で単調な繰り返し作業から解放されることは、従業員の精神的な負担を軽減し、
仕事への満足度を高める効果があります 。空いた時間を使って、より創造的でやり
がいのある業務、例えば改善活動、新しいスキルの習得、顧客とのコミュニケーシ
ョンなどに集中できるようになります。これは、従業員の成長を促し、組織全体の
活性化にもつながります。RPAは単に作業をなくすのではなく、人間がより人間ら
しい、価値の高い仕事をするための時間を生み出すツールと捉えることができます。
これらのメリットを総合的に考えると、RPAは製造業が抱える課題に対応し、持続的
な成長を支えるための強力な武器となり得ます。
VI. 知っておきたい注意点:RPA導入の落とし穴
RPAは多くのメリットをもたらしますが、導入にあたっては注意すべき点もあります。
事前にデメリットや注意点を理解しておくことで、導入の失敗を防ぐことができます。
導入・運用コスト:
RPAツールを利用するには、ソフトウェアの購入費用やライセンス料(月額・年額など)
がかかります 。また、導入後のメンテナンスや、機能追加のためのオプション費用が
発生する場合もあります。人を雇用するよりは安価なケースが多いとされますが 、初
期投資と継続的なコストが発生することは認識しておく必要があります。
メンテナンスの必要性:
RPAロボットは、連携しているソフトウェア(Excel、基幹システム、Webサイトなど)
に変更があった場合、正しく動作しなくなることがあります 。例えば、Webサイトの
デザインが変わったり、社内システムのバージョンアップが行われたりすると、RPAの
シナリオ(指示書)を修正する必要があります。そのため、導入後も定期的なメンテ
ナンスや見直しが不可欠です。
万能ではない(適用できない業務もある):
RPAは、ルール化された定型業務の自動化には非常に有効ですが、万能ではありません。
人間の判断や臨機応変な対応、創造性が必要な業務、あるいは頻繁に手順やルールが
変わる業務には不向きです 。複雑すぎるプロセスや、例外処理が多い業務を無理に自
動化しようとすると、かえって効率が悪くなったり、エラーが多発したりする可能性が
あります。
事前の計画と業務理解の重要性:
RPA導入を成功させるためには、どの業務を自動化するのか、なぜ自動化するのか、
どのような効果を期待するのかといった目的を明確にし、計画的に進めることが非常
に重要です 。自動化したい業務のプロセスを詳細に理解・整理することも不可欠です。
準備不足のまま導入を進めると、期待した効果が得られないばかりか、現場の混乱を
招くことになりかねません。
業務停止のリスク:
RPAロボットが予期せず停止した場合(システムの変更、ネットワーク障害、シナリ
オのエラーなど)、そのロボットが担当していた業務が滞ってしまうリスクがあります 。
特に基幹業務を自動化している場合は影響が大きくなる可能性があるため、エラー発生
時の対応策や、ロボットの稼働状況を監視する体制を整えておくことが重要です。
ブラックボックス化のリスク:
RPAロボットを作成した担当者が異動や退職し、そのロボットの仕組みや設定内容に
関する情報が引き継がれなかった場合、誰もそのロボットを修正したり管理したりで
きなくなる「ブラックボックス化」のリスクがあります 。適切なドキュメント作成や
チーム内での情報共有を心がけることが大切です。
これらの注意点を踏まえ、RPAは魔法の杖ではなく、あくまでツールの一つであると
理解し、適切な業務に、適切な計画のもとで導入することが成功への近道です。
特に、安定していて、ルールが明確で、繰り返し頻度が高い業務から始めることが
推奨されます。
VII. RPA導入を考えてみる:簡単な始め方のヒント
「RPAに興味はあるけれど、何から始めればいいかわからない…」と感じている方も
多いかもしれません。難しく考えすぎず、まずは身近なところから試してみるのが
おすすめです。
1. 自動化できそうな業務を探してみる:
まずは、普段パソコンで行っている業務を振り返ってみましょう。「毎日繰り返して
いる作業」「ルールが決まっている単純作業」「時間がかかって面倒な作業」「よく
ミスが発生する作業」はありませんか? 。例えば、Excelから別のExcelへのデータ
コピー&ペースト、定型的なメールの作成・送信、Webサイトからの情報収集、決ま
ったフォーマットへのデータ入力などが候補になります。
2. 小さく始めてみる(スモールスタート):
いきなり大規模な業務や、複雑なプロセスを自動化しようとするのは避けましょう。
まずは、簡単で、影響範囲が小さく、かつ効果が見えやすい業務を1つか2つ選んで
試してみることを強く推奨します 。これを「スモールスタート」や「PoC(概念実証)」
と呼びます 。これにより、導入のリスクを最小限に抑えながら、RPAの操作に慣れたり
実際の効果を確認したりすることができます 。小さな成功体験を積み重ねることが、
社内での理解や協力を得る上でも重要です。
3. 目標を具体的にする:
その業務を自動化することで、具体的に何を目指すのかを明確にしましょう 。例えば
「〇〇作業にかかる時間を半分にする」「△△のデータ入力ミスをゼロにする」と
いった、測定可能な目標(KPI)を設定すると、導入効果を評価しやすくなります 。
4. 現場の担当者と協力する:
自動化したい業務を実際に行っている担当者の意見を聞くことが非常に重要です 。
業務の細かい手順や注意点、潜在的な問題点などを一番よく知っているのは現場の
担当者です。協力して進めることで、より実用的で効果的な自動化が実現できます。
5. 使いやすいツールを探してみる:
最近のRPAツールの中には、プログラミングの知識がなくても、マウス操作などで
比較的簡単にロボットを作成できる「ローコード/ノーコード」と呼ばれるものが
多くあります 。多くのツールで無料トライアル期間やデモンストレーションが提供
されているので、実際に試してみて、操作性やサポート体制、費用などを比較検討
してみましょう 。自社の状況や使う人に合ったツールを選ぶことが大切です 。
スモールスタートで始めて、効果を確認しながら徐々に自動化の範囲を広げていく
アプローチが、多くの企業で成功しています 。まずは第一歩を踏み出してみること
が大切です。
VIII. まとめ:RPAはあなたの製造業ビジネスに適しているか?
ここまで、製造業におけるRPAの基本的な考え方から、具体的な活用例、メリット
・デメリット、そして簡単な始め方までを見てきました。
RPAは、製造業が直面する効率化、コスト削減、人手不足、品質向上といった課題に
対応するための有効な手段となり得ます 。特に、在庫管理や生産管理といった領域
では、データ入力、システム連携、レポート作成などの定型業務を自動化することで
大きな効果が期待できます。
初心者の方へ、覚えておきたいポイント:
RPAはルールが決まった繰り返し作業が得意な「ソフトウェアロボット」です。
小さく始めて、効果を確認しながら進めるのが成功のコツです 。
RPAの導入目的は、単に作業をなくすだけでなく、従業員がより価値の高い仕事に集中
できる環境を作ることにあります 。
RPAは、もはや一部の先進的な企業だけのものではありません。特別なITスキルがな
くても導入・活用できるツールも増えており、継続的な業務改善を目指す製造業にと
って、身近で強力な選択肢の一つとなっています。
この記事をきっかけに、ぜひあなたの職場でも「この作業、RPAで自動化できるかも?」
と考えてみてください。小さな一歩が、大きな業務改善につながるかもしれません。



