海外委託生産のリアル:品質リスクを乗り越え、グローバル競争力を高めるには?

濱田金男

濱田金男

テーマ:製造業の正しい品質管理手法

海外委託生産を担当されている管理者の皆さん、日々の業務お疲れ様です。
コスト削減やグローバル市場へのアクセス拡大を目指し、海外への生産委託は多くの
製造業にとって不可欠な戦略となっていますね 。

しかしその一方で、「また品質問題か…」「どうして現地に意図が伝わらないんだ…」
と頭を悩ませる場面も少なくないのではないでしょうか? 。  

本日は、そんな海外委託生産の「今」と、避けては通れない品質問題にどう立ち向かう
べきか、そして今後の課題について、皆さんと一緒に考えていきたいと思います。

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●海外委託生産の「今」:避けて通れない現実
ご存知の通り、製造業における海外委託生産の流れは加速しています。より有利な
コスト構造を求め、成長著しい海外市場に打って出るため、あるいは特定の技術や生産
能力を活用するために、海外パートナーとの連携はますます重要になっています 。  

しかし、その裏側で、「メイド・イン・ジャパン」として長年培ってきた品質への信頼
が、海外生産品の品質問題によって揺らぎ始めているという厳しい現実も指摘されて
います 。
期待される品質レベルと、実際に納品される製品とのギャップに、多くの管理者が苦慮
しているのではないでしょうか。  

●なぜ品質問題は起こるのか?現場で直面する5つの壁
では、なぜ海外委託生産では品質問題が起こりやすいのでしょうか?現場で直面する
主な「壁」を整理してみましょう。

★コミュニケーションの壁
言葉の違いはもちろん、文化や商習慣の違いからくる「当たり前」の齟齬が、指示の
誤解や仕様の認識ずれを生んでいます 。明確に伝えた「つもり」でも、相手には全く
違う意味で捉えられている、ということは日常茶飯事かもしれません。  

★品質基準の壁
日本国内では暗黙の了解となっている高い品質基準や細かな作業手順が、海外パート
ナーには理解されにくい、あるいは過剰要求と受け取られることがあります 。
この「暗黙知」を明確な「形式知」として伝えきれていないことが、多くの問題の根源
にあるようです 。  

★サプライヤー管理の壁: コストや納期だけで安易に委託先を選んでしまい、後から
品質管理体制の不備や技術力不足が露呈するケース。また、委託先がさらに下請けに
再委託していて、実態が見えなくなっていることも 。
サプライヤーの選定と継続的な管理は、言うは易く行うは難し、です。  

★技術移転の壁: 日本の高い製造技術やノウハウを、言葉や文化の違う現地スタッフに
効果的に伝えるのは至難の業です 。短期的な指導だけでは定着せず、人材育成が追い
つかないというジレンマもあります 。
 
★コストと品質の壁: 海外委託の大きな動機であるコスト削減。しかし、品質を維持・
向上させるためには、監査や教育、検査体制の強化など、相応の投資が必要です 。
このトレードオフの中で、品質に関わる投資が後回しにされがちな現実があります 。  

●品質問題への処方箋:明日からできる7つのアクション
これらの「壁」を乗り越え、品質リスクを低減するために、私たち管理者は何ができ
るでしょうか?明日からでも始められる具体的なアクションを7つご紹介します。

★パートナー選びは慎重に
取引開始前のデューデリジェンス(事前調査)と定期的な工場監査を徹底しましょう 。
品質管理体制はもちろん、労働環境や環境対応(CSR)まで含めて評価することが重要
です 。  

★「言ったつもり」を防ぐ
品質基準、検査方法、変更管理手順などを具体的に定めた「品質保証協定」を締結し、
文書で明確な基準を共有しましょう 。
図面やサンプル、限度見本なども活用し、認識のズレを防ぎます 。  

★密な連携を仕組み化
定期的なオンライン会議やチャットツール、共有プラットフォームなどを活用し、コミ
ュニケーションの頻度と質を高める仕組みを作りましょう 。
問題の兆候を早期に発見し、迅速に対応できる体制が鍵です。  

★任せきりにしない
サプライヤーを信頼することは大切ですが、重要な工程や最終製品については、受け入
れ検査や出荷前検査など、自社(または第三者機関)による検証プロセスを組み込み
ましょう 。ただし検査依存ではなく、工程での品質作り込み(源流管理)が基本です 。  

★現地の人材を育てる
短期的な問題解決だけでなく、長期的な視点で現地スタッフの技術力・品質管理能力
向上を支援しましょう 。現地のリーダーを育成し、自律的な改善活動を促すことが、
持続可能な品質体制の構築につながります 。  

★テクノロジーを味方に
IoTセンサーによる工程のリアルタイム監視や、AIを活用した外観検査の自動化など
デジタル技術を品質管理の強化に戦略的に活用することを検討しましょう 。  

★(中小企業の皆さんへ)外部リソースの活用
JETROや中小機構、業界団体、専門コンサルタントなどの支援機関や、補助金・助成
金制度を積極的に活用しましょう。自社だけでは難しい課題も、外部の知見やネット
ワークを借りることで解決の糸口が見えることがあります。

●今後の課題:変化に対応し続けるために
目を未来に向けると、海外委託生産を取り巻く環境はさらに変化していくでしょう。

★サプライチェーンの複雑化と地政学リスク
特定国への依存リスクを避け、より強靭で多様なサプライチェーンを構築する必要性が
高まっています 。  

★ESG経営の高まり
品質やコストだけでなく、人権、労働環境、環境負荷といった観点でのサプライヤー
管理が一層求められるようになります 。  

★デジタル化の加速
AIやIoTなどの技術進化に対応し、データに基づいた、より効率的で高度な品質管理
手法を取り入れていく必要があります 。  
これらの変化に対応するためには、品質管理を単なる「コスト」として捉えるのでは
なく、企業の持続的な成長と競争力を支える「戦略的投資」と位置づける意識改革が
必要です 。  

●おわりに
海外委託生産における品質問題は、残念ながらゼロにすることは難しいかもしれません。
しかし、それは決して管理不能なリスクではありません。今回ご紹介したような対策を
地道に実行し、サプライヤーとの良好なパートナーシップを築くことで、リスクを最小
限に抑え、海外委託生産のメリットを最大限に引き出すことは可能です。

私たち管理者には、これらの課題に正面から向き合い、リーダーシップを発揮して、
組織全体で品質向上に取り組む姿勢が求められています。変化を恐れず、常に学び、
改善を続けていくこと。それが、グローバル競争を勝ち抜くための鍵となるはずです。

この記事が、皆さんの日々の奮闘の一助となれば幸いです。

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濱田金男プロは上毛新聞社が厳正なる審査をした登録専門家です

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