見積りは”どんぶり”ではダメ!金額はどのように算出していますか?(新たな部品加工・組立品を受注する場合)

濱田金男

濱田金男

テーマ:TOC理論と生産性向上

製造業において、取引先より新たな部品加工、組立品をロット受注する際、取引先
に見積もりを提出しますが、どのような考え方で決定していますか?

今までの経験から社長が「エイヤー」で決めている場合も少なくないと思いますが
多品種少量生産工場では、受注数量の変動が大きい、受注時期が一定していないと
いう条件で、受注品の見積もり金額を算出するには、様々な条件を加味して決定す
る必要があり、ついつい、どんぶり勘定になってしまいがちです。

受注数量や受注時期が一定しない条件での見積もり金額の算出は、間接経費の扱い
が非常に重要になります。
そこで、以下の考え方に基づいて見積もり金額を決定し、特に間接経費については
複数のアプローチを検討することをお勧めします。

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1.基本的な見積もり金額の考え方
見積もり金額は、以下の要素を合計して算出します。
 直接材料費: 製品を製造するために直接的に使用する材料の費用。
 直接労務費: 製品の加工や組み立てに直接従事する作業者の賃金。
 直接経費: 特定の製品のために直接的に発生する費用(外注費、運送費など)。
 間接経費: 製品の製造全体に関わる費用で、特定の製品に直接的に紐付けることが
      難しい費用(人件費、機械加工費、工場賃料、光熱費など)。
 利益: 企業として確保したい利益額。

2.間接経費の上乗せ方法
受注数量や受注時期が変動する場合、固定的な間接経費の配賦方法では、受注量が
多いときには単価が低く見え、少ないときには高すぎる見積もりになる可能性が
あります。
以下の方法を組み合わせて検討し、自社の状況や取引先との関係性に合わせて最適な
方法を選択してください。

(1)変動費と固定費の分離と異なる上乗せ方法
間接経費を変動費と固定費に分け、それぞれ異なる方法で上乗せすることを検討します。
①変動費的な間接経費
 受注量に比例して変動する可能性のある間接経費(一部の機械加工費、間接的な作業
 者の人件費など)。これらは、直接労務費や直接材料費に一定の割合を掛けて上乗せ
 する方法が考えられます。

②固定費的な間接経費
 受注量の変動に関わらず一定の費用(工場賃料、管理部門の人件費、減価償却費など)
 これらは、以下のいずれかの方法で上乗せすることを検討します。
 ・標準的な配賦率に基づく上乗せ (注意が必要): 過去の実績などから標準的な配賦率
  (例:直接労務費〇〇%)を算出し、それを基に上乗せします。ただし、受注量が
  大きく変動する場合には、この方法だと実際の間接費の回収額が不安定になる可能
  性があります。

 ・受注ごとの固定額上乗せ: 新規の部品加工、組立品を受注するために必要な準備費
  用や管理費用などを考慮し、受注ごとに一定の金額を上乗せします。これは、受注
  数量が少ない場合に特に有効です。

 ・期間ごとの目標回収額に基づく上乗せ (中長期的な視点): 一定期間(例:月間、四
  半期)で回収したい間接経費の総額を目標として設定し、その期間に見込まれる総
  作業時間や総受注件数などに基づいて、見積もりごとの上乗せ額を調整します。

(2)損益分岐点分析の活用
変動する受注数量を考慮し、損益分岐点分析を行うことで、どの程度の受注量であれば
間接経費を回収できるのかを把握します。
①固定費(間接経費の固定費部分を含む)を回収するために必要な最低受注数量を把握
 します。

②見積もりを提出する際には、この損益分岐点を考慮し、ある程度の利益を確保できる
 数量以上の価格設定を行うようにします。

(3)キャパシティコストの考慮
受注数量や受注時期が変動しても、一定の生産能力を維持するために必要なコスト
(機械の維持費、基本的な人員配置など)を考慮します。
①たとえ受注量が少ない時期でも発生するキャパシティ維持のためのコストを見積もり
 に含める必要があります。

②繁忙期と閑散期の差が大きい場合は、閑散期でも最低限のコストを回収できるような
 価格設定を検討します。

(4)受注数量に応じた価格設定(ボリュームディスカウントの逆)
受注数量が多い場合には、スケールメリットによるコストダウンを反映した価格設定を
行うのが一般的ですが、受注数量が少ない場合には、割増料金を設定することを検討
します。
①最低受注数量を設定し、それを下回る場合には追加料金を設定する。
②段階的な数量割引ではなく、少量の場合には単価を高く設定する。

(5)受注時期による価格調整
受注時期が一定しない場合、突発的な受注に対応するためのコスト(残業代、臨時の
人員手配など)が発生する可能性があります。
①通常のリードタイムよりも短い納期を要求された場合には、特急料金として追加料金
 を設定する。
②繁忙期に集中する受注に対しては、閑散期とのバランスを取るために価格を調整する。

3.具体的な上乗せ金額の決定プロセス
(1)間接経費の分析
  過去のデータや将来の予測に基づいて、間接経費を変動費と固定費に分類し、それ
  ぞれの金額を把握します。
(2)変動費的な間接経費の配賦率決定: 直接労務費や直接材料費に対する一定の割合
  を算出します。
(3)固定費的な間接経費の回収方法検討: 上記の「固定費的な間接経費」の項目で説明
  した方法の中から、自社に合った方法を選択します。
(4)損益分岐点の把握: 固定費、変動費、売価の関係から損益分岐点を分析します。
(5)キャパシティコストの考慮: 生産能力維持に必要なコストを見積もりに反映させます。
(6)受注数量・時期による価格調整: 必要に応じて、数量や納期に応じた価格調整ルール
  を設定します。
(7)利益の確保: 上記のコストに加えて、企業として確保したい利益額を上乗せします。

6.見積もり提出時の注意点
①見積もり条件の明記: 受注数量の変動幅、納期、支払い条件など、見積もりの前提と
 なる条件を明確に記載します。
②有効期限の設定: 見積もり金額の有効期限を設定し、期間外の受注については再見積もり
 を行うことを明記します。
③変動要素の説明: 受注数量や時期によって金額が変動する可能性があることを取引先に
 丁寧に説明し、理解を得ることが重要です。
④透明性の確保: 可能な範囲で、見積もり金額の根拠(直接材料費、労務費、間接経費の
 配賦方法など)を開示することで、取引先の信頼を得やすくなります。

まとめ
受注数量や受注時期が一定しない条件での見積もり金額の算出は複雑ですが、間接経費の
変動費と固定費を分離して考え、損益分岐点分析やキャパシティコストを考慮することで
より適切な見積もり金額を算出することができます。
取引先との良好な関係を維持するためにも、見積もり条件を明確に伝え、透明性の高い
見積もりを提出するように心がけてください。

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濱田金男プロは上毛新聞社が厳正なる審査をした登録専門家です

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