日本の製造業が今後、強みを生かしてグローバルに発展するためには?<世界に誇る日本の製造業:その2>
日本の中小製造業が今後10年間でどのように変化するか、大変興味深いテーマです。
生産性、就業者数、GDPに占める割合という3つの視点から、詳しく見ていきましょう。
生産性向上、就業者数減少、GDPに占める割合低下を軸に、多角的に考察し、現状と
将来展望を交えながら詳細に解説します。
1.現状認識:日本の中小製造業の立ち位置
まず、現在の中小製造業がどのような状況にあるのかを把握することが重要です。
日本経済を支える中小製造業は、高度な技術力やきめ細やかな顧客対応力を持つ一方で
以下のような課題も抱えています。
①少子高齢化の影響で、熟練技術者の高齢化と若手人材の不足が深刻化しています。
後継者不足も深刻で、廃業を選ぶ企業も少なくありません。
②大企業と比較して、中小企業ではデジタル化や自動化の遅れが指摘されており、生産
性向上が喫緊の課題です。
③新興国の追い上げやグローバルなサプライチェーンの変化により、価格競争や技術力
競争が激化しています。
④地政学的なリスクや環境規制の強化などにより、原材料価格が変動しやすく、中小
企業の経営を圧迫しています。
⑤経営者の高齢化が進む中で、後継者が見つからない企業が多く、事業承継が円滑に進ま
ないケースが増えています。
これらの課題を抱えながらも、中小製造業は日本のものづくり文化を支え、地域経済や
雇用を支える重要な役割を担っています。
2.今後10年の変化を予測する主要因
今後10年間で中小製造業を取り巻く環境は大きく変化すると考えられます。変化の主
要因となるのは以下の要素です。
(1)デジタルトランスフォーメーション(DX)の加速
AI、IoT、ビッグデータなどの技術が進化し、中小企業でも比較的導入しやすくなります。
生産ラインの自動化、品質管理の高度化、サプライチェーンの最適化などが進み、生産性
向上に貢献します。
オフィス業務の効率化、顧客管理の高度化、マーケティングの効率化など、間接部門の
生産性も向上します。
ただし、DX推進には投資が必要であり、中小企業間のデジタル化格差が拡大する可能性
もあります。
(2)労働力不足の深刻化と自動化・省人化の推進
少子高齢化はさらに進み、労働力不足はより深刻になります。
人手不足を補うために、ロボット導入、AIによる自動化、省人化技術の導入が加速します。
定型業務は自動化され、人間はより創造的な業務や高度な専門業務にシフトしていくと
考えられます。
一方で、自動化によって雇用が減少する懸念や、新たなスキルを習得する必要性も生じます。
(3)サプライチェーンの再構築と地産地消の動き:
グローバルサプライチェーンの脆弱性が露呈し、地政学リスクへの意識が高まっています。
国内回帰や近隣国へのシフト、地産地消の動きが強まる可能性があります。
地域の中小企業にとっては、新たなビジネスチャンスが生まれる可能性があります。
ただし、グローバルなコスト競争力は低下する可能性もあり、価格競争力と高付加価値化
の両立が求められます。
(4)環境意識の高まりとサステナビリティへの取り組み
カーボンニュートラル、SDGsなどの世界的な潮流を受け、環境意識がさらに高まります。
中小企業にも、省エネ、CO2排出量削減、リサイクル、循環型経済への移行などが求め
られます。
環境対応はコスト増となる側面もありますが、新たな技術革新やビジネスモデル創出の
機会にもなります。
環境に配慮した製品やサービスは、新たな市場ニーズを生み出す可能性もあります。
(5)事業承継の促進と新たな担い手の登場
事業承継問題は依然として深刻ですが、M&Aや第三者承継、スタートアップによる新た
な事業創造など、多様な担い手が現れる可能性があります。
ベンチャーキャピタルや事業承継ファンドなどの支援体制も強化され、中小企業の事業
承継を後押しする動きが加速します。
若手経営者や女性経営者の活躍も期待され、中小製造業に新たな風を吹き込む可能性が
あります。
3.3つの視点からの変化予測
上記の主要因を踏まえ、3つの視点(生産性、就業者数、GDPに占める割合)から、
具体的な変化を予測してみましょう。
(1) 生産性:向上する可能性が高い
①デジタル技術の導入や自動化が進むことで、生産効率が向上し、不良品率の低下、
リードタイムの短縮などが期待できます。
②熟練技術者のノウハウをデジタル化し、若手人材への技能伝承を効率化することで
全体の生産性向上に繋がります。
③生産データや顧客データを分析し、ボトルネックの特定、工程改善、品質向上など、
データに基づいた改善活動が活発化します。
④価格競争から脱却し、高付加価値製品やニッチ市場に特化した製品開発に注力する
ことで収益性と生産性を両立させる動きが強まります。
ただし、中小企業間でのDX推進度合いには差が出ると考えられ、デジタル化に対応
できる企業とそうでない企業で、生産性向上に差が出る可能性もあります。政府や
支援機関による中小企業向けDX支援策の充実が求められます。
(2) 就業者数:減少する可能性が高い
①ロボット導入やAIによる自動化が進むことで、単純作業や定型業務を中心に、人手を
必要とする業務が減少します。
②そもそも労働力不足が深刻化するため、企業側も積極的に新規採用を控える可能性
があります。
③製造業以外のサービス業や情報通信業などの成長が著しく、製造業からの労働力シフト
が起こる可能性があります。
④高齢化が進み、団塊世代以降の大量退職が進むことで、就業者数が減少する要因とな
ります。
一方で、新たな産業分野や高付加価値分野では、新たな雇用が生まれる可能性もあり
ます。また、自動化によって生まれた余剰人員を、より創造的な業務や付加価値
の高い業務に再配置することで、人材の有効活用を図る動きも出てくるでしょう。
(3) GDPに占める割合:低下する可能性がある
①日本経済全体として、製造業からサービス業へと産業構造がシフトしていく傾向
が続くと考えられます。
②一般的に、大企業の方が規模の経済や技術力、海外展開力などで有利であり、中小
企業よりも成長率が高くなる傾向があります。
③新興国製造業の技術力向上やコスト競争力強化により、日本の中小製造業の国際的
なシェアが低下する可能性があります。
④事業承継問題や経営環境の悪化などにより、中小企業の廃業や統廃合が進むことで
GDPに占める割合が低下する可能性があります。
ただし、中小製造業が高付加価値化やニッチ市場戦略、地域資源活用などを通じて競争
力を維持・強化できれば、GDPに占める割合の低下を抑制できる可能性もあります。
また、中小企業が新たな産業分野やサービス分野に進出することで、GDPへの貢献度
を高める可能性も考えられます。
4.総合的な展望と中小製造業への期待
以上のように、日本の中小製造業は今後10年間で、生産性向上、就業者数減少、GDP
に占める割合低下という変化を経験する可能性が高いと考えられます。しかし、これ
は悲観的な未来を意味するものではありません。
中小製造業は、日本の経済社会を支える重要な基盤であり続けます。DXや自動化を
積極的に推進し、高付加価値化やニッチ市場戦略を磨き、サステナビリティへの取り
組みを強化することで、変化の時代を乗り越え、新たな成長軌道を描くことができる
はずです。
中小製造業には、以下の点が期待されます。
①技術革新の担い手として、中小企業ならではの柔軟性やスピード感を生かし、革新
的な技術や製品、サービスを生み出すことが期待されます。
②地域資源を活用した特色ある産業を育成し、地域雇用を創出し、地域経済を活性化
する役割が期待されます。
③自動化によって生まれた時間や余剰人員を活用し、多様な働き方や柔軟な労働時間
制度を導入することで、働きがいのある職場環境を実現することが期待されます。
④環境負荷低減や資源循環型経済への移行をリードし、持続可能な社会の実現に貢献
することが期待されます。
⑤特定のニッチ分野で高い技術力やシェアを持つ「グローバルニッチトップ」として
世界市場で活躍する中小企業が増えることが期待されます。
5.政策支援の重要性
中小製造業がこれらの期待に応え、変化をチャンスに変えていくためには、政府や
関係機関による強力な政策支援が不可欠です。
①中小企業のデジタル化を支援するための補助金、税制優遇、コンサルティング支援
などを拡充する必要があります。
②デジタルスキルや高度な専門スキルを習得できる職業訓練、リカレント教育、STEM
教育などを強化する必要があります。
③M&A支援、第三者承継支援、事業承継ファンドの活用促進など、事業承継を円滑に
進めるための支援策を強化する必要があります。
④省エネ設備投資補助金、環境技術開発支援、サプライチェーン全体での環境対策支援
など、中小企業の環境対応を支援する必要があります。
⑤海外展開支援、販路開拓支援、異業種連携支援など、中小企業が新たな市場を開拓
するための支援策を強化する必要があります。
まとめ
日本の中小製造業は、今後10年間で大きな変化に直面するでしょう。しかし、変化を
恐れず、積極的にDXを推進し、高付加価値化、ニッチ市場戦略、サステナビリティへ
の取り組みを強化することで、新たな成長の可能性を切り開くことができます。
政府や支援機関による強力なバックアップ体制のもと、中小製造業が再び日本経済の
牽引役として輝きを増すことを期待しています。



