痛くない注射針で深堀り加工技術を貫く:大手企業と組めば中小企業単独では出来ないことも可能となる

濱田金男

濱田金男

テーマ:中小製造業の生き残り策

医療機器メーカーのテルモの開発者は「痛くない注射針」の開発を進めて
いました。
痛みを減らすためには針を細くすればよいということがわかっていました
が、細くすればするほど、薬の液が通りにくくなってしまいます。そこで
針の形を『先端は細いが、根元は太い』設計にすれば、痛みを減らし、薬
も通りやすくすることができる、という考えにたどり着きました。

ところが、協力してくれる企業がなかなか見つかりません。
100社ほどに問い合わせたり、訪問したりした結果、東京都墨田区にある
町工場岡野工業株式会社が引き受けてくれることになりました。

通常の注射針は長いパイプを切って作ります。これに対して、岡野工業は
一枚のステンレス板を一本一本、筒状に丸める方法を編み出しました。液
がうまく流れるように、針の中もちゃんと磨き上げています。この加工方
法は岡野工業にしかできません。

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(熟練加工技術を若手にどうやって伝えれば良いか?)

岡野工業の下請け構造脱却の4つの秘訣(こうあるべき)をまとめて見ま
した。

1.中小企業はどこにもできない加工技術で勝負すべき
①深絞り職人になるまでには最低20年はかかる。それまで我慢できない
 ので深絞りができる工場はほとんどなくなっている
②何万個と作っていくうちに、金型や機械の調子が変わってくる。その調整
 が他の人にはできない(匠の技術)
③大企業は、町工場に「安く作れ」としか言ってこない。だから安値競争に
 ならない、誰にもできない仕事ばかりを選んで実現する
④プレスというローテクを極めることで、ハイテク製品を支えることができる
⑤サンプルを作るのに1年半、量産して売り始めるまでに3年半、都合5年
 かかった(必ず実現できると信じて)

2.大手企業と組んで技術開発を行っていくべき
①特許は単独で取るより、大会社と組んで取る。大会社との連名で特許を
 取っておけば、ほかの会社も手を出しづらい。大会社は海外の情報網も
 発達しているから、どこかでまねをしていたらすぐに対応できる
②超一流企業から続々と仕事が舞い込むが、陳腐化する前に、他社へ仕事を
 譲り、次の難しい仕事を取る

3.中小企業こそ営業に力を入れるべき
①連名特許はPR効果が大きい、世界特許だから、海外のメーカーも目にする
②価格を一切下げない。しっかりと利益を残し、社員一人当たりの利益は
 一般的な会社の100倍以上

4.大手企業の資源を活用すべき
①大企業とのコラボレーション、特許の共同出願

岡野工業は、いわば世界に立った一人の職人技によって支えられています。
社員も増やさず、社長と6人の社員で10億円以上を稼ぎ出していますが今後、
どのようにして企業を継続させるかがカギになっています。

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(熟練加工技術を若手にどうやって伝えれば良いか?)

昭和8年生まれの岡野社長。金属深絞り加工の世界的職人として知られていて
いますが、これからの、職人技の伝承をどのように考えているでしょうか?

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