必要な「家族会」がいつしか誤った方向へⅢ

中光雅紀

中光雅紀

テーマ:解決のための視点

家族会で当事者同士が集まり、励ましあったり、慰めあったりするのは、あくまでも
引きこもるわが子の現実から逃げず、改善のためのはたらきかけができる元気を蓄える
ためです。
わが家だけではないという安心感を得て、情報を共有しあい、様々な視点を取り入れて
いく場です。
わが子にはたらきかけを継続して行っていくということが大前提です。
このことが忘れられ、親が安心感を得ることだけが家族会の目的となってしまっている
ようです。

そうするとどうなるか。
本来の目的よりも会の存続が最優先となってしまうのです。
存続のために、会を組織化していこうとしてしまいます。
運営側(世話役)をおき、代表者を定め、事務局などを設置していきます。
そうなれば、会費等を徴収せざるを得なくなります。

目的を見失うと会の維持が解決よりも優先されてしまう

家族会は組織にしないことが原則です。
必要な時に集まる〈集会〉でよいのです。
事務所経費や会報発行の通信費など、固定費をつくれば、会費をねん出するために会員の
退会を防ぐ、在籍期間をより長くという発想になってしまいます。
つまり、解決しないままの家庭が長く参加してくれていた方がよいわけです。

家族会に必要なものは、事務所でも会報でもなく〈先行く家族〉。
つまり、段階的な成果を出している解決に向かっている参加家族の存在です。
段階的な成果というのは、はたらきかけによって、自室から出てくるようになった。
外出するようになった。会話をするようになった。暴力がおさまった。家事をするように
なった。バイトをするようになった。外部のサポートを受けるようになった。など、
親の継続的な取り組みによって成し得た変化です。
これらの結果を出している〈先行く家族〉の存在が、新たな参加者に希望や挑戦への勇気を
与えるのです。

私が知り得ている範囲でも、その〈先行く家族〉がいる家族会はほぼありません。
特に長年会に尽力している世話役ほど、改善されていないようです。
だから長くおられるのでしょうが。
先のコラムでもご紹介したケースで、10年も家族会に参加していて解決がなされていない
ことに疑問を感じられませんか?
その疑問にお答えしていきましょう。

わが事から気をそらすために他人事に熱中する

家族会に長年参加していても、わが家の事態がいっこうに改善されていないのはなぜか?
特に運営側、世話役の方たちが〈先行く家族〉になりえていないことに他の参加者は疑問
を感じないのでしょうか。
疑問を感じた参加者は、会を離れていきます。

前に述べたように、家族会へ参加していることがトランキライザーとなり、ひととき親
としての罪責感や焦りを緩和してくれる効果があります。
ただし忘れてならないことは、わが子に向き合い、現状を改善していくための具体的な
はたらきかけを学ぶことです。
疾患や障がいの症状を学ぶのではなく(多少は必要ですが)、引きこもりという現象が起こる
背景、仕組みを理解する。
最も必要なことは、当事者たちの慟哭の中身(訴え)を知ることです。

家族会に参加することだけでとどまってしまっているのは、あたかも神経症を患っている
のと変わりません。
ユング(分析心理学)は「神経症とは常に、当然引き受けるべき苦しみの代用物なので
ある」と述べています。
どういうことかと言うと、わが子の引きこもりと真正面から対峙する苦痛から少しでも
離れたいがために、家族会の活動(代用物)に熱心になるのです。
わが家ではなく、他の家族のお世話に没頭する方もおられます。
ひきこもり者の中にも、政治や環境問題に熱弁をふるう者がいます。
これも同じです。

こういう笑い話もあります。
ゴミの分別に異常に厳しく、家族にもそれを強要する。
地球環境には優しいが、家族には厳しい引きこもり者です。
自身の問題から目をそらしたいために、他の問題に意識を向けるのです。
過度な潔癖や確認を繰り返す強迫性障がい(強迫神経症)が、引きこもり者にまま見られる
のもまさに同じ現象です。

動けるのは誰か?変えられるのは何か?有るものは何か?

そもそも、ひきこもり現象は、それを必要とするような家族関係の中から生じるものです
ので、その家族間の人間関係に適切に介入する支援がほどこされなければ、何らの効果も
ないのです。
ひきこもり問題を未だにひきこもり者達の問題としてしまい、就労を促したり、外出させる
ために居場所をつくったり、「来なけりゃ行こう」とばかりに訪問をかけたりと、して
しまっていますが、さしたる成果も見られない方法ばかりをなぜ繰り返すのでしょうか?
不思議でなりません。

動けない者を動かそうとするより、動ける者が先に動いた方が事が早く進みます。
芽がなかなか出てこない時、種をかち割って引き出しますか?
土壌改良をするでしょう。
「家庭」という庭の土壌改良を行うのです。
わが家の家風としきたりが、わが子の今を招きました。
家族会に参加し他の家族と接することで、わが家を一歩離れたところから観察して、
そこから得たもので、新しい風をわが家に吹き込むことが大切なのです。
元気よく芽吹ける環境(肥沃な土壌)を先に造っていくのです。

神経症的な家族会への参加は、かえって「8050問題」を促進してしまうことを次回は述べて
みましょう。

\プロのサービスをここから予約・申込みできます/

中光雅紀プロのサービスメニューを見る

リンクをコピーしました

Mybestpro Members

中光雅紀
専門家

中光雅紀(不登校・ひきこもり支援者(家族心理教育コンサルタント))

NPO法人地球家族エコロジー協会

トラウマの視点からひきこもりの原因を見える化していくアプローチを行い、そのもがきのプロセスから人間としての成長を果たし、ひきこもりから脱却。新しい自分に生まれ変わるような変化をサポートしていきます。

中光雅紀プロは九州朝日放送が厳正なる審査をした登録専門家です

関連するコラム

プロのおすすめするコラム

コラムテーマ

コラム一覧に戻る

プロのインタビューを読む

ひきこもる人、その家族を再生へと導くプロ

中光雅紀プロへの仕事の相談・依頼

仕事の相談・依頼