気づいてくれていたことが後から届く:関係性が育てる安心の記憶

鎌田千穂

鎌田千穂

テーマ:心のあり方のヒント

サウナ猫
シリーズVol.17をお届けします。
今回のテーマは…。
「気にしてくれていた」が届くとき。
関係性の中で育つ安心の記憶です。

産業カウンセリングの現場では、
時間が経ってから「気にしてくれていたんですね」と語る方が多いもの。
その瞬間、過去の沈黙や見守りが、ようやく“支えだった”と認識される。

今回は、そんな“届くまでに時間がかかるケア”と、
“関係性の中で育つ安心の記憶”について書きます。

そのときは気づかなくとも、後から思い出した

「何も言われなかったけれど、気にしてくれていたんだ」
「そばにいてくれたことが、今になってありがたかった」


そんなふうに、時間が経ってから届くことの方が多いもの。

産業カウンセリングの場でも、
「当時は気づかなかったけれど、あの沈黙が支えだった」と語る人がいます。

支援とは、すぐに届くものばかりではありません。
心を整え、受け入れられる心の広さが生まれて初めて届くことの方が多い。
だからこそ、関係性の中で、ゆっくり育っていく安心もあるのです。

1. ケアは、すぐに伝わらなくてもいい

支援の言葉や態度が、すぐに相手に届かないことの方が圧倒的に多いもの。
ですが、それは“意味がなかった”わけではありません。
相手の心が受け取れる準備をしていた時間が必要なだけ。

  • 沈黙の中で、そばにいてくれた
  • 何も言わずに、気配だけで寄り添ってくれた
  • 話すタイミングを待ってくれていた

そのときは気づかれなくても、
関係性が続いていることで、あとから届く支えになることが良くあります。

“やりたいこと” と “できること” は違う。

職業訓練校などで再就職支援をしていると、よく出会う場面があります。

それは——
「やりたいこと」と「できること」は違うという現実。
少しずつ受け入れて気づいていく過程。

この違いは、頭で理解するというより、
実際にやってみて、体感として自覚するものです。
けれど、現実を受け止めるのは簡単ではありません。

ときに、理想とのギャップに戸惑い、
気持ちの行き場がなくなってしまうこともあります。

その結果、産業カウンセラーに対して感情をぶつけてしまったり、
自分の主張を強く押し通そうとする場面も出てきます。

もちろん、八つ当たりをしても何も解決しません。
ですが、その背景には、「自分の理想を守りたい」という切実な思いがあるのだと理解しています。

2. “気にしてくれていた”届くと安心が芽吹く

ある日ふと、「あの人、気にしてくれていたんだ」と思い出す。
その瞬間、過去の関係性が、今の安心につながることがあります。

  • 忙しい中でも、目線を向けてくれていた
  • 何も言わずに、そばにいてくれた
  • 自分が話すまで、待ってくれていた

その記憶は、「自分はひとりじゃなかった」という感覚を育てます。

産業カウンセリングでは、
「今すぐ届く言葉」よりも、
「あとから支えになる関係性」を大切にしています。

3. 関係性があるからこそ、沈黙も届く

沈黙や見守りが支えになるには、
関係性の土台があることが前提になります。

  • 普段から気にかけてくれていると感じられる
  • 言葉がなくても、信頼がある
  • 距離があっても、つながりが続いている

その土台があるからこそ、
沈黙も、見守りも、「気にしてくれていた」として届くのです。

支援とは、言葉だけでできません。
関係性の中で育つ“安心の記憶”をつくることでもあるのです。

まとめ:経験の中でしか見えてこないこと

言葉で伝えるよりも、やっぱり経験がものを言う。
現場では、そう痛感することが多々あります。

感情的になって、自分の理想を追いかけて行動する。
その過程で、誰かを“攻撃対象”にしてしまうこともある。

それは決して望ましいことではないけれど、
その人にとっては「自分を保つための大義名分」だったりもするのです。

産業カウンセラーとしては、当たられる内容によっては正直しんどい。
時には、理想を押し付けられて迷惑に感じることもありますよ。

ですが、そんなふうに「何かと戦っている人」にとっては、
戦う理由が必要で、そこに支えられていることもあるのだと思います。

心の揺れを受け入れる

支援の現場では、理想と現実の間で揺れる人に寄り添う時間が続きます。

その揺れを否定せず、
「今はそういう時期なんだ」と受け止められる関係性が、
少しずつ安心を育てていくのかもしれません。

次回は…。

Vol.18|言葉にできないけれど、伝えたい
もがきの中にある力と、心の呪縛をほどく関わりについて

言葉にするにはまだ早い。
ですが、伝えたい気持ちは確かにある。

そんな“表現の手前”にある感情と、そこに込められた勇気について書いていきます。

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鎌田千穂
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鎌田千穂(産業カウンセラー)

Chi-ho’s studio

組織課題を広い視野で捉え、主体性を持った思考と行動力、公私の均衡を図る自律型人材育成を行うこと。分析・統計による業務改善の解決策を示し、個人の悩みを解き放ち、企業の繁栄に繋げることが専門です。

鎌田千穂プロは九州朝日放送が厳正なる審査をした登録専門家です

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