北九州若松の作家:火野葦平の生涯
目次
シリーズVol.13をお届けします。
今回のテーマは…。
伝えなくても伝わる瞬間。
——非言語が灯す人とのつながりについてです。
言葉が交わされなくても、
ふとした表情や仕草
沈黙の空気
遠くを見つめる視線
「何かが届いた」と感じることがありますよね。
産業カウンセリングの場でも、話す前の“間”や、語りの背後にある感覚から、関係性の深まりや感情の動きを読み取る場面が少なくありません。
今回は、非言語コミュニケーションの静かな力に焦点をあて、言葉を超えたつながりのあり方について書いていきます。
非言語がつなげる感覚のつながり
伝えなかったのに、伝わっている気がする
「何も言ってないのに、わかってもらえた気がする」
そんな瞬間に、ふと心の縛りが解けた経験はありますか?
対話の中で、沈黙の間にふっと安心が訪れたり、
目線が合っただけで「話さなくてもいいんだ」と感じたり。
産業カウンセリングの場でも、話すよりも“見守られる空気”によって、
クライアントの自己表現が静かに芽吹く場面に触れることがあります。
言葉の前にあった、まなざしや余白にこそ、人とのつながりの力が宿っていることが多いものです。
目線、姿勢、呼吸:小さな動きが語ること
話していない時間にこそ、関係性が動いていることがあります。
- 話し手が言葉を探しているあいだ、聞き手が焦らず待ってくれていた
- 沈黙のとき、相手の目線がふっと自分の手元に落ちた瞬間に、理解の予感が生まれた
- 「それ、難しいですね」と一緒に息を吐いてくれたことで、共有の感覚が芽生えた
非言語とは、ただの“無言”ではなく、“感じようとする動き”の表現。
言葉がなくても、「その人に心はちゃんと向いているよ」という意思は、非言語の行動からも伝えられるし、伝わるのです。
伝えないことが、安心になるときもある
「話さなくていいんだ」と思える瞬間は、
“語りを引き出されなかったこと”そのものが、支えになっていることもあります。
- 話す準備が整っていないのに、無理に問いかけられなかった
- 自分のペースを乱されずに、ただそこに居られた
- 沈黙の中で、相手の呼吸が自分に寄り添っていた
こうした非言語の時間には、
「そのままでいて大丈夫」というメッセージが静かに伝わります。
産業カウンセリングの場では、言葉を使わないことで生まれる安心が、とても大きな意味を持つことがあります。
非言語がつなげる関係には細やかな信頼が宿る
言葉を尽くすより、
ことばにならない感覚に一緒に居られることが、関係性の深まりに繋がるもの。
たとえば——
- 共感を表すのではなく、ただ頷くこと
- 理解しようとするのではなく、「わからないまま一緒にいる」こと
- 言葉の代わりに、姿勢や表情で「聴いていますよ」と伝えること
非言語コミュニケーションは、届かない言葉の代弁者。
ときに言葉以上に、その人らしさを支える感覚が共鳴型の言語にかわるのです。
まとめ:非言語は、静かに人を守るつながりのかたち
言葉が交わされなくても、
そこにある空気や気配の中に、人とのつながりは確かに息づいているものです。
表情の揺れ
沈黙の深さ
動きのゆっくりさ
それらに耳を澄ませていると、伝えようとする意思や、寄り添いたい気持ちが読み取れます。
非言語のコミュニケーションとは、
ただの“無言”ではなく、受け止める側の洞察力や感性を試される。
“伝わる” ことでわかる、言語の一つです。
働く場でも、支援の場でも、日常の関係でも——
言葉の手前にある静かなつながりに、もっと目を向けることができたら。
何かに追われることで影をひそめる日本人の美意識
日本人には古来より「侘び寂び」と呼ばれる、
質素さや閑寂、不完全さの中にこそ美を見出す独自の感性があります。
しかし——。
その美意識には、心に静寂が宿り、物事を俯瞰する冷静さがあってこそ。
現代の職場では、「経費削減」という大義名分のもと、
一人に課される責任が重くなり、余裕が失われつつあります。
私情が渦巻く中、社是や経営理念は、それぞれの小さな世界観に埋もれがち。
働く人々は、自分の役割や会社が、世の中にどのように役立っているのか、
「なぜ、必要とされているのか」に目を向けず、考えないし、考えようともしない。
「自分のため」に働いているという感覚の中に留まってしまう。
このような状況では、
たとえ大切なことを丁寧に言葉で伝えたとしても、
本来の意図とはまったく異なるメッセージが届いてしまう。
そのことの方が、ずっと、ずっと多いのです。
だからこそ、産業カウンセリングが必要。
自分のことを改めて振り返る場。
命を懸けて働く意義や目的や生きることについて問いを投げかけ、
自身の存在理由や存在価値を見つめて掴み取ることで、自覚する場でもあるのです。
次回の予告…
Vol.14|「言葉にしなくてもわかる」はほんとうか。
——期待とすれ違いが生まれる関係性の話。
言わなくても伝わる、という幻想と、実際に起こる“すれ違い”との距離。
その奥にある「理解されたい」という気持ちと、
「言ってしまうことへのためらい」について書いていきます。




