謹賀新年
目次
シリーズVol.12をお届けします。
今回のテーマは…。
言葉が行き交うだけでは、場は育たない。
空気・余白・間の力を捉え直すことのお話です。
職場のことだけでなく、
産業カウンセリングの現場でも同様。
「言った・伝えた・返した」という事実だけが並んでしまい、
場の呼吸が育っていないことや育ちがたいことがあります。
その言葉が置かれた
”空気感・余白・間” が育まれてこそ、職場や関係性は深まっていくもの。
今回は、そんな“言葉の周辺”にある、育てる力について考えをまとめました。
空気・余白・間が育てる「場のちから」について
言葉のやりとりだけでは足りない
言葉が整っていても、場が落ち着かないことがあります。
報告はきちんとされた。
言い方も失礼ではない。
ですが、そのやりとりがどこか“落ち着かない”ことがある。
産業カウンセリングの相談でも、
伝えているのに、伝わっていない気がする
返事はきたけれど、安心できていない
という声に触れることもあれば、私もそうお伝えすることがあります。
その背景にあるのは、言葉と気配がかみ合っていない場の空気。
つまり、言葉のやりとりだけでは、信頼も安全も育っていないのです。
1. 空気が整っていると、言葉の温度も安定する
言葉が届いたかどうかは、
その場の空気が受け取れる状態かどうかに左右されます。
たとえば——
緊張感が強く、どんな言葉も責められているように聞こえる
逆に、曖昧すぎる空気の中で、何をどう受け取ればいいかわからなくなる
タイミングや流れに配慮されておらず、聞き手が構える
産業カウンセリングにおいては、
言葉よりも先に、
「今この場は、どんな気配が漂っているか」を感じ取ることを大切にしています。
空気を整えることで、言葉に乗った思いが、ようやく穏やかに届きはじめます。
2. 余白は、「受け取る準備」ができる時間
働く場では、スピードや効率が優先されるあまり、
言葉の間にある“余白”が短くなりがちではないでしょうか。
次々と伝えられた情報が、処理される前に流れてしまう
フィードバックがすぐに返され、「気持ちを整える時間」がない
思いやりのある言葉でも、詰め込みすぎて温度が吸収されない
産業カウンセリングの場では、
あえて沈黙を挟んだり、
言葉の意味を置いて待つこともします。
…とはいえ、そればかりではいけませんけどね。
例えば、被害妄想を膨らませがちなケースでは、
言葉の意味を置いて待つことをしていると暴走を始める。
その状況と自己陶酔と悲劇の主人公スイッチが入るキーワードとタイミングを逃さず、敢えて口を挟むことも行います。
余白は、受け止める側が安心してその言葉に触れるための準備時間。
急がず、ほどよく間がある場にこそ、信頼が根づいていきます。
3. 間(ま)を大切にすると、関係性にゆとりが生まれる
「間」は、言葉の前後にある気配や流れを整える力を持っています。
- 話し出す前に、ほんの少し呼吸を置く
- 説明のあとに、「どう感じましたか?」という余韻を持つ
- 話し手と聞き手の間に、「それを一緒に考えてみる」時間を持てる
産業カウンセリングでは、
“何を言うか”よりも、“どう一緒に居るか”を重視する場づくりをします。
それは、対話そのものを急がないことって思った以上に大事だから。
間を持てる関係性は、互いに安心して動ける場を育てる素地になります。
言葉と沈黙、語りと気配。
——その呼吸を行き来できる空間こそが、「場」のちからなのです。
その場を育むことは日々の積み重ねから始まる。
一日や数時間程度で成しえることはできません。
まとめ:言葉の周辺こそが、場づくりの要になる
言葉は大切。
ですが、言葉だけでは場は育ちません。
必要なことは…。
- 空気:その言葉が届く温度やタイミング
- 余白:受け止めるための間合いと整う時間
- 間(ま):話し手・聞き手が一緒に居られる流れのデザイン
これらが色々な関係性と共に整ってはじめて、
感覚として届く対話が育っていくのです。
働く場にも、家庭にも、支援の場にも。
言葉の周辺にある“聞き合う呼吸”を大切にしていきたいと思います。
…とはいえ、人間は感情の良きものです。
早々に、そんなことができるかと言えばそうでもなくて。
日々、人間力を高める訓練をしろと言わんばかりに
避けて通りたいような “出来事” として、学ぶ機会が入れ代わり立ち代わり到来するもの。
次回の予告…。
Vol.13|伝えなくても伝わる瞬間——非言語が灯す人とのつながりについて。
表情、距離、仕草、沈黙
——言葉を使わずとも、確かに届いている瞬間。
そんな“ことばを越えたコミュニケーション”の美しさと可能性を書いていきます。




