「この品だけは残したい」――入居者の思いを、契約・更新時に聞いておく

全花連の花輪隆俊です。
「大家さん。私に何かあったら、部屋のことで、ご迷惑をかけるでしょう」
入院している松岡さんからの電話でした。
日本のある町で、小さなアパートの大家をしている千代さんは、その言葉に、すぐには返事ができませんでした。
「そんなこと、気にしないで」
そう言いかけて、口を閉じました。
気にしないでと言われても、気になってしまうから、電話をくれたのだと思ったからです。
松岡さんは、二十年以上、そのアパートで暮らしていました。
廊下で会えば、いつも少しだけ立ち止まる人でした。
「今日は冷えますね」
「雨、上がりましたね」
長い話をしたことは、ほとんどありません。
千代さんは、仕事や家事の手を止めて、「そうですね」と返していました。
電話を終えた千代さんは、管理会社へ連絡しました。
このアパートでは、以前から全花連安心サービスを案内しており、松岡さんも説明を受け、自分の意思で契約を済ませていました。
担当者は、契約書類と保険の内容を確認しながら、万一の後のお部屋の対応について、準備されていることと、確認が必要なことを一つずつ整理しました。
千代さんは、メモを取りました。
分からないことを、そのままにしないように。
松岡さんへ、根拠のない「全部大丈夫」を言ってしまわないように。
数日後、松岡さんの希望を確かめて、千代さんはお見舞いに行きました。
病室へ入ると、松岡さんは、ベッドの脇の椅子を指しました。
「すみません。忙しいのに。部屋の話でしょう」
千代さんは腰を下ろしました。
かばんには、確認してきたことを書いたメモが入っていました。
「聞きたいことがあれば、もちろんお話しします。でも今日は……」
そこまで言うと、松岡さんが先に頭を下げました。
「最後まで、大家さんの仕事を増やしてしまいますね」
千代さんは、かばんから手を離しました。
「松岡さん。私、まだ、お礼を言っていませんでした」
松岡さんが、顔を上げました。
「夫が亡くなった後のことです」
五年前。
千代さんは、夫を亡くしました。
朝、目が覚めても、隣の部屋から物音がしない。
食事を作る量が分からなくなり、用事がなければ、一日、誰とも話さない日もありました。
大家としての仕事は、続けていました。
家賃を確かめ、修繕の連絡をし、郵便受けを見に行く。
必要なことはできていたので、周りからは、普段どおりに見えていたかもしれません。
「ある朝、郵便受けのところで、松岡さんが言ってくださったでしょう。『今日は、いい天気ですね』って」
松岡さんは、少し考えてから答えました。
「そんなこと、言いましたかね」
「ええ。私、その日、初めて声を出したんです」
病室が、静かになりました。
「それから、朝、廊下でお会いするのが楽しみになりました。今日は何ておっしゃるかなって。雨の日も、寒い日も」
松岡さんは、布団の端を指でつまんでいました。
「私は、何も……」
「私には、うれしかったんです」
千代さんは、言葉を探しながら続けました。
「松岡さんは、ずっと『お世話になります』って言ってくださるけれど。私だって、お世話になっていたんですよ」
松岡さんは、しばらく黙っていました。
やがて、顔を少し横へ向けました。
千代さんも、急いで次の言葉を足しませんでした。
窓の外を、雲がゆっくり動いていました。
「今日は、お部屋のことだけで来たんじゃありません」
千代さんは、もう一度、松岡さんのほうを向きました。
「あなたに、会いに来たんです」
松岡さんは、目元に手を当てました。
「それなら……もう少し、いてくれますか」
「ええ。もう少し、います」
千代さんは、差し出された手を握りました。
鍵を渡したことはありました。
書類を受け取ったことも、何度もありました。
けれど、その手がこんなに温かいことを、二十年以上たって、初めて知りました。
私は、住まいを支える仕事の中に、こうした時間があってほしいと思っています。
全花連安心サービスは、生前の「死後事務委任契約」に基づき、亡くなった後のお部屋の解約手続きの支援、家財の処分、室内清掃・特殊清掃、完全消臭、鍵の返却までを支援する仕組みです。入院中の生活支援や見守りを行うサービスではありません。
大家さん・管理会社さん・入居者さんの三者とも、導入費・維持費は0円です。実際の作業費や保険料が、無条件ですべて無料になるという意味ではありません。家財保険への加入を前提に、契約や保険・保証の補償範囲、限度額、支払条件を確認します。導入には、大家さん・管理会社さん側の紹介代理店契約などの手続きが必要です。
万一の後の対応を、前もって確かめておく。
その備えが、目の前の人を大切にする時間も支えられるように。
「迷惑をかけてしまう」と気にしている方へ、伝えたいことがあります。
これまで、あなたの何気ないひと言に、助けられてきた人もいるかもしれません。
その人が、今度はあなたに会いたいと思っているかもしれません。
全花連 花輪隆俊
0120-152-431
電話受付8:00~18:00/メール24時間受付
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