不妊治療中の男性の禁欲期間は短い方が良いらしい
男性の年齢と精子DNA損傷の関係
男性の年齢が高くなるほど、個人差が大きいものの精液中に損傷したDNAを持つ精子の割合が高くなり、その傾向は男性不妊であろうとなかろと変わらないという研究報告がアメリカからなされています(1)。
精子のDNAが損傷を受けると精子の質が低下する
主に酸化ストレス(活性酸素のダメージが体に備わった防御力を上回っている状態)によって、精子のDNAが損傷を受けるのですが、DNAに損傷を受けた精子が多くなると胚盤胞到達率や妊娠率が低下したり、流産率が高くなることが知られています。
損傷したDNAを持つ精子の割合のことを精子DNA断片化指数(DFI)と呼ばれています。
若くても精子に問題があるかも
研究は、不妊クリニックに通院する男性25,445名と男性不妊でない男性87名からて提供してもらった精液の精子DNA断片化指数を測定し、年齢別グループ(20-29歳、30-39歳、40-49歳、50-59歳、60-80歳)で比較しています。
年齢とともに精子も老化している可能性
20代、30代、40代までは差はありませんでしたが、50代、60歳以上は統計学的に有意な差で上昇することがわかりました。
また、男性の年齢とDFIの関係をみてみると年齢が高くなるほどDFIが高くなりますが、上昇度合い(グラフの傾き)は、41.6歳を境に大きくなることもわかりました。
さらに、それらの傾向は男性不妊患者でも、そうでない男性でも変わらないこともわかりました。
精子は見かけではわからない老化がある
今回の研究で男性も年齢は高くなるに従って、精子の質が低下し、治療成績にマイナスの影響を及ぼす可能性があるということがわかりました。
そして、それは40歳を超えると顕著にあらわれるようです。
DFIの主因とされている酸化ストレスは喫煙や多量の飲酒、ストレス、肥満、食生活、不規則な生活、激しい運動などが招くことが知られていますが、40歳を超えると、不健康な生活習慣に対する抵抗力が低下し、まずは、精子の質を損なうようです。
精液検査が正常でも妊娠できない
たとえ、男性不妊でなくても、すなわち、精液検査で問題がなくても年齢が高くなると精子の質が低下する傾向があるということです。
これまで、男性に対する不妊検査は、唯一、精子検査のみで、100年間、続けられてきました。
この検査で測定されるのは、精液量、精子濃度、精子運動率、正常形態精子率で、もちろん、これらの結果は、男性不妊の治療方針を検討する上で重要ですが、この検査のみでは精子の質、そのものは充分に反映できていない可能性が指摘されてきました。
その精子の質を間接的に測定するのが精液中酸化還元電位(ORP)検査、そして、精子の質をダイレクトに測定するのが精子断片化指数(DFI)検査です。
ORP検査とは、精液中の酸化ストレスの強さを測定する検査です。そして、DFI検査では、酸化ストレスで精子のDNAが損傷を受けた精子の割合を測定する検査です。
最近、これらの精子機能検査を実施するクリニックが、少しずつ増えてきていますが、まだまだ、どこのクリニックでも受けられるわけではありません。
二人で妊活する時代
精子の質について知っておきたいことは、たとえ、DFIが高くてもパートナーである女性の卵子に修復機構が備わっていて、受精後に修復されるものの、女性の年齢が高くなるにつれて、卵子の修復能力が低下するということです。
要するに、女性の年齢が高くなると精子のDNAの損傷の影響を受けてしまうということです。
そのため、男性も精子の質の維持が求められます。
そして、精子は毎日つくられていることから卵子に比べて、質の改善や維持が期待できます。
実践すべき男性の妊活
1)禁欲期間を長くしない
2)2、3日に1回は射精する
3)精液中に新しい精子の割合を多く維持する
4)禁煙する
5)バランスのよい食生活
6)ストレスマネジメント
7)抗酸化サプリメントを摂取する
ことです。
カップルの年齢が高くなるほど男性の取り組みが大切になってきます。
文献)
1)Fertil Steril 2020 Article in Press