収納計画のポイント2〜片付けしやすい収納とは?
日本の伝統的な家屋に使われてきた引戸。そのため引戸=和風のイメージがあるのか、洋風のインテリアでは、無意識に開き戸タイプのドアが使われることが多いように思います。 ですが、使い方を間違えなければ、現代のモダンリビングに引戸を使うメリットはたくさんあります。今回はそんな引戸のメリットとデメリットを、事例と共にまとめました。(下の写真は桂離宮/津野恵美子撮影)
<<<引戸の基礎知識>>>
開けるための動作空間
まず、引戸と開き戸の一番の違い。それは、開けるときの人の動きです。 開き戸は、開けるときも閉めるときも、一歩前進、または後退しなければ開け閉めできないのに対して、引戸は一点に立ち止まったまま開閉できます。 健常時には、問題ない一歩でも、バリアフリーの観点では大きな違いがあるため、介護用リフォームで引戸が多く使われるのはそのため。ですが、重いものを持ったり、赤ちゃんやペットを抱いた状態など、両手がふさがった状態で出入りしたい時。或いは怪我をして松葉杖が必要なときなど、健常な方でも一時的にバリアフリー が必要なときがあるので、ユニバーサルに誰にでも優しい環境を作っておくことは重要です。
また、開き戸を中途半端に空いた状態のままで止めるのは、邪魔だし風で閉まったりと難しいですが、引戸なら好きな位置で止めておくことができるので、室内換気にも有効です。
引戸の種類と特徴
最も一般的で簡易なのが床と上枠に薄い溝が掘ってあって、その溝を引戸が滑ることで開け閉めするタイプ。ただ、このタイプは扉重量が軽くないと開け閉めが重いのがネックになります。昔は襖や障子など、軽い引戸が一般的でしたが、洋風住宅では、ドアと同様の板戸が好まれる傾向にあるため、使い勝手が悪くなりやすいです。
次に一般的なのが、引戸の下に戸車がついていて,床に埋め込まれたレールの上を走行するタイプ。これならば、板戸の重さでも、車ですいすい動きます。ただ、階下に走行音が響くときがあるので、寝室の上や古いマンションの改装や二世帯住宅等、使い方や戸車の種類を注意した方がいい場合も。
最後が上吊戸。天井や上枠にレールを入れて,引戸上部の車の着いた吊金物で開け閉めするタイ プ。床にレールが出ないので、音が響くこともなく、またお掃除もしやすいです。ただ、天井に重量がかかるのであとからの補強は難しく、最初から計画しておかないとつかない場合が多く、また金額も前述2タイプより割高です。
<<<引戸の使い方事例>>>
次にいろいろな事例写真と共に、どんな使い方ができるのかを見てみましょう。
動く壁としての引戸
リビングと連続して二つの個室があるお宅です。 夫婦お二人のお住まいなので、普段は写真のように開け放して暮らしてますが。
黄色の部分が引戸を閉めたところです。昔の家なら襖で仕切っていたような使い方ですが、エアコンのついた壁と同じ白いシナベニアのパネルとして、開けていても閉めていても、違和感のない仕上としました。
光と風を共有する家
何役もこなす引戸
正面のソファの先の箱のような家具。 ここの正面、実は二枚の引戸となっていて動きます。
引戸を左右に動かすと、奥の寝室を閉じることができると同時に、少しだけ開ければ、中央のウーハースピーカーが顔を出し、左の引戸を右に動かすと、DVDやゲームなどのオーディオ機器収納が出てきます。一本線の上を自由に動いたり止まったりできる引戸の性質を利用して、何パターンもの使い方が可能です。
スキマのある家
見えない引戸
リビングから二階の子供部屋につながる階段。明るく、連続感のある設計を好まれる方が多いですが、案外冬は寒いものです。とはいえ連続感は残したい!そんな場合の見えない引戸です。
透明なアクリルの板を二点で吊っていますが、上の写真は開いているところ、下の写真は閉まっているところです。連続感や明るさにはほとんど差がありません。 開き戸だと、動きが大きいため,その分扉や枠や金物に強度が必要になるので、こうはいきません。引戸ならではの風景です。
スキマのある家
将来のための引戸
トイレと洗面所が隣接する水回り。コンパクトにまとめられた水回り空間ですが、黄色い面に引戸が収納されていて、トイレと洗面を仕切ることができます。 そして引戸が収納される壁も、扉と同じ白い板パネルでできています。 これ、実は将来バリアフリーを考えるならとても重要なことで、体が不自由になったときに、それがどの程度の不自由さになるのかなんてまだ誰にもわかりません。今開口として開いている範囲だけで通り抜けられる程度か、もっと広く必要か。全てパネルで作っておけば、その時々の状態に合わせて、外すことも可能です。
光と風を共有する家
ものを掛けられる引戸
玄関の正面にある白いパネル。引戸になっていて、中からシューズクローゼットが出てきます。 この引戸は外付け方式で、壁の前をパネルだけが動くタイプです。
一見ただの白いパネルにも見えますが、お施主さんはお気に入りのアンティークフックを取り付けて、キーフックとしていました。開き戸に何かをぶら下げると、ガチャガチャと音が鳴ったり扉に傷をつけたりしてしまいますが、引戸ならば直線上に静かに動くので、ものを掛けることも可能です。
光と風を共有する家
<<<まとめ>>>
引戸のメリットはなんといっても省スペース。 動作空間が小さく、バリアフリーにも対応可能で、狭い部屋でもドアの開け閉めでぶつかったりしないし、途中で止めることも容易なのでいろいろな使い方が可能です。
デメリットは音。 開き戸よりスキマが多いので、遮音・気密が必要な間仕切には向かず、また引戸の動作音が気になる場合もあります。
ですが、長短所をよく理解した上で、適材適所にうまく使いこなせば、こんな便利な仕切もありません。
みなさんの暮らしにはどんな仕切り方が合っているのか、考えてみませんか?
関連コラム:オープンでもクローズでもない、キッチンとダイニングの仕切方