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津野恵美子

くつろぎを寸法という数字に置き換え、住まいをつくる一級建築士

津野恵美子(つのえみこ) / 一級建築士

一級建築士事務所/津野建築設計室

コラム

収納計画のポイント2〜片付けしやすい収納とは?

2018年3月23日 公開 / 2019年1月20日更新

テーマ:インテリア

コラムカテゴリ:住宅・建物

前回は、モノと建築の基準寸法を元に、効率のよいスペースの作り方についてお話ししました。
とはいえ、「適切な収納」を設計するのに、前回の話はまだ道半ば。
繰り返しになりますが、適切な収納の条件は、入れるモノ、動線、動作姿勢が全て適切な寸法で計画されることです。
モノにとってぴったりな寸法でも、人間に無理が出るようでは、結局使わない収納となってしまいます。

・作業姿勢に無理がないこと
・全てのモノに対して居場所を与えること
・可変性があること

人にとって優しく使いやすい収納の条件は以上の三点と考えています。
具体的にはどんなことでしょうか?

作業姿勢に無理がないこと

人が無理なく作業できる高さ寸法には、学術的に統計処理されたデータがあります。
これを読み解くと、身長160cmの女性であれば、184cm以上の収納はあっても出し入れ不可。動作的にやりやすい範囲は72cmから136cmの間。となります。


            日本建築学会「コンパクト建築設計資料集成」より抜粋

「あれ?思ったより狭いな?」とか「もっと広い範囲を問題なく使えているのに!」って思った方も多くいらっしゃるのではないかと思います。
日本の住宅事情は厳しいので、上記の寸法内だけにしか収納を作らなかったら全く足りないと、床から天井いっぱいまでぎっしり詰め込むことも多く、その状況に慣れてしまっているのが原因です。(前回の事例もその一例ですが..)
とはいえ、身体的に無理のない寸法をまず把握することは大事なことです。
収納しやすいといわれる72cm〜136cmの範囲をゴールデンゾーンとして、しょっちゅう出し入れする頻度が一番高いモノをしまう場所。
136cm〜184cm。32cm〜72cmの範囲をシルバーゾーンとして、次に頻度高く使うモノをしまう場所。
それ以上の範囲を踏み台を使わなければ取り出せないグレーゾーンとして、滅多に使わないモノをしまう場所と位置付けましょう。
(前回把握した「頻度のグループ分け」はここに生きてきます)
なお、下の範囲のシルバーゾーンは、戸棚ではなく引出とすると、上からの動作でできるので、モノの出し入れや確認が楽にでき、本来ゴールデンゾーンにしまいたいモノをしまっても負担は少ないです。
また、上の範囲のシルバーゾーンの場合、奥行き設定も重要なポイントとなります。シルバーゾーン内でも45cm、60cmといった深い収納になると、結局奥のモノは目も手も届かず死蔵ゾーンとなってしまいます。上吊り棚や高い位置の本棚の奥行きは、できるだけ浅めに計画しましょう。

ここで気をつけなければならないのが、グレーゾーンの範囲を、天袋や吊戸棚のように、普段見えない収納にしてしまうと、結局開かずの収納となってしまい、何をしまったかわからない場所となってしまうこと。オープン棚とするか、戸棚とする場合は必ずシルバーゾーンと一緒に開けられる扉の計画にしましょう。


写真の事例の右側の白木パネルは、中が押入となっていてパネル状の引戸を開けると、押入棚と上棚が出てきますが、毎回全て見通せるので、入っている物を忘れてしまうことは少なくなります。
また、デザイン的にも、モダンでシンプルに納めることができるので、シンプルなデザインが好きな方なら一石二鳥です。

全てのモノに対して居場所を与えること

全てのモノをしまう場所が決まっている、というだけではなく、全てのモノを「使う」場所に居場所を作ってあげましょう。
例えば洋服。
各個室にクローゼットが備え付けてある家が多いかと思います。朝起きて個室で着替えをして..という流れを考えれば、もちろん一つの正解ですが、下着やパジャマなど、夜お風呂に入るときに毎回持っていくのか、とか。共働きで週末に集中して洗って乾かしたモノ達を、毎回それぞれの部屋に配って回るのか、とか。考え始めると必ずしも個室にクローゼットがあることが正解とは限りません。
下着やパジャマを家族分しまっておける、小さな戸棚や引出が洗面所にあったら便利ではないか、とか、クローゼットは乾燥部屋の隣に大きな共用クローゼットがあって、すぐにしまえたり、忙しいときは乾燥部屋が共用クローゼットの延長として使えたりできたら便利ではないか、とか。家事の効率化は、一動作をいかに減らせるかにかかってきます。
暮らし方によって、モノの居場所は千差万別。一般的な方法があなたの正解とは限りません。本当にしまうべき場所はどこか。一度白紙の状態から考えてみてはいかがでしょうか?


上の写真は、浴室—洗面所—ランドリーが一直線に並んだ配置の事例です。
奥に位置するランドリーの天井には埋込型の物干し竿が入っていて、部屋干しの他、雨や汗でちょっと塗れたモノを掛けておける場所です。
洗面所の左側の壁は一面30cm奥行きの薄い収納で、タオル類だけではなくちょっとした着替えも収納可能。
タオルウォーマーは、使用済みのバスタオルを乾かしてから洗濯カゴに入れられるので衛生的です。

可変性があること

「モノに居場所を作ること」と「可変性があること」一見矛盾するようですが、両方とも大事なことです。家というのは建てたら(或いはリフォームしたら)最低でも二十年は使います。
今生まれたばかりの赤ちゃんも、その頃には成人して、家を出て行くかもしれない。その時に、本当に子供の頃だけをイメージした収納計画で大丈夫ですか?
今必要な収納が、五年後十年後に他の目的に転用できるか。収納を計画する際は必ずその視点を忘れないようにしましょう。もし五年間しか必要ないと判断できる場合、IKEAなどの安価で素敵な置き家具で対応するのも手だと思います。


このパースは今工事中のお宅の和室です。左側に床の間があって窓にはモダンな障子がはまっている、最近ご要望が多いモダン和室の一例ですが、実はこの床の間、奥の布の先には、隣の予備室のクローゼットがつながっています。
今はお子さんが小さく、個室を必要とするのはまだ先なので、最初は和室側は床の間、予備室側は共用の収納として使う予定ですが、10年たって、お子さんが大きくなって完全個室が必要になったり、モノが増えたりしたら、床の間には引戸を取り付けて、棚柱で収納を作る予定です。そして、お子さんが独立して、予備室を使う頻度が減ったらそちらの巾も和室からの収納として使えます。

以上二回にわたって、モノからの視点と使う人からの視点で、収納について考察しました。設計を承るどの家でも、収納は永遠の課題。年月が立っても100点満点の収納というのは夢物語かもしれないと思うこともありますが、80点、90点の及第点は取れるよう、日々研究とアイデア出しにいそしんでおります。
みなさんにとっての理想の収納とは何か。一度見直してみてはいかがでしょうか?

この記事を書いたプロ

津野恵美子

くつろぎを寸法という数字に置き換え、住まいをつくる一級建築士

津野恵美子(一級建築士事務所/津野建築設計室)

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