収納計画のポイント1〜収納量が格段に上がる!クローゼットの作り方

津野恵美子

津野恵美子

テーマ:インテリア

前回「光と風を共有する家」をベースに、家とモノの関係についてお話ししましたが、今回はもう少し収納計画に特化したお話をします。

不動産では、収納は面積で表されることが多いです。もちろん不動産の世界では、不特定多数の方に向けて共通の指標で見せる必要があるので、やむを得ないところですが、本来収納は、入れるモノ、動線、収納を出し入れするときの動作姿勢などが全て適切な寸法で計画されて始めて、本来の力を発揮するものです。
ではどのように考えれば適切な寸法で計画できるのでしょうか。


            収納の悩みは人それぞれで、絶対的な正解がないのが難しいところ..

私が住宅の収納を設計する際は、以下の手順で設計を進めることが多いです。
・最もボリュームの大きな物品の把握
・頻度のグループ分け
・モデュールの整理

最もボリュームの大きな物品の把握

どのお宅でも、特徴的に多いモノ群が存在します。
洋服・靴・本・コレクション類・趣味用品等がよくある例ですが、まずはそれらの寸法や数量を把握します。数量の場合、具体的な数ではなく、本棚何m分、クローゼットパイプ何m分、といった寸法で把握できるとよりスペースのイメージを共有しやすいです。

ちょっと脇道にそれますが、案外場所を取る割に見過ごされがちなのが、洗濯物(部屋干し・洗濯待ち含む)です。洗濯や乾燥の方法・頻度は各ご家庭にルールがあると思いますが、そのルールに適した収納やスペースを確保しておかないと、気づけば家の中にいつも洗濯物が吊ってあったり、かび臭い匂いが出てしまったりの原因となります。

頻度のグループ分け

毎日使うモノか、月に数回使うモノか、年に数回使うモノか、使わずに飾っておくモノか。それによって適した収納方法や動線が変わります。

モデュールの整理

「モデュール」。耳慣れない言葉だと感じた方が多いかと思います。
モデュールとは建築する際に用いられる基準寸法。
昔は尺貫法と呼ばれる昔ながらの単位で、畳や柱間の寸法など全て規格寸法で作られていました。現代でも木造住宅であれば三尺=91cmを基準寸法として、間取りが組まれることが多いです。
ただ、ここで重要なのは、収納の基準寸法をいくつにするかを決めること。その中に入れるモノの寸法。またはモノを入れるボックスの寸法など、前もって検討しておかないと、ほんの些細な寸法の違いで、収納力が大きく違ってきてしまいます。

事例紹介

今回ご紹介するのは洋服・靴のクローゼットの事例です。
私が設計をするときは、計画上無理がなければ、ウォークインクローゼットとするか、大きな引戸で全開放できるクローゼットを計画することが多いです。
工事費のうち、ドアの金額というのは比較的高い金額設定である上、開き戸や折戸は、動作寸法が必要になるため、家具なども置けず、不用なお金やスペースがかかることが多いからです。

前回に引き続きご紹介する、「光と風を共有する家」の靴と洋服のクローゼットも、ウォークインクローゼット型。それも靴収納とクローゼットが引戸でつながっていて、通り抜けできるプランです。
上に寝室が乗っている範囲は天井高が1.4mと低かったため、平面的にも断面的にもスキマなく効率的に収納する計画が求められました。



設計に先だって、まずは洋服の収納方法について、ハンガー吊りと引出収納とどちらが多いか、ご検討頂きました。そうすると、量的には半々くらい。またハンガー吊りの必要高さは、現状では中くらいのコート程度。とはいえ、将来ロングコートが大流行するかもしれませんし、ハンガーの高さの可変性を担保するためにも棚板とハンガーパイプの高さを変えられる棚柱システムと、無印のPPケースの組合せで収納を作ることになりました。
また靴については、コレクション的な色合いが強いため、若干出し入れしにくかったとしても、お店のように靴を前後に並べてもいいから最大限の容量を取れるようにして欲しいとのご要望でした。またブーツなど背が高い靴はさほど多くなく、基本的にはスニーカー、革靴がメインとのことで、通路スペース以外を密に組んだ棚板で埋め尽くすような計画になりました。

次に実際の寸法の決め方についてです。

奥行きと高さの決め方

一般的にクローゼットの奥行は60cmといわれていますが、一般的なハンガー寸法は45cm〜50cm。ダウンなどのボリュームの大きな服は55〜60cm必要となりますが、ウォークインクローゼットであれば、はみ出しても一部の通路が狭くなるだけなので、その分のスペースをリビングに回せます。
収納断面

このお宅では、リビングの広さや構造とのバランスを考慮して、部屋の短手巾は柱間で1820mm(構造モデュールに則った一間巾)としました。部屋の有効は1660mmで、46cm-60cm(通路)-60cmの割り振りです。
収納部を53cmずつにするという選択肢もありましたが、狭い方を夏服用、広い方を冬服用とすることで、それぞれに必要な奥行きの違いを解消することにしました。
将来的にハンガー吊りの服が増えた場合は、図の右側のように、ハンガーパイプを二段にして、上下に吊すことも可能なのは、棚柱システムを使う大きなメリットの一つです。
同じシステムを使って、パイプの上には棚板を一段取り付けて、鞄や帽子など小物を置くこともできます。

巾の決め方

引出などは既製品のクローゼットケースを使った方が、安価で可変性も高いため、それを元に設計することが多いです。
その時に問題になるのが、既製品と建築のモデュールの違い。構造まで全て収納のモデュールに合わせてしまうと、建材の端切れが増えて、高く付いてしまうので、構造には絡めずに、いかに効率のよい基準寸法を見つけるかが鍵となります。
下の図面は、光と風を共有する家の、二段に積まれた収納エリアの立面図です。
平面・断面的にもスキマなくモノが収納できる計画となっています。
収納展開

既製品をうまく使うこと

ここで重要なのは、基準となる既製品寸法はロングセラーの汎用品とすること。セール品よりも単価は多少上がるかもしれませんが、増やしたり取り替える際も、同じものを使うことで、無駄なく効率的な収納が実現できますし、引出だけを抜き差しすればいいので、衣替えの手間もぐっと減ります。
また、ハンガーパイプや棚を棚柱システムで統一することで、こちらも状況に応じて、高さや位置を入れ替えできます。
棚柱は、店舗などにもよく使われており、部屋の大きさに合わせて細かに寸法を調整して設置できるので、つい場所毎にピッチを決めてしまいがちですが、可能であれば家全体の棚柱のピッチを合わせておけば、棚やパイプを簡単に入れ替えできるので、無駄をなくして収納力が上がります。
royal引用
                  棚柱例: ロイヤルAAサポートHPより写真引用

このように、収納は平面的にも断面的にも数cmでも寸法を間違えただけで、収納量が大きく変わってしまいます。丁寧に計画することが重要です。
では、それだけを考えれば使いやすく片付けやすい収納が作れるでしょうか?次回後編では、使いやすさ・片付けやすさを主眼に収納計画を考えてみましょう。


この家の詳細は津野建築設計室HPでもご紹介していますので、ご覧下さい。
光と風を共有する家/津野建築設計室

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津野恵美子
専門家

津野恵美子(一級建築士)

一級建築士事務所/津野建築設計室

人がもともと持っている心地よさを感じる「寸法感覚」を利用し、外部環境や家族との関係を踏まえながら、心地よさという漠たる感覚を数値化して、空間や暮らしに適切な寸法を与え、家族ごとに暮らしやすい家を実現。

津野恵美子プロは朝日新聞が厳正なる審査をした登録専門家です

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