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自律型組織へのチェンジマネジメント その13 まとめ 2つの倫理体系

安澤武郎

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テーマ:マネジメント

 組織力が競争力になる時代になりました。「競合との戦い」ではなく「社会の変化との戦い」が求められる時代において、自律型組織への転換はMUSTでしょう。そして、この自律型組織への転換は経営者の仕事です。

 そこで、経営者に考えてもらいたい視点を最後に用意しました。「あなたが大切にしている価値観は以下のどちらでしょうか?」

 古今東西の道徳律を調査したジェイン・ジェイコブズという都市研究家が、人類が二種類のモラル体系を構築することを見出しました。一つは集団の秩序を維持するための「統治の倫理」で、もう一つは商取引など他者との協力関係を築くのに必要とされる「市場の倫理」です。


2つの道徳律


 前者は、その集団に属することで安心が得られますが、裏切ると村八分にあう世界です。組織のルールから外れないこと、ルールを守ることが尊重されるため集団に属する人は思考停止に陥りやすいのが特徴です。計画的パフォーマンスには強いですが、適応的パフォーマンスを発揮する際に弱くなります。マフィアやナチス・ドイツのように非人道的な方向に進んでしまうこともあります。

 一方、後者は、世間の中で信頼されることで生きていける社会です。嘘をついたり信頼を裏切るような不誠実なことを行うと存在できなくなります。誠実な仕事によって対価を得るため、効率を高めたり、創意工夫でサービス価値を高めるなど、自分を磨くことを大切にします。

 歴史を見ると、短期決戦では、前者に分がありますが、長期戦では後者が有利であるように思います。例えば、中世地中海で貿易戦争を繰り広げたマグリブ商品とジェノバ商人の事例です。マグリブ商人は身内集団主義の組織を構築しました。仲間内だけでの貿易を行い、裏切り者は排除するスタイルです。一方、ジェノバ商人は契約によって誰とでも貿易を行いました。最終的に勝利を納めたのはジェノバの方です。

 身内集団主義の組織は、成長している間は強いのですが、いったん成長が止まり、組織を維持することが目的になると不祥事を起こしがちです。イノベーティブに外部の知見を取り入れ、自己変革をするのではなく、より強固に集団の結束を高める方向に進みます。組織の調子は悪くとも、「大丈夫だ」と問題を隠し、見栄をはります。

 どちらの思想で経営をするかはとても重要です。武士道を学んでいる経営者は、主君に従う身内集団主義を是とした考えがあるかもしれません。その思想のままで自律型組織を構築しようとするとうまくいきません。「自律型組織へのチェンジマネジメント その3」でも書きましたが、ドラッカーが目指した組織は開放個人主義です。MBOもその組織文化を前提に提唱されています。しかし、日本ではその形のみが取り入れられ、身内集団主義の組織の中で活用されたので別物になってしまったのです。

 これからの時代に通用する自律型組織を作りたいのであれば、開放個人主義に徹することです。身内集団主義を残したまま都合の良い部分だけ開放個人主義に変えてもうまくいきません。もし、経営者ご自身が身内集団主義の価値観を持っているとしたら、自分の変化量を最大化することが成功の鍵です。組織の変化が足りないのは、自分の変化量が足りないからです。

 京大アメフト部には「最初の一歩と最後の一歩」という教えがありました。まず、熟慮した上で、「何があっても成し遂げる」と自分の腹を決めることが最初の一歩です。そして、迷いなくプレーができるようになるまで自分のやるべきことを実践することが最後の一歩になります。組織を自律化するという取り組みは、一貫した考えを持って、数年単位で取り組むことが必要になります。取り組まれる際には、熟慮の上の決断によってスタートをして欲しいと思います。

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安澤武郎
専門家

安澤武郎(経営コンサルタント)

株式会社熱中する組織

どのような組織にも「常識の壁」「アクションの壁」「スキルの壁」「仕事のやり方の壁」「コミュニケーションの壁」「情熱の壁」があり、能力を活かしきれていません。その壁を取り除き、組織を生まれ変わらせます。

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