思考は現実化する
【アプローチ⑦:成長の階段を作る】
自律型組織は一度作って終わりということはありません。「自律型組織へのチェンジマネジメント その2」でも記載したように、組織の成長に合わせて新たな落とし穴が現れ、気を許すと他律に陥ってしまいます。「おごるなよ。まるい月夜も一夜だけ」という戒めの言葉がありますが、成功した時、調子の良い時にこそ「居着かない姿勢」が求められます。
居着かないために必要なことは「環境の変化に適応すること、先回りをすること」です。常に世の中は変化をしていますので、今が絶頂だとしても、将来のありたい姿と比べれば「これで良い」というものはありません。これからの世の中に提供できる価値は何か?ということを考え直し、ビジョンを更新し、外向きのエネルギーは常に高めていくことです。また環境の変化という意味では、内部環境の変化への対応も大事になってきます。例えば、人財の新陳代謝を健全に進めることは組織運営において重要なテーマです。強い成功体験を持つメンバーで固めてしまうと、変化が難しくなりますし、新たな機会設定をして、惰性に陥ることのないようにする工夫は必要です。
「組織メンバーのキャリアライフを考え、その組織で活動をする期間中に成長し続けられる階段を準備する」ことが一つの方法です。その階段には、新しい事業を順番に経験させるような水平方向のチャレンジではなく、個のライフサイクルを意識した垂直方向のチャレンジができるようなデザインが求められます。どんな人であって現代社会で活躍し、本人の思い描くような人生を歩むためには、「人を介してものごとを成し遂げていく力」が必要になります。信頼を積み重ね、人に応援され、人を感化する力をつけることができれば、最終的に夢は他人が叶えてくれます。そして、ある年代になれば、自分の蓄積したものを世に還元し、自分がいなくなった後に後進が活躍できるようにバトンを渡していくことが健全な姿です。それが自然の摂理であり、自然の摂理に従うことで生命は輝きます。
自然の摂理とは一言で言うと「循環」です。木の成長に例えるならば、まずは生きていく力を蓄える「自己成長」です。地中に根をはり、枝を伸ばし、太陽の光をしっかり受け止められるように葉を生い茂らせます。次に蓄えた力を大いに発揮する「社会貢献」です。大きく伸ばした根で地盤を安定させ、鳥など動物の住処としての役割も果たし、光合成で酸素を作ります。木にとってみれば生命を維持することが周辺への貢献になっています。そして、自身の能力を後進に伝達していく「子孫育成」になります。種子を飛ばし、しっかり育つまで風雨から守ります。最近の研究(カナダ・ブリティッシュコロンビア大学 森林科学のスザンヌ・シマール教授の研究)では、木には地中で栄養分を伝達する能力があり、「母木」は自分の子供を認識します。自分の子供の木により多くの栄養素を送り、子供の木の成長のためにスペースを空けることもするようです。最後は「自然還元」です。土に還って子孫が生命維持をする栄養素となるのです。
自律型組織の構築を目指す組織においては、まず組織の中で役立つ存在になるための「自己成長」からスタートし、蓄えた力を活かしながらチームを率いて「社会貢献」をしていくステージに上がります。ここで言う「社会貢献」とはボランティアではなく、本業を通じて社会に価値提供をしていくことです。売上金額とは社会に必要なモノゴトを提供した大きさを表す指標であり、最大限に貢献をするということは業績を伸ばすこととイコールです。チームを率いる際に「自律型組織の本質」を体得することが求められます。次は、自分と同じように自律型組織を運営できるリーダーを育てる「子孫繁栄」のステージになります。多くの企業では、このステージが欠落しています。キャリアライフの最後まで業績を伸ばすことに汲々とし、後進の育成が疎かになっている企業がほとんどです。これが組織の中でなされないと、いったん作り上げた組織の自律性はすぐに失われてしまうでしょう。自律型組織を運営できる後継者を生み出すことができれば、立場を降りて自由になれます。何事にもとらわれることなく、知恵の伝承を進める姿こそが、後進に目指すべき道を示し、勇気を与えます。
この自然の摂理に沿った成長の階段は、「指導者の育成」をできるようになるまでは自己変革をし続けることが必要になります。「実務者の育成」と「指導者の育成」ではアプローチが異なります。ここについてはまた別の機会で詳しく書きたいと思います。