年始の目標を立てた人のうち80%が2月半ばまでに脱落している
【アプローチ⑥:相互支援ネットワークを築く】
役割が明確になり、自分のクリアすべき目標が明確で、フィードバックサイクルを回す仕組みが運用できたとしても安心してはいけません。自律型組織になるまで継続的な学習と成長を繰り返す体質作りが必要になります。相互支援ネットワークを発達させ、安心して挑戦、失敗できる環境が必要になります。相互支援ネットワークをもう少し具体的に言うと、周りのメンバーが仲間で、困った時に相談できる、協力支援をしてもらえる、という環境のことです。
「心理的安全性」の概念は世の中に広まりましたが、いかにこの状態を作るかにおいて、試行錯誤が必要になります。チームへの/他者への貢献が評価・賞賛され、スポットライトが当たることが必要です。私がかつて所属した京都大学アメリカンフットボール部では、チームに貢献する勇気あるプレーをした選手に「プライドマーク」というステッカーが配られました。力ある選手が普通に良いプレーをしてももらえません。体を張ってリスクテイクをして勝負をしているかどうか、その役割に意義がある場合にもらえます。もらったステッカーはヘルメットに貼られるのですが、チームにおいて何が大事にされているかをチーム内に知らしめる上で非常に有効な手段でした。
私のクライアントの一つの事例を紹介します。この企業では毎週「今週果たすべき自分の役割」を記載し、リーダーとコミュニケーションをとりながらフィードバックサイクルを回し、力量アップを図っていく取り組みを行いました。多くの企業で取り組まれていることですが、このような取り組みのポイントは「二遊間のゴロに飛びつく」ことを称賛する点にあります。役割分担を明確にすると、部門間、役職間の隙間の仕事が出てきます。他者・他部署との協力なしに成果を上げられるように業務設計ができれば良いのかもしれませんが、そのような状況を作れることは稀です。他部署と協働で取り組むべき活動を自ら提起し、積極的に進めていこうという活動です。「役割範囲を広げる」ことを求めるのはアメフトと同じです。自分の役割範囲を疎かにして他者をヘルプすると言うことではなく、自分の役割範囲を広げて他者をカバーできるように力量をあげましょうと言うことです。個々の選手が役割範囲を広げてば穴のないチームが出来上がっていきます。
この活動を促進するために、毎週記載するレポートには、「今週果たすべき自分の役割」の他に「先週の仕事の中で感謝したいこと」を記載する欄を設けました。そうすることで、役割範囲を広げた他者に貢献した人の姿が見えてきます。リーダーが良い事例を社内に掲示したり、全体ミーティングで紹介をすることで相互支援ネットワークを太くしていきました。
こういう取り組みをしても、最初から全員が変化を起こすわけではありません。硬直した組織、問題を抱える組織では「書類が増えた、と文句を言う人」、「形だけ取り組んでいる人(毎週同じ課題を書いている人)」など、無意味な活動をしてしまう人が出てきます。そのような中で、感度の高い人、素直な人、危機感を持っている人など、良きお手本となれるメンバーに手をかけて先頭を走ってもらいます。その先頭を走るメンバーは、マネジャーだけでなく、現場スタッフの中からも生まれてきます。
例えば、そっぽを向いていた中堅社員が大きく変化をしたことがありました。それまで1行か2行しか書かれていなかったレポートにびっしりと記載があり、「今週から心を入れ替えて頑張ります」とのコメントが入っていました。
なぜ彼が変化をしたかと言うと、同じ部署のベテラン一般職の影響でした。その方は若手の様子を丁寧に観察し、毎週あの手この手で関わっている様子をレポートに書いていました。その後輩のために何ができるのか、自分のやったこと、考えたことをレポートに記載することで頭の整理をしながら頑張っていたのです。まさに自律的に取り組んでいました。中堅社員はその姿を見て「私の姿が恥ずかしくなった」のだそうです。その日を境に、改革のリーダーとして活躍するようになりました。
このような活動を成功させられるかどうかはリーダーの継続性にかかっています。組織の長が積極的に参加をしている企業ではうまくいっています。「手を離しても目を離さない」ことが組織をつよくするポイントです。人間は弱いものです。温かい目で見守ってくれる存在があると頑張れます。目を離さないことには大変な忍耐がいるかと思いますが、リーダーも多くの恩恵が得られます。ちゃんと取り組めていると、毎週各所で良い変化、メンバーの成長を発見することができ、アウトプットを見るのが楽しみになってきます。この活動が軌道にのると、個人間の協力、上司部下の協力、部門間の協力、社外との付き合い方まで変化をしていきます。特にインターンなど、現場に触れた人が会社に応募をしてくるようになり、人材獲得においても有利になります。先程の企業では会社見学に来た高校生が全員応募をするように変わりました。リーダーの方が「なぜ応募をしてくれたの?」と面接で質問をすると、「会社の雰囲気が良かったから」と回答が返ってくるまでになりました。空気は嘘をつかないものだと思います。