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自律型組織へのチェンジマネジメント その6 (アプローチ1:安全な場を作る)

安澤武郎

安澤武郎

テーマ:マネジメント

【アプローチ①:安全な場を作る】

 硬直化した組織に変化を起こしていくためには、場をほぐすことが必要になります。「外的コントロールでショックを与えるという方法が必要」という人もいますが、恐怖は短期的には効果を発揮しても長期的には自律的な成長の芽を摘みます。まずは心理的に安心安全な場を作ることからスタートです。

 ここを出発点にしている理由は、硬直化した組織のリーダーの考えはおおよそ逆だからです。「結果を指摘して間違いを分からせる」「どうしても分からない奴には強制をして実践させて気づかせていく」という思想を持っています。この根本的な考え方を転換できないとメンバーは自律することができません。

 人が安心して議論に参加できない理由は大きく二つあります。「上司やその場にいる人間に対する信頼感がない場合」「議論の内容に関する自分の意見に自信が持てない場合」です。前者の改善については、前回の「成功循環モデル」を参考に、日常の関わり方を変えていくことが一つです(議論の場における工夫は後述します)。そして、後者の改善については、話し合う前に宿題を与え、「自分の意見を持てた状態で臨ませる」という方法が有効です。

 宿題の内容としては、「何かレポートを読んで考えてくる」のではなく、「レポートなど読んだ内容を日常の実践で試し、自分なりに考えたことを持ってくる」という「実践経験」を含んだ宿題にします。なぜなら、「本に書いてあること」については正解/不正解がありますが、「私が経験して感じたこと」は本人にしか分からず、不正解がないからです。そして、会議の最初には「思い通りいかなかったこと/難しかったこと」を紹介させ、その上手くいかなかったことを解消するためにどうしていくべきかを参加者で議論する構成にします。これにより、「失敗は学習機会であり、悪いことではない」という感覚を掴ませると同時に完璧主義の罠から解放します。特に日本人には「恥の文化」がありますので、失敗を語ることに抵抗を覚える人もいます。その壁を取っ払えるだけでも大きな収穫です。

 与える宿題は、その参加者の理解できる範囲の一歩先から与えていきます。「宿題が難し過ぎて実行できない」「簡単過ぎて何も学びを得られない」ということにならないように、適切な難易度の課題を与えるのはリーダーのマネジメントにおいて極めて重要なスキルになります。

 そうして、適切な宿題の提供ができ、準備ができた状態で参加者が参加をすると、とても有効な議論ができ、アイデアが膨らみます。

 USBメモリやマイナスイオンドライヤーを生み出したイノベーター濱口秀司さんは、「良いコラボレーション」に関する実験をしています。「積み木を使って60分間ですごい作品を生み出す」というワークですが、議論の進め方を4パターンに分けてどのパターンが最も良い作品を生み出すかというテストです。
(参考:濱口秀司さんのアイデアのカケラたち


コラボの実験


4パターンとは以下の4つになります。
(AからDにかけて、話し合う時間は減り、1人で考える時間が増えます。)
Aチーム:60分自由に話し合う
Bチーム:20分各人で考えた後、20分でアイデアを共有し、最後の20分でまとめる
Cチーム:20分各人で考えた後、一気にアイデアを共有し、もう一度各人で20分考える。最後の20分でアイデアを話し合ってまとめる
Dチーム:40分各人で考えた後、20分間で話し合う

 世界中で何度も実験をしているそうですが、必ず頭ひとつ抜けて良いアウトプットを出すのはこの中のCチームだそうです。Aチームは活発に議論がなされコラボレーションがうまく行っているように見えても、良いアイデアが埋もれてしまい最低評価をとることが多いそうです。

 なぜ、Cチームのアイデアが良くなるのか? というと「個々がしっかりとしたアイデアを持つ」からです。「自分はこう考える」という自分の意見のある人間が意見をぶつけ合うと相乗効果が出てきますが、思いつきレベルのアイデアをぶつけ合っても発散するばかりで深まりません。また、Dに対してCが良くなるのは、途中に「アイデアを共有する」ことで、固定観念が一旦壊され、個々の考えが深まるからです。これらの教訓から「議論の場で、いきなり話し合うのではなく、事前課題等をしっかり取り組んで、個々に考えを深めた上で議論をすると有効である」ということと、「できるならば、事前課題のアウトプットを直前に配信をして互いの考えを見て、さらに考えを深めた上で議論をすると尚良い」ということが言えます。


 ここで、「上司やその場にいる人間に対する信頼感がない」という問題が解消できていない場合は、いくら考えたことがあっても自由に話し合いが起きません。対策としては、「会議のルールや指針を設ける」ことと、「会議の仕掛けとして意見を表明しやすい工夫をする」ことがあります。

以下に会議のルールのサンプルを添付しましたが、自分と違う意見にぶつかった時に建設的な議論をする訓練がなされていないと、議論に勝つことが目的になったり、感情的になる人が出てきます。ファシリテーターの役割が重要になるのですが、ファシリテーターがいなくとも「なぜそう考えるのか?」ともう一段相手を理解しようとする姿勢が大切です。場合によっては、会議のルールについての意見交換をして、メンバー参加型でルールを設けても良いでしょう。


会議のルール


「会議の仕掛けとして意見を表明しやすい工夫」については、「人は他者の意見に引っ張られますので、他者の意見に引っ張られないようにどうすれば良いか」を考えれば様々な手法が考えられます。最もシンプルかつ簡単な手法は、若い人から順番に発言するようにしていくものです。ポストイットに意見を書き込んで、それを読み上げるようにさせるというものもあります。事前アンケートなどで、チームメンバーの意見を客観的なデータにした上で議論をさせると、言いにくい問題についても述べられたりします。

 Googleなどの新規事業開発などで活用されているSPRINTという手法の中には、「サイレント投票」という仕掛けがあり、数多くの意見をポストイットで出し合った上で、どの意見が良いか無記名投票で可視化するということを行います。最終的には意思決定者がそれらメンバーの意見を踏まえて意思決定をするのですが、その意思決定に対する「賛成」「条件付き賛成」「反対」もサイレントに表明させます。全員一致まで議論をできなくとも迅速に意思決定をして前に進むことは大事なのですが、異論を可視化することで、リスクに備えることができます。

いくつかの工夫を紹介いたしましたが、最も効果的な方法が一つあるので最後に紹介をしておきます。それは対話するチームの中に一人、自律した(外的コントロールから自由な)メンバーを参加させておくことです。自律したメンバーは、場の雰囲気を作ることも、事前課題に取り組むことも、目的に向かって素直に実践をします。そういうメンバーは成長スピードも速いので(失敗も早くして学習を進めるので)、その姿勢は周りのメンバーに伝搬し、広がっていくのです。

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安澤武郎
専門家

安澤武郎(経営コンサルタント)

株式会社熱中する組織

どのような組織にも「常識の壁」「アクションの壁」「スキルの壁」「仕事のやり方の壁」「コミュニケーションの壁」「情熱の壁」があり、能力を活かしきれていません。その壁を取り除き、組織を生まれ変わらせます。

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