社長の力量が足りないと社員は育たないのか? (2/3)
未来予測法というとデルファイ法をはじめ世界中でさまざまな方法が存在するし、今日も熱心に研究されている。
また、毎年さまざまな分野で未来予測が発表されている。それだけ「未来はどうなるか」というテーマは人々の関心が高いと言えるだろう。だから、未来予測はコンテンツとして高く売れる。
経営においては、世界規模の大企業のほとんどは未来予測学者の助けを借りながら、市場の変化や需要の予測など、経営に関するリスクを減らそうとしている。
多くの人が勘違いしているので念のため指摘しておくが、リスクとは危険性ではなく不確定要素のことだ。危険であると100%わかっていたとしたら、それはリスクではない。避ければいいだけなのだから。たとえば、人が煮えたぎる溶岩の中に飛び込んだときのリスク(不確定要素)は0である。100%死ぬとわかりきっているからリスクはないと言える。
経営において不確定要素は出来るだけ少なくしたい。だが、経営は人間の営みであるし、さまざまな外部環境の影響も受ける以上、不確定要素を無くして確実に未来を予測することはできない。
それでも優秀な経営者ほど、できるだけ未来のことを知ろうとするし、そのことに時間やコストをかけて取り組むのだ。
そりゃそうだ。未来がわかれば先手を打てる。神様が未来を教えてくれたらどれだけ楽だろう。AI(人工知能)が未来を完璧に予測してくれたらなぁ……。そんな妄想をしたことがある人も多いはずだ。
現実には未来を完璧に予測する方法はない。
ただし、限りなく未来のリスク(不確定要素)を減らすことはできる。そうなると有効な先手が打ちやすくなる。営業面ではライバルに先んじて何かを行うことができる。
さて、一口に未来予測と言っても、総務省が発表している人口統計などのように、ほぼ確実に起こるようなものもあれば、「今年は阪神タイガースが優勝する」というようなほとんど願望と言うべきものもある(そもそも予測と予想は違うが本稿ではその点にはこだわらないことにする)。
人々の感情やお金の動きなどが複雑に絡み合った経済の分野でも未来予測を発表している人は多い。毎年年末には多くのビジネス誌でも「20XX年大予測」といった特集が組まれる。しかし、これがあまり当たらない。
じつは、未来予測が当たることには、さほど意味はない。
おそらくほとんどの人は、未来予測の目的を「未来をピタリと当たること」だととらえているはずだ。
しかし、未来予測の目的は未来を当てることにあるのではない。当てようとすることとそのプロセスに合理的な意味があるのだ。
もしめでたく未来予測の結果が当たったからといって、その原因となった根拠がずれていたとしたら、単に結果だけが偶然一致しただけということになる。
結果が当たることを追求した未来予測は所詮ギャンブルだ。
未来を予測するには、発生する事象に影響を与える関連要素を分解し、それらの中から不確定要素をできるだけ確定要素に変えていく必要がある。
未来予測の精度を上げる努力、「当てようとする」ことは、冷静な分析、つまり、こうした論理的で科学的と言えるプロセスだ。
ちなみに、冷静な分析とは少し離れるが、未来予測が外れたとしても予測自体に意味があるケースの典型がプロ野球の優勝チーム予想だ。
プロ野球のペナントレースが開幕する3月頃になると、多くの野球解説者やタレントがテレビ番組で阪神タイガースが優勝すると予測している。
大阪で放送されているテレビ番組では阪神が優勝すると予測すれば、その番組の視聴率が上がるだろう。阪神ファンからのその予測をした解説者やタレントに対する好感度も上がるだろう。そういう意味で「阪神が優勝する」という未来予測には十分に意味があると言える。
また「阪神が優勝する」という予測を知った阪神の選手には「よし!なんだかいけそうだ。活躍が予想される選手として自分の名前も挙がっている!がんばろう!」という気持ちが湧いてくるというような効果も期待できるかもしれない。
その是非は別として、経営において、当てずっぽうでもいいのでとにかくビジョンを掲げるのも同様の効果が期待できると言えなくはない。
未来予測自体は論理的で科学的なアプローチで予測すべきであるが、それでもリスクは0にはならない。
未来予測のありがたさは、起こりうる可能性があること、不確定だけど起こってもおかしくないことをあらかじめいくつか想定しておき、対策が講じられることだ。
そのためには、まず、ほぼ確実に起こりうる未来を把握しておくべきである。
ほぼ確実に起こりうる未来とは、たとえば「2020年に東京でオリンピックが開かれる」というようなことである。
決定事項、つまりほぼ確実に起こることになっている未来は、未来に向けての意思決定に必要な材料の1つとなる。
ほかには「イワシが不漁になれば値上がりする」というのも、因果関係が明確でほぼ既定の事実と言えるが、東京オリンピックのケースほど確定的ではない。
仮にイワシから猛毒が確認されたりしたらイワシの価格は暴落するに違いない。また、海外で豊漁になり冷凍物が安く出回るかもしれない。しかし、そういう要素の影響を受けることをわかっていながらも過去の事例、いわゆる「過去にある未来」からおよその需要の予測はできるので、だいたいの価格は予想できるだろう。
「過去にある未来」とは、過去の事例から法則のようなものを導きだし、それによって繰り返すことなどが予測できる未来のことだ。
ここで一つのまとめを置いておくことにするが、未来予測は「確実に起こりうる未来」と「過去にある未来」を参考にしながら、冷静に事実を分析し、論理的に予測していくことが大切であると言える。特に「過去にある未来」は、私たちが未来予測をするときに大いなる指針を与えてくれることも心に留めておいてほしい。
つまり、東京オリンピックのように「確実に起こりうる未来」と、イワシの価格のように「過去にある未来」が未来予測に欠かせない2つの指標だ。
では、経営において、特に組織作りにおいて、どのように未来予測をして組織を変革し、来たるべき未来に備えるべきだろうか。
組織作りや組織運営の分野で確実に御社に起こりうる未来とは、あらかじめ決まっている社員の定年退職の時期や期間労働者の退任時期などであり、意外に少ない。
だから、もう1つの未来予測のための指針として過去の事例、つまり「過去にある未来」を中心的指針とすべきだ。
古今東西、無数の企業がそれぞれに多種多様な組織を作り上げてきた。そして、栄枯盛衰を繰り返してきた。
人間と動物を隔てるのは知恵の伝達が得意かどうかだ。ここは一つ人間らしく、過去の無数の組織の変化から導き出された法則(過去にある未来)をヒントにはできまいか。
そうすれば、御社の組織が今後どのような状況になり、変化を強いられるか、もしくは成長のために変革をすべきか、ということが自ずと明らかになる。
つまり、企業のステージ、組織の現状、主要メンバーである経営者とマネージャー層の気質などを把握し、あるべき姿とのギャップや今日も発生している問題の真の原因を明らかにし、予測できる未来は予測し、その未来に向かって組織を変革していかなければならない。
しかし、ここで、多くの経営者がはまってしまう罠は3つある。
まず、社員の気質や基本的な考え方はなかなか変わらないにも関わらず、これらを直接的に変えようとすることだ。三つ子の魂百まで、というが、人が生まれながらに持ち合わせている気質は変わらない。人を置く器である組織を変えることが先だ。
次に、現状を把握しないで、いきなり変えようとすることだ。これでは、現在地もわからないのにとりあえず冒険に出るようなものだ。地図があって現在地がわかっていてはじめて、自信を持って果敢に冒険へと出発していくことができる。
最後に、独力で組織を変革しようとすること。これが3つ目の罠であり組織変革の失敗の原因である。そもそも、指針とすべき過去の膨大な組織の変化から導き出された法則を知らずして、己の知識や経験の範囲から生まれた方法で組織を変革しようとすることは危険である。優秀な経営者ほど、第三者の専門家の力をうまく頼ろうとする。第三者の視点は賢者の視点と言われるが、それを活用しない手はない。
逆に、第三者の専門家の手を借りて、組織の現状とマネージャー層の現状を把握し、人ではなく組織を変えていこうとすれば、組織の未来は明るいものにできる。組織の未来がわかれば、明るい方だけを取捨選択すればいいのだから。
未来は作り出せるということを思い出してほしい。私たちは、日々、生きているだけで未来を作り出してもいるし、過去も作り出している。
であるならば、賢者は、過去に学び、自らの過去も「過去の未来」へと昇華し、未来を作り出す資源にすべきだ。
あなたの組織に3年後何が起こるか、あなたは予測できているだろうか。その指針を持っているだろうか。
未来予測もしない、しかも的確なビジョンも示せない、そんな経営者についていかなければいけない社員たちには同情せざるを得ない。
「必要な人材が足りないため売上の機会ロスが生じている」という現在の事実は、3年前にさかのぼると「3年後このままでは必要な人が足りなくなり売上の機会ロスが生じる」ということがわかっていたに違いないのだ。その予兆に3年前、気づいていなかっただけなのだ。
その愚を繰り返すことは、果たして賢明な経営者がすることと言えるか。
未来を見ないで、何が経営か。経営者ならば、一般社員と比べ、より明確に未来を見通すべきである。
いくつもの組織を変えてきた私が断言する。組織はいくらでも変えられる。強い営業組織を築き上げ、ビジョンの達成に向けて力強く前進していくことができる。
そして、組織の未来作りの指針とすべき法則はすでに複数存在していることを多くの経営者に知ってほしい。
それらをどんな企業でも活用できるようにしたのが組織変革診断だ。
古今東西の多くの企業組織の変化に基づく知恵を結集して作り出された診断システムを活用し、御社の組織の現状と未来を予測するだけではなく、打つべき手を具体的に示すことができる。
導入する、導入しないの判断は無理に急かすつもりはないが、早めに組織変革の手を打たないとそれこそ手遅れになりかねない。
ここは経営者が賢明な判断力と行動力を示す時だ。まずは、情報を取り寄せることから始めてはどうかと思う。