コロナ禍の飲食店から【Part1】~原点回帰~

伊東久

伊東久

テーマ:コンサルティングと研修の現場から

 コンサルティングをしている飲食店店長たちの言葉です。
 「今は耐えるときです。メニューの改廃はロスになるのでしません」
 「お客さまとの会話をできるだけ控えるため、商品のおすすめはあまりしていません」
 「ランチ以外はほとんどお客さまが来ません。人件費を抑えているのでテイクアウトもできません」
 首都圏に2回目の緊急事態宣言が出てから、こんな会話が聞こえてきました。今まで以上にネガティブな心境を物語っていると感じました。「乗り切るしかない」というあきらめムードがあるのでしょう。かなり苦しんでいるようです。

私たちのお店は、「何屋さん?」

 あるビュッフェ・レストランです。コロナ禍になってからメニューを変えていないそうです。人件費の兼ね合いもあるのでしょう、店長は手間とロスを気にしています。「とにかくできるだけ省力化を」という考えが強いようです。気持ちはわかります。私はこの店長にこう質問しました。「この店を利用するお客さまの期待を考えたことありますか?」少し戸惑っていたので、こう続けました。「お客さまは『いろんな料理を自分で選んで、好きなものを好きなだけ食べて楽しみたい』こう思って来店するのではありませんか?でもこの店、セルフサービスの食堂みたいですね」。少しきつい言い方をしました。要はこの店の特徴である「食事を楽しむ」というビュッフェ・レストランの原点を見失っているのです。今日の、今月のおすすめ料理の説明がないのです。この店のおすすめ料理の説明もしていません。出来立て料理の声かけもあると嬉しいのですが、聞かれません。
 コロナ禍で週末の人出が減っています。飲食店は平日のランチ需要に賭けるしかありません。ということは、近隣のビジネス街の人たちが多く利用しています。テレワークの影響もありますが、ランチはそこそこ賑わいます。リピート客も多くいます。でも、並んでいる料理は毎日一緒です。来ているお客さま層と、出している料理、サービスがマッチしていないということに気づいていません。私たちのお店は、「何屋さん?」と自問して、今のお客さまに合わせたサービスが必要とされています。「今日のおすすめ」「季節の〇〇」「味が変わりました」など、ちょっとした会話でお客さまのワクワク感を高めてあげることが、この店の役割ではないでしょうか。
 話し合いの後、店長の目つきが変わりました。

私たちの店の、「ウリは何?」

 あるコーヒーショプです。コロナ禍になってお客さまとの会話を控え、積極的なおすすめメニューなどのアプローチをしないようにしているそうです。コーヒー専門店ですから、いつも利用しているお客さまも多いので、必要性は少ないかも知れません。時には「声をかけないで欲しい」というご意見もいただくようです。私は店長にこう質問しました。「テイクアウトの比率はどれくらいですか?それを伸ばさないのですか?」こう言うと数字を答えてくれましたが、更に続け「美味しい特徴的なコーヒー豆を売っているのですよね。この状況下で、テイクアウトに力を入れない手はないと思いますよ。オフィスで飲むことも増えますよね」。
 この店長、客席でゆったりコーヒーを飲むといういつものパターンから抜け出せずに、カウンターでの回転と客席のコントロールだけに力を入れていて、本来のこの店の良さ「ウリ」である、コーヒーを活かすことを忘れているのです。「今の倍くらいは売って欲しいです。目標設定して全員でお客さまにアプローチしましょう」と投げかけました。
 店長が我に返ったような表情を見せました。

私たちの店の、「力は何?」

 とんかつ屋さんの例です。感染症対策を強化して、ランチ時間の店内はいつもと同じように混んでいます。しかしその時間以外の売り上げが大きく落ち込んでいるようです。従って、1日通しての売上はダウン。人件費は極力抑えなければなりません。店頭で並んでいるお客さまにも手が回らず、テイクアウトにもあまり力を入れていないようです。店長によると、店内のサービスで精いっぱいだそうで、「アルバイトにも無理をさせたくない」と言っていました。私はこう質問しました。「アルバイトの人は本当にそう思っていますか?店内の仕事だけでいいと思っていますか?」。続けて言いました。「この店はとんかつ弁当が主力ですよね?それが持ち帰りで売れたら、アルバイトの皆さんは士気が上がるのではないですか?」。すると店長はこう答えました「それはもちろんです」
 店内の作業が大変だということの気持ちより、アルバイトはお客さまとの会話や商品がたくさん売れることの方がモチベーションが高まるのです。コロナ禍だから士気が低下している人たちを励ますのは、やはり商品です。「そのとんかつ弁当のテイクアウトに力を入れましょう。そしてアルバイトの力を借りましょう!」こう言いました。コンスタントにテイクアウトの売上があるものの、アルバイトへの負荷を気にしていた店長が、ちょっとしたアイデアが浮かんだ顔をしていました。

原点回帰の時期

 飲食店の原点とは、まず、その店の一番のウリを活かしアピールすること。次に、そのウリを目指して来るお客さまの気持ちに応えること。そして、食事を楽しませることであると考えています。今コロナ禍で、ここに立ち返って伸びている店にも出会えました。土日よりも平日オフィス街のランチ需要が伸びていること、テイクアウトもターゲットに入れること、お店の良さを活かしてアプローチを強化すること。結果的にスタッフ全員のモチベーションを維持していけるのではないでしょうか。
 
 コンサルティングの現場から、ほんの一部を紹介しました。続編はまた追ってお伝えしていきます。
 コンサルティングと研修の総合プロデュースをしている、おもてなし経営クリエイション・アカデミーでは、飲食店の悩み相談を受け付けています。
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https://www.omotenashikeiei.co.jp/

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伊東久
専門家

伊東久(経営コンサルタント)

株式会社おもてなし経営研究所

現場での接客と、組織マネジメントの経験を併せ持った視点から、顧客に愛され支持される「おもてなし経営」を目指した組織づくりを支援。従業員の力を引き出すコンサルティングと豊富な経験談を交えた研修が好評。

伊東久プロは朝日新聞が厳正なる審査をした登録専門家です

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