シニア起業・独立で抑えておきたいポイントとは?
【はじめに】
数年前から多くの企業で本業に支障のない範囲での副業が
公認されているようです。
企業サイドの理解が深まった、柔軟な発想が浸透した、
と思いたいですが、中には「今のうちに自分たちで食い扶持を見つけて欲しい」
と言った本音が隠れているのではとも思います。
事実、数年前までは
起業・独立というと定年前後の方か、逆に入社歴の浅い若手が主体であり、
一部の限られた世代、又は人物に限られた話でした。
それが今では下は20代から上は60代まで、
さらに男女を問わず、業績好調の会社勤めの方でも
起業に関する相談で我が事務所に来訪するまでに変化しています。
その中で気になるのが、
50代以降のシニア世代の方に「即断即決」「退職即独立即成功のための相談」
が目立ち、逆に30代前後の方ほど「順を追って時間をかけての起業相談」
が多いという傾向です。
今日は特にシニア世代が起業を目指す場合に、
最低限抑えておくべき注意点について改めて紹介していきたいと思います。
【行動は段階的に】
起業・開業を目指す場合、行動を起こすタイミングは非常に重要です。
最も避けたいのが、
冒頭で書いたように、特に定年前後のシニア世代が
とりあえず退職(早期退職含む)で得た開業資金(退職金)を基に
唐突に起業・開業を目指すケースです。
退職するということは、毎月の安定収入が消滅するということです。
次の日からは、日々貯えが消費される毎日となるのです。
少なくとも
退職後の起業(退職後の資格取得も含め)を考えるのであれば、
在職中にこそ、ある程度の準備を終わらせておくべきです。
最低でも
会社人生の中で体得したスキルや人脈等をまずは自己分析をします。
自分自身の棚卸しの結果として、
実は他人とは異なる経験があったり、経験に裏打ちされたスキルやノウハウが
具体的に把握出来るのです。
最初は、
自分が考える(あこがれの)第二の仕事にそのスキルやノウハウが
活かせるのかどうかを自己分析します。
ただそこで結論を出すのは早計です。
家族への相談・打診は必須ですし、出来れば専門家からの評価やアドバイスを
受ける方がよりフォーカスが絞られると思います。
そんなまどろっこしいプロセスを踏んでいたらせっかくの好機を見送るのでは?
と反発を覚える方も少なくはないはずです。
ですが、
何度でもやり直しがきく20代30代ではない50代60代のシニア世代には、
その貴重な「時間という資源」が大幅に制限されているのです。
小説や講演会などでは「起承転結」が重要と言われています。
退職を機によく準備もしないままに独立開業という結論を出すのは
「起承転結」ではなく「起・結」でしかありません。
このやり方で全てが失敗するとは言いません。
ごく少数ですが、見事に軌道に乗せて初年度から大幅な黒字達成!
というケースも存在はします。
ただそれが貴方が目指す仕事にも通用するかは保証の限りではありません。
多くの成功者は着実に一歩づつ地固めをして、ビジネスを軌道に乗せてます。
シニア世代には残された(許された)時間が少ないと先に書きました。
ならばなおさらスタートまでにその貴重な時間の多くを割くことに躊躇する
という方も少なくありません。
ただ見方を変えれば、退職後からスタートするという計画だから、
より一層猶予時間が少なくなるわけです。
ゴールが定まっているのであれば、
スタートラインを変えるしかありません。
即ち、退職後ではなく、在職中からの準備開始がポイントになるのです。
助走路を長くするも短くするも、本人の考えひとつなのです。
【週末起業の勧め】
なぜ週末限定の起業や開業なのでしょう?
平日に副業をする場合、
もう一つの会社で仕事に就くというのが一般的に考えられる副業でしょうか?
その場合は、本業の開始前の早朝、または深夜営業の仕事か、
本業の終業後に出来る仕事に就くということになるはずです。
ですが日中最低8時間の拘束を受ける本業の前後に新たな仕事をする。
これはなかなかの負荷なのは言うまでもありません。
特にここで採り上げているシニア世代には相当の負荷です。
よく20代の苦労譚を語る場合、本業の後にバイト2つを掛け持ちして
あこがれのクルマを手に入れたとか、海外旅行の資金を貯めた等の
エピソードは耳にしますが、50代でそういう事例は少数派です。
さらにシニアでこういうケースの多くは、
既に多額の借金を抱えての返済のためのやむを得ずの副業であり、
本来の起業・独立は全く異なるものでした。
気力・体力に絶対の自信があるシニアであれば、余計な話でしょうが、
多くのシニアには相当な壁であることは間違いないと思います。
そこで週末起業がお薦めとなる訳です。
ここで言う週末起業はあくまでも平日の会社勤めの方を対象にした考えです。
流通業や物販業の場合土日が通常の勤務日というケースは会社で規定されている
平日の休日設定日を週末と置き換えてもらうことになります。
週末起業といっても皆が皆、同じスタンスではありません。
今の会社に不満はなく、当面業績も安定しているので
あくまでも小遣い稼ぎ程度の収入を目指すプチ起業。
定年後はやはり再就職、雇用延長が前提で起業に残りの人生全てを
賭ける気は毛頭ないといった、文字通りの「副業起業」。
いずれは会社を辞めて、または来るべき定年後の生活の柱として
今のうちから第二の人生の生活の柱となる本格独立・開業の為の
試用期間として起業する「複業起業」。
など等、まずはそれぞれが目指す起業・独立の完成形を決める事、
これから週末起業が始まるとみていいでしょう。
前項で段階的な準備が重要と指摘したのは特に後者の場合です。
週末限定の起業から始める事で
その選択が正しいかどうか、自分に向いている仕事なのかどうか、
突き詰めれば、起業が自分に向いているかどうかが判明します。
本業という基盤があるうちにこの手の判断が出来れば
損失も限定的に抑えることが可能です。
これが退職後の背水の陣の結果が起業に不向きでは
まさに絶体絶命となってしまいますね。
【人生100年、75才現役という将来に向けて】
つい10年前までは信じられないことですが、
令和の現在、高齢化社会の拡大は、人生100年時代が前提となり、
それに並行して現役の働き手は75才まで(!)という考えが始まっています。
昭和の時代には55才で定年、後に60才定年にはなりましたが、
その時点で十分な年金支給が開始されていました。
サラリーマンであれば、退職金も今の基準よりは相当甘い基準で支払われ
まさに、定年退職後は「悠々自適」なセカンドライフが満喫出来ました。
それが今では退職金の支給基準額が大幅に下方修正されたり、
計算方式にも手を加えられたりで実質の減額が当たり前となり、
場合によっては早期退職勧奨で定年までの在職も保証されなくなりました。
さらに公的年金に関しても、事実上65才からの支給開始に後退し、
近い将来に70才スタートになるのは避けられないとも言われています。
余談ですが、
ちょうど今週の新聞で年金改革の論点が掲載されていました。
・納付期限を現状の40年から45年に延長して、その分給付を厚くする。
~開始時期は変えられませんから、終了時期が延長される訳です。
仮に60才で定年退職してもあと5年間納付しなくてはいけなくなる。
そうなれば65才までは働いておきませんと貯えだけが減少していきます。
・現在は加入義務がない旅館業や飲食サービス等を
新たに厚生年金の加入対象とする。
~シンプルに見れば、「新たな財源を開拓」するという選択肢です。
・現在の給付抑制措置を前倒しで終了させ、
厚生年金や国庫負担金等で基礎年金の目減りを穴埋めする。
~その場しのぎにはなっても根本的な年金制度の立て直しにはなりません。
あくまでも論点としての試案ですので、今後も年金制度維持の為に、
上記以外のいろいろな施策が検討されることは間違いないことでしょう。
サラリーマン生活も、そう遠くない将来には
このような流れの中で、定年の撤廃や70才定年制の採用が拡がるでしょう。
ですが、
正社員での雇用・再雇用はシニア世代にはまず期待出来ません。
多くの場合、嘱託や契約社員で年下の管理職に仕えるスタイルが
一般的な形態となると言われています。
こういった暮らしが10年15年と続くことは、
シニア世代の心身に相当なストレスを強いると思われます。
それでも、
安定した生活に欠かせない継続した一定額の収入は確保出来ます。
いろいろな選択肢を吟味した結果、
それでも構わない、リスクは避けるいう結論であれば、
それはそれでいいと思います。
少なくとも熟考した結果の選択であれば悔いはしないはずです。
ですが、
やはり第二の人生も、また宮仕えの繰り返しで過ごすのは忍びない、
というのであれば、起業・開業は魅力ある選択肢です。
身近に起業・開業の成功者がいればよりその誘惑は強まるでしょう。
ここで多くのシニア起業家が陥りがちなのが、
うわべの成功を見ただけで「自分にも出来るのでは?」という考えです。
何度もこのコラムでも紹介していますが、
成功したのは起業のタイミングや時代の趨勢、立地やトレンド、協力者の有無等、
今も通用する汎用的な要因とは言えないものに依るところが大きいのです。
同じことを忠実に再現しても成功までも再現はされません。
特に、再チャレンジに許される猶予時間が限られているシニア世代は
「ワンストライクアウト」の気構えが求められます。
捲土重来は若手には可能ですが、シニアには至難の業なのです。
絶対に失敗しない、とは言えませんが、
失敗を最小限に抑えるためにも、いきなり本番(起業・開業)に臨むのではなく、
練習試合、模擬訓練といった「ワンクッション挟んでの起業」を考えるべきでしょう。
今の50代60代の世代であれば、
何らかの形で携帯電話やパソコンとの接点はあるはずです。
ネット検索やメールのやり取り程度は経験しているでしょうし、
人によってはある程度は使いこなせていると思います。
これらをうまく活用すれば、
自宅に居ながらにして必要な情報を入手が可能ですし
対面でなくても相談や問い合わせも可能になっています。
コロナの影響で
リモートワークや在宅勤務も常態化していることで
これまでの通勤時間が情報収集等に有効活用できる時間に変化します。
先にも書いたように、
企業側の副業公認といった社会環境の変化も追い風です。
従来の様に「時間がない」
「毎日の通勤地獄で疲労困憊、土日はひたすら寝てる」
等の言い訳はもはや通用しません。
やる気と方向性さえ定まっていれば、
最初は土日の時間を使って自分の棚卸を始め、
起業・独立に必要なスキルが判明すれば
その方面の情報をネット検索で収集することも出来ます。
より自分のイメージが具体化すれば、
先に書いたように今度は成功事例を自分の目と足で観察します。
可能であれば、無給でのアルバイト経験も試す価値があると思います。
「退職まであと何年、期限を切られた中で第二の仕事を見極める」
繰り返しになりますが、
週末起業を実行・経験した結果、やはり再雇用=宮仕えがは適している
といった納得がいけばそれはそれで一つの成果です。
よく言われるところの
「進むも地獄、退くも地獄」を真似た言い方をすれば、
「進むも賢明、退くも賢明」なのです。
最も避けたいのが、何の行動も起こさずに留まることです。
この場合だけは「留まるは地獄」という表現が当てはまるでしょう。
多くはない貴重な時間を、何もしないまま課題を先送りする。
行動しないままに現状に留まっていていいことは一つもありません。
人生100年で75才までは現役として働くという時代になれば、
現在60才の方もあと15年間は仕事に就き、75才で現役引退しても
なお25年の人生が残る訳です。
決して一時の感情だけで選択・実行するような軽挙だけは避けたいものです。
その結果は、その後の人生に多大な影響を与えますし、
その挽回には60才時とは比較にならない程の気力が求められます。
シニア起業・独立を目指す場合、
ここまでの視野を持って検討して欲しいものです。