経営を「四次元」で捉える(第1部) 空間軸 ―「場所」が経営戦略の中心になったわけ
数字は会社の目的ではない。──会社は「流れ」で動いている。
「そうはいっても、私たちは霞を食べて生きているわけではありません。」
経営者や幹部の方と対話をしていると、こんな言葉をいただくことがあります。
「売上がなければ社員を守れません。利益も必要です。だから売上目標やKPIを重視するのは当然です。対話をしていても売上は上がりませんから。」
まったく、その通りです。
私は数字の重要性を否定するつもりはありません。
会社を経営する以上、売上も利益も極めて重要です。
では、もう一つ質問をさせてください。
その売上は、何によって生まれているのでしょうか。
商品でしょうか。
営業力でしょうか。
広告でしょうか。
もちろん、そのどれもが重要です。
しかし私は、その土台には必ず「流れ」があると考えています。
私は40年近く流通の仕事に携わってきました。
例えば物流では、荷物が届かなかったという結果だけを見ても、本当の原因は分かりません。
どこで止まったのか。
どこで滞ったのか。
何が流れを妨げているのか。
そこを見つけなければ改善はできません。
会社も同じです。
売上が落ちる。
離職者が増える。
新しい提案が出なくなる。
部署同士の連携が悪くなる。
こうした現象の多くは、「数字」の問題というより、「流れ」の問題として現れます。
情報は流れているか。
現場の声は経営に届いているか。
お客様の声は商品やサービスの改善につながっているか。
挑戦した経験や失敗した経験は、組織の財産として循環しているか。
数字は、その結果として現れるものです。
私は会社を見るとき、まず「流れ」を観察します。
そして、その流れを生み出す最も大切な営みが、「対話」だと考えています。
対話とは、会議を開くことでも、意見を言い合うことでもありません。
一人ひとりの「想い」を交換し合うことです。
私は、対話とは「想いのナガレ」を生み出す
ことだと考えています。
もちろん、対話は最初からうまくいくものではありません。
思いが伝わらない。
相手の意図を誤解する。
話が噛み合わない。
そんな場面は必ずあります。
しかし私は、その瞬間こそが社員一人ひとりが成長する機会だと思っています。
どうすれば伝わるのか。
どうすれば相手を理解できるのか。
問いを立て、耳を傾け、言葉を選ぶ。
その積み重ねが、「聞く力」と「伝える力」を育てます。
社内は、その練習の場です。
そして社外は、その実践の場です。
私は以前から「トレードオン」
という言葉を使っています。
一方が得をすれば一方が損をする「トレードオフ」ではありません。
互いの経験や知恵、想いを持ち寄ることで、一人では生み出せなかった新しい価値を生み出していくという、私自身の仕事観を表した言葉です。どちらかに正解があると信じ込んでいると「説得」という力学が作用しやすいのですが、「対話」とは説得の応酬とは異なります。
私は、これからの企業経営は「成長」だけを追い続ける時代から、「循環」
を育てる時代へ少しずつ移っていくと考えています。
大量生産。
大量広告。
大量消費。
大量廃棄。
こうしたモデルが社会を豊かにした時代は確かにありました。
しかし人口減少、成熟市場、AIの急速な普及など、企業を取り巻く環境は大きく変化しています。
だからこそ今、問われているのは、
「どれだけ大きくなったか。」
ではなく、
「どれだけ健全な流れが会社の中にあるか。」
ではないでしょうか。そうすると自ずと社風の雰囲気や自社の社会的な価値に関心が働きます。
会社は組織図で動いているのではありません。
会社は、人の想いが流れ、情報が流れ、信頼が流れることで動いています。
数字は、その流れを映し出す通信簿です。
私は、数字だけを改善するお手伝いはできません。
しかし、数字を生み出す「流れ」を整えることなら、お役に立てると思っています。
それが、私が対話を通して経営と現場をつなぐ理由です。


