給与が高ければ人は満足するのか?

桐生英美

桐生英美

テーマ:労務管理

給与が高ければ人は満足するのか?

~人材定着に必要な「もうひとつの視点」~

■ 働く理由と給与の位置づけ


人はなぜ働くのか。
多くの場合は「給与のため、生活のため」。これは間違いなく正しい答えです。

しかし、社労士として多くの現場を見てきた経験から言えば、「お金さえもらえればいい」という働き方は長続きしません。一定の水準までは給与でモチベーションが上がりますが、それだけでは離職防止や定着にはつながらないのです。

■ 今の採用市場の現状


2025年6月時点、日本の有効求人倍率は1.29倍、完全失業率は2.6%。
人手不足を背景に、企業はこぞって初任給を引き上げています。大手では月額30万円を超える求人も珍しくありません。

東京都内の平均年収は前年より約4%増、正社員平均で553万円に達しました。
しかし、それでも「辞めたい」と言う社員は後を絶ちません。

厚労省の調査(2025年春発表)によると、20代社員の転職理由は以下の通りです。
1位:人間関係がうまくいかなかった
2位:やりがいを感じられなかった
3位:給与が低い

つまり、給与水準は重要な条件の一つですが、定着を左右するのは「職場環境」や「やりがい」なのです。

■ 報酬だけではつなぎ止められない


「報酬で釣った社員は、より高い報酬で引き抜かれる」。これは人事の現場でよく言われることです。

優秀な人材ほど、単に目の前の条件ではなく、

どんな人と働くのか

どんな将来性のある会社なのか

自分の仕事が社会にどう役立つのか
といった総合的な要素を重視しています。

給与は「生活の安心」を支える前提条件。そこをクリアした上で、会社に残りたいかどうかは別の要素で決まります。

■ 経営者・人事が取り組むべきこと


では、経営者として、あるいは人事担当者として、どのように向き合えばよいのでしょうか。

給与の適正化は必須(前提条件)
 最低限の納得感がなければ、やりがい以前に不満が先立ちます。相場を踏まえた水準を確保しましょう。

仕事の意味付けを伝える
 「あなたの仕事が誰を喜ばせているのか」
 「この会社で働くことでどんな未来が築けるのか」
 こうしたビジョンを示し、日常の中で社員に実感させる仕組みが必要です。

人間関係・職場文化の整備
 給与が良くても、毎日ギスギスした職場では心が持ちません。上司の適切なフィードバック、同僚同士の支え合い、安心して意見を言える風土づくりが重要です。

■ まとめ


給与は大切です。しかし「働き続けたい」と思わせる力は、給与以外の要素――やりがい・人間関係・会社の将来性の積み重ねにあります。

その環境を整えることこそ、経営者・人事の大きな役割です。
「給与でつなぎ止める」発想から、「働きがいで惹きつける」発想へ。
これが、人材定着において本当に求められる視点ではないでしょうか。

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桐生英美
専門家

桐生英美(社会保険労務士)

日本経営サポート株式会社

民間企業での人事と採用経験25年、社労士登録20年。採用面接は2000人。中小企業が悩む採用問題、人事問題を、自らの実務経験と社労士の資格を活かして円満に解決するサポートをいたします。

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