知りつづけ、知らせつづけることを

テーマ:小田原漂情

 8月9日です。例年通り、言問学舎塾長ブログの記事を、そのまま掲載させていただきます。


 今日は長崎原爆死没者慰霊平和祈念式典のテレビ中継を、石破首相の挨拶まで視聴してから出社した。長崎平和宣言は、鈴木史朗長崎市長が「武力には武力を」の争いを今すぐやめてください、と力強く呼びかけることからはじめられた。参院選中、安易にその内容のことを語っていた議員、候補者は、その言葉を聞いただろうか。

 世界各国の為政者はもとより、日本国内の政治家も、多くの人々も、80年前に何があったかをあまりにも知らないために、「武力には武力を」型の言動を取ることになっているのではないか。自分は知っているとか、どこまで知っていればいいかというような話ではない。本稿でも以前に述べたことがあるはずだが、現在平均年齢が86歳を超えたいわゆる「被爆者」、原爆の被害を直接受けた方たちは、偏見と差別にさらされるなどし、被爆体験があることを隠して生きなければならなかったつらい過去を経て、またさらに思い出したくないという強い心の要請をも押さえつけて、原爆が落とされたときに何があったかを語り、伝えつづけて下さって来たのである。

 永井隆博士の『この子を残して』の一部を引用させていただきたい。

「この子を残して‐この世をやがて私は去らねばならぬのか!

母のにおいを忘れたゆえ、せめて父のにおいなりとも、と恋しがり、私の眠りを見定めてこっそり近寄るおさな心のいじらしさ。戦の火に母を奪われ、父の命はようやく取り止めたものの、それさえ間もなく失わねばならぬ運命をこの子は知っているのであろうか?」

 ここに書かれている「この子」とは、永井博士の娘さんの茅乃さんで、この頃は小学1年生であろうか。引用した文章直前の冒頭部は、うとうとしていた永井博士のほほに、帰って来た茅乃さんが自分のほほをつけ、「ああ、・・・・・・お父さんのにおい・・・・・」と言ったのだとつづられている(つづけて引用部となる)。

 茅乃さんのお母さん、永井博士夫人の緑さんは、原爆投下の際家もろとも焼かれ、お骨も残っておらず、焼け跡からロザリオだけが見つかったのだという。そのお母さんの匂いを忘れたおさな子が、寝ているお父さんにほほを寄せて「ああ、お父さんのにおい」とつぶやいた。しかもそのお父さんも、原爆症のために長くは生きながらえることができない。

 こうしたことを、知りつづけ、知らせつづけなければならない。言問学舎でも、わずかな人数の生徒たちにではあるが、毎年『碑』や『音読で育てる読解力 小学5年生以上3』を読み、考えて文章を書く授業をつづけている。子どもたちは、ふだん接する機会がないだけで、機会さえ得れば、まっすぐ受けとめ、考えてくれるのだ。知る機会を得たその子たちが、考えつづけ、知らせつづけて行ってくれるよう働きかけることが、私になしうることである。もちろん私自身も、まだまだ知りつづける努力を怠るわけにいかない。

 そして私には、歌いつづける営みもある。藤山一郎先生が与えて下さった「長崎の鐘・新しき」はスタジオで歌い、『音読で育てる読解力 小学5年生以上3』の付属DVDに収録したほか、毎年期間限定だがYouTubeで動画を公開している(今年は8月3日~9月2日の予定)。そして、それだけではなく、常に歌いつづけることが、原爆死没者の方たちを悼み、平和を希求するために大切なことであると考えている。だから動画を制作したあとも最低週に2度ずつ歌うことを止めていないし、もちろん今日も、出社してから歌わせていただいた。「長崎の鐘」は、永井博士の著書名にちなんで1949(昭和24)年に藤山先生が歌われた流行歌であり(古関裕而作曲、サトウハチロー作詞)、「新しき」は、藤山、古関、サトウのお三方に永井博士が贈られた短歌「新しき朝の光のさしそむる荒れ野にひびけ長崎の鐘」に藤山先生が曲を付けられ、長く歌っていらした名曲である。

小田原漂情歌 長崎の鐘・新しき 

 これらの営みを、「なしうること」として、能う限りつづけていくことを、今日は改めて誓った次第である。

長崎の鐘
  長崎の鐘

2025(令和7)年8月9日
小田原漂情

 なお、今日は十数年ぶりに、時の首相の真摯な挨拶を聞いた。6日の広島と合わせ、この点についてのみ、石破茂氏を首相として高く評価して良いと考えた。

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小田原漂情
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小田原漂情(学習塾塾長)

有限会社 言問学舎

<真の国語>とは?正解を見つける力ではなく、文章の本質を読みとり、自分の身に引きつけて、生きた考えを組み立てられる力のことです。それをすべての生徒が「わかる」ように、かつ「楽しく」指導します。

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