研鑽と進化を
東京都の英語スピーキングテストについて、あまり一般的に報道されていないようですから、当事者となる中学3年生の方たちのために、当方で把握していることをお伝えします。
5月26日に、東京都教育委員会から「東京都立高等学校入学者選抜における東京都中学校英語スピーキングテスト(ESAT-J)結果の活用について」が発表されました。令和5年2月期の高校入試から活用することは、昨年(令和3年)9月に公表しているとのことです。今日重視されている英語の4技能(読む、書く、聞く、話す)のうち、「話す」力をみるものとされています。
合格者選抜の制度の骨子は、6段階評価の20点満点(A20点、B16点、C12点、D8点、E4点、F0点)で、内申点(調査書点)300点+当日(入試)点700点=1000点に外付けされ、1020点満点での合否判定とする、ということです。1000点満点において800点が合格ラインである高校を例に、ちょっと試算をしてみましょう。
調査書点 当日点 スピーキング 総計
受験生A 267 390 換算546 12 825/1020
受験生B 267 388 換算543 16 826/1020
真剣に勉強している受験生がおそらく多く分布するであろうBやCなら過度の心配はないと思われますが、ボーダーラインでは1点の違いで合否が分かれるのですから、Bの16点とCの12点の4点差が運命を分けることもあり得ます(ボーダーぎりぎりでなければ、大きな問題はないと思われます)。
またこのスピーキングテストだけを見た場合、制度上当然ではありますが、このテストの上位得点者が不合格、下位得点者が合格になるケースも想定されます。
調査書点 当日点 スピーキング 総計
受験生C 263 380 換算532 4 799/1020
受験生D 249 380 換算532 16 797/1020
このケースでは、スピーキングで16点を取ったDさんより、スピーキング4点のCさんの方が総合点が高く、かりに合格最低点が798点か799点になった場合、Cさんは合格でDさんは不合格となるわけです。もちろん、スピーキングテストで逆転できる場合もあるなど、入試の合否は複雑な要因が絡まり合った結果であります。
もともとの1000点満点のうち内申点(調査書点)は300点で、実技4科2倍換算後の65点でこれを割ると約4.6点になりますから、概算で主要5教科は通知表の1点が4.6点、実技4科は9.2点に相当します。英語スピーキングテストは評価1段階の違いが4点ですから、おおむね5教科の通知表1点弱にあたるものと言えます。心配し過ぎることはありませんが、もし受けていないと通知表の4点以上が最初からない勘定になりますから、軽視することはできません。受験生のみなさんは、これまでの努力をこのスピーキングテストで無にしてしまうことのないように、しっかり対策をする必要がありますね。また7月7日から学校で学校で申し込みがはじまるようですから、申し込みを忘れたりしないよう、十分ご注意下さい(受ける受けないが任意ではありません)。
なお巷では制度導入に反対の声も上がっているようです。そこにみられる大きな懸念材料は、おおむね以下のようなところです。
・国が大学共通テストでの民間テスト導入を見送ったこととの整合性。
・実際の運営には業者が当たるが、実施業者に個人情報漏洩の過去があり、不安が残る。
・タブレットを前半、後半と「2人で1台」使用としているが、運用上懸念がある。
・前半受けた受験生から後半受ける受験生に内容が伝わるケースも出るのではないか。ひとつの試験で実施時間が2度となるのはおかしい(前・後で別の内容として然るべき)。
・実数は少ないが、私立中や国立中から都立高を受験する人もいる。その人たちはスピーキングテストを受けないかも知れない。「不受験者」の扱いは公表されたが、その点にも、公平性の面から疑義が多く寄せられている。
・区によって、業者の対策テストの実施状況にばらつきがあり、ほとんど実施していない区も存在する。すなわち、入試の公平性に疑問符がつく。
・重要な制度なら、拙速を避け問題点を解決した上で、長く信頼される制度運営を図るべきだ。
このひと月ほど目にしているのは以上のようなところですが、いずれにせよ実施が公表されている以上、受験生としては万全の備えをしておく必要があります(先述した通り過度の不安を抱く必要はありませんが)。言問学舎でも、夏期講習以降状況を注視しながら、必要な指導体制を組み、指導を実施する方針です。
私どもは塾の生徒たちと多くの受験生のためにできることをするほかありませんが、中学生に教えることも多い森鷗外の『最後の一句』が、心に浮かぶことの多いこの日頃です。
「お上(かみ)のことにはまちがいはございますまいから。」