何歳から知育を始めるか
授業中、子どもが何かに挑戦して、うまくいかないことがあります。そんなとき、僕はすぐに声をかけるとは限りません。
困っているのだから、教えてあげた方がよいのではないか。そう思われるかもしれません。
もちろん、何をすればよいのかまったく理解できていない子どもには、説明をします。必要なことを教えるのは、僕たち指導者の仕事です。
ただ、自分で考え、こうしようと決めて取り組んだ結果、失敗したのであれば、少し様子を見ることがあります。その子が次にどうするのかを、見ていたいからです。
大人の言葉が子どもの答えになる
子どもが失敗したとき、大人はつい声をかけたくなります。「こうすればよかったんじゃない?」「次は、こうしてごらん」どちらも、子どものためを思っての言葉です。
ただ、子どもにとって講師の言葉は、とても大きな影響力を持っています。講師が何かを言うと、それが正しい答えだと思い、すぐにそのとおりにしようとする子どももいます。
「どうして、そうしたの?」と尋ねても、講師が先ほど使った言葉を、そのまま繰り返すことがあります。その言葉を聞いただけでは、本当に理解できたのかはまだ分かりません。
大人の言葉を覚えることと、自分でわかることは、必ずしも同じではありません。
だから僕は、子どもが自分で選んだことについては、失敗した直後に答えを渡さないようにしています。
もう一度やってみるのか。別の方法を考えるのか。友だちの様子を見て、何かに気づくのか。その時間にこそ、学びがあると思うからです。
長嶋茂雄さんと松井秀喜さんの素振り
プロ野球の長嶋茂雄さんが、若き日の松井秀喜さんに素振りを指導していた話があります。
長嶋さんが大切にしていたのは、バットが空気を切る音でした。松井さんがバットを振るたびに、長嶋さんは音の良し悪しを伝えたそうです。
ところが、当初の松井さんには、その違いがわかりませんでした。それでも長嶋さんは、一度や二度の説明で終わらせず、繰り返し指導を続けました。やがて松井さんは、自分でも音の違いがわかるようになったと振り返っています。そして、長嶋さんがそばにいなくても、自分で同じ練習ができるようになりました。
僕は、この話が好きです。長嶋さんは、決して何も教えなかったわけではありません。むしろ、何度も、根気強く教えています。
けれども、最終的に身につけたのは、松井さん自身がよいスイングを判断する力でした。
教えたことが自分のものになるまで
松井さんはその後、ニューヨーク・ヤンキースで若手選手の指導にも携わり、マイナーリーグ時代のアーロン・ジャッジ選手にも打撃の助言をしています。
長嶋さんから受けた指導が、そのままジャッジ選手に使われたというわけではありません。ただ、教わる立場だった松井さんが、今度は教える立場になったことに、僕は指導のつながりを感じます。
スクールの授業でも、似たことがあります。講師が教えれば、その場では正しくできるかもしれません。でも、講師がいなくなった途端に、どうすればよいかわからなくなるのであれば、まだ十分に身についているとはいえません。
自分で考えて失敗した子どもには、少し待ってみる。何をすればよいかわからない子どもには、必要なことを教える。そして、教えたことを子ども自身が理解し、自分で使えるようになるまで、関わり続ける。
小学校受験では、入試までの時間も限られています。自分で気づくまで、いつまでも待てるわけではありません。必要なことは教えますし、やり方を一緒に確かめることもあります。
ただ、入試本番では僕たちが隣で声をかけることはできません。だから、教えたあとには、子どもが自分で考えて取り組む様子を見たいのです。うまくいかなかったときも、すぐに言葉を挟まず、次にどうするかを少し見てみる。その時間も大切にしています。
僕は、その見極めを大切にしています。
いつか講師がいなくても
子どもが失敗したとき、すぐに声をかけないのは、放っておきたいからではありません。その子が自分で気づく機会を、奪いたくないからです。
もちろん、待っているだけでは前に進めないこともあります。そんなときには、教えます。
大切なのは、声をかけたかどうかではなく、その関わりによって子どもに何が残ったかだと思います。
指導者の役割は、いつまでも正解を教え続けることではなく、やがて子ども自身が考え、判断できるようにすること。
そのために、教えることも、待つことも、どちらも大切にしていきたいと思っています。
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