強みがない会社員は頼まれごとの棚卸しから
業務委託は腕だけで続くわけではない
――新井さん、独立後の仕事の大半が前の勤め先からで、担当者が代わったあとに打ち合わせが減ったという相談です。業務委託は急に打ち切られることがあるのでしょうか?
新井:あります。業務委託は、仕事ぶりが悪いから終わるとは限りません。窓口が代わる、予算が変わる、相手の方針が変わる。そういうことで急に話が止まることもあります。だから、契約が終わりそうな時に「もっと良い仕事をしなければ」とだけ考えると、見る場所を間違えます。
――最初に見る場所はどこですか?
新井:契約書です。特に、解除の条項と、契約期間・更新の条項。揉めごとの時にまず見るのはこの2つですが、何年も続いている取引ほど、ここが曖昧なままになっていることがあります。
解除と更新の書き方で対応が変わる
――請負と準委任という言葉も出てきますが、そこも関係しますか?
新井:関係します。請負は成果物の完成を約束する契約で、準委任は決められた事務を進める契約です。民法上、請負なら仕事が完成しない間は注文者が解除できますし、準委任なら双方が解除できます。ただし、解除できることと、損害賠償が要るかどうかは別です。
――契約書に何も書いていなければ、かなり不安ですね。
新井:そうですね。作業の範囲、修正の回数、毎月どれくらい頼まれる前提か、終わる時は何日前に言うのか。このあたりを文字にしていないと、担当者が代わった時に「前からそうでしたよね」が通じなくなります。
30日前の予告が要る取引か確認する
――フリーランス法の30日前予告も関係しますか?
新井:関係する場合があります。フリーランス法は2024年11月1日に施行され、継続的業務委託の解除や不更新では、少なくとも30日前までに予告しなければならない場合があります。ポイントは、相手が特定業務委託事業者にあたるか、取引が6カ月以上続く継続的なものかです。
――すべての業務委託に当てはまるわけではないのですね。
新井:はい。相手が従業員を使っていない個人事業主だったり、単発の発注だったりすれば、扱いは変わります。災害、再委託元の契約終了、30日以下の短い個別契約、受ける側の落ち度など、予告が要らない例外もあります。だから、法律名だけで安心せず、自分の契約がどれに当たるかを確認してください。
理由を聞ける時期を逃さない
――もし予告を受けたら、理由は聞けますか?
新井:予告された日から契約満了日までの間なら、解除理由の開示を求められる場合があります。相手は遅れずに開示する必要があります。ただし、第三者の利益を害するおそれがある場合や、他の法令に違反する場合は例外です。
――専門家に相談するなら、何を持って行けばいいでしょう?
新井:いまの契約書、更新時に送り返した書面、請求書、相手とのメール。この4つですね。取引かけこみ寺やフリーランス・トラブル110番のような相談先もあります。匿名で相談できるところもあるので、「この解除条項のままでよいか」を一問だけ聞いてみるといいですよ。
範囲を書いておくと次の紹介にもつながる
――契約を守る話は、少し硬く感じます。営業にも関係しますか?
新井:あります。受託の仕事は、サイトからの問い合わせだけで増えるわけではありません。近くで仕事を見ている取引先や専門家から紹介されることも多いです。ところが、範囲の外側を毎回ただで引き受けていると、頼む側も次の相談を持ちかけにくくなります。
――良かれと思って引き受けすぎると、かえって分かりにくくなるのですね。
新井:そうです。条件を文字にしておけば、切られた時の備えになりますし、次の紹介への備えにもなります。相手に対して強く出るためではなく、どこまで頼める仕事なのかを互いに分かるようにするためです。まずは全部を直そうとしなくていい。更新前に、解除条件と予告期限を契約書へ入れる。この1点から始めてください。いくつも一度に通そうとすると、更新の話そのものが先に延びてしまいますから。続けたい取引ほど、終わり方を先に決めておくほうが安心ですよ。
起業家インタビュー(聞き手:伊藤純子)
新井一氏プロフィール
起業18フォーラム代表。「会社員のまま6カ月で起業する」方法を伝える起業支援キャリアカウンセラー。キャリア26年以上の実績を持ち、延べ60,000人の会社員の起業をサポート。会社員時代に始めた事業で培ったノウハウ、多数の起業家を生み出してきた実践的技術を武器に、起業支援&集客マーケティングの専門家として活動中。
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