役職定年で時間ができた50代の定年後のための起業準備法
契約名義より、仕事で使った部分を説明できるかを見る
――新井さん、今日はサブスクの経費についてです。クラウド保存、AI、写真加工アプリなどを個人名義で契約している場合、仕事にも使っていれば経費にできるのでしょうか?
新井:事業で使った部分は必要経費になります。契約者の名義が個人かどうかだけで決まるわけではありません。決め手は、仕事で使った部分を明らかに分けて説明できるかです。
――家族も使っているサービスだと、怖くて入れられない方もいそうです。
新井:多いと思います。否認されるのが怖いから全部外す、という方もいます。ただ、使った分をまったく入れないと、払った費用が引かれないまま所得が計算されます。来年の判断材料も残りません。怖いから入れない、ではなく、説明できるものだけ入れると考えてください。
買い切りのパソコンと、月額サブスクは扱いが違う
――まず、パソコンや机のように買ったものとは分けて考えるのですね。
新井:はい。買って自分のものになるものは、金額で処理が変わります。10万円未満なら原則その年の必要経費、20万円未満なら一括償却資産として3年に分ける方法があります。一定の青色申告者なら、少額減価償却資産の特例を使える場合もあります。
――サブスクはそこには当てはまらないのですか?
新井:月々の利用料を払って使う契約は、自分の資産を買ったわけではありません。毎月の利用料は、払った期間の費用として必要経費を考えます。年額が10万円を超えたから固定資産にしなければ、という心配は基本的に要りません。
――年払いにした場合はどうなりますか?
新井:翌年分のサービスを先に払った部分は前払費用です。ただ、支払った日から1年以内に提供を受ける役務なら、支払った年の必要経費にできる扱いもあります。大事なのは、毎年同じやり方を続けることです。年払いに変えた年だけ都合よく変える、は避けましょう。
仕事と家庭で使うなら、分け方を書けるものだけ入れる
――仕事にも家庭にも使う場合は、どんな記録を残せばいいのでしょうか?
新井:所得税の考え方では、家事上の経費は必要経費に入りません。ただ、仕事に必要な部分を明らかに分けられるなら、その部分は入れられます。ですから、割合を先に決めるより、なぜその仕事に必要だったかを説明できるかを見ます。
――たとえば、写真加工アプリならどう分けますか?
新井:納品した画像の日付、請求書、利用履歴がつながるなら説明しやすいですね。文章を書く仕事でAIを使ったなら、どの工程で使ったのか、請求した仕事と結びつくのかを見る。クラウド保存なら、仕事用フォルダ、保存した納品物、利用者を分けられるかです。
――「何となく仕事にも使った」は弱いのですね。
新井:弱いです。逆に、仕事で使った月、使った理由、残す記録の3つを書けるなら、名義が個人でも説明できます。家族と共用していて分け方を書けないものは、今年は入れない判断もあります。それは負けではなく、記録を残す年にするということです。
全部外すより、1つ選んで記録の残し方を決める
――経費に入れるか外すかで迷うと、通帳の引き落としを見るだけで嫌になりそうです。
新井:全部を一度に片づけようとしないことです。契約しているサービスを1つだけ選びます。利用時間、利用者、業務用アカウント、納品物の日付、請求書のどれかで分けられるかを見る。分けられるなら、その基準を今年は変えずに使います。
――割合は毎月変えてもいいのでしょうか?
新井:使い方が月ごとに違うなら、月ごとに説明できる形はあります。ただし、思いつきで割合を変えるのは危ないですね。たとえば、納品に使った月だけ入れる、仕事用フォルダの容量で分ける、業務用アカウントだけを入れる。基準が言葉で説明できることが大切です。
――帳簿に入れる前に、判断メモを残す感じですね。
新井:そうですね。請求書に載せた仕事は何か。その仕事で、どのサブスクをどう使ったか。この2つを残しておけば、あとから見ても分かります。
迷う金額や使い方は、税務署か税理士に確認する
――最後に、実際に今年の確定申告へ向けて何をすればいいでしょうか?
新井:まず、通帳やカード明細からサブスクを3つまで抜き出してください。そのうち1つについて、仕事で使った月、使った理由、残す記録を書きます。書けたものだけ帳簿へ入れる。書けないものは今年は外して、来年から分けられるように契約やアカウントを整えます。
――「名義が個人だからだめ」と決めつけなくていいのですね。
新井:はい。名義より使い方です。ただし、同じサービスでも家庭ごとの使い方で判断は変わります。金額が大きいもの、家族利用が多いもの、雑所得と事業所得の扱いで迷うものは、所轄の税務署か税理士に確認してください。
――入れるか外すかではなく、説明できるかを見る。
新井:そこです。経費は、強気に入れるものでも、怖がって全部外すものでもありません。仕事で使った事実を、あとから自分の言葉で説明できるように記録するものです。
起業家インタビュー(聞き手:伊藤純子)
新井一氏プロフィール
起業18フォーラム代表。「会社員のまま6カ月で起業する」方法を伝える起業支援キャリアカウンセラー。キャリア26年以上の実績を持ち、延べ60,000人の会社員の起業をサポート。会社員時代に始めた事業で培ったノウハウ、多数の起業家を生み出してきた実践的技術を武器に、起業支援&集客マーケティングの専門家として活動中。
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