住宅ローン返済中に起業準備を始めても家計は大丈夫? 30代の考え方は?

新井一

新井一

テーマ:起業

住宅ローンがある人ほどリスクを分けて考える

――新井さん、住宅ローンを組んだばかりで子どもも小さい30代が、起業準備を始めるのは危ないのでしょうか?

新井:危ない始め方はあります。いきなり会社を辞める、生活費を削って高額講座に突っ込む、自宅を事業用に大きく使う。このあたりは慎重に見ないといけません。でも、会社の収入を残したまま、費用と時間に上限を決めて小さく試すなら、家計を守りながら準備することはできます。

――「起業するか、何もしないか」の二択ではないのですね。

新井:そうです。住宅ローンがあると、起業という言葉が急に大きく見えます。でも不安の中身を分けると、お金、時間、家族の安心、勤務先のルール、自宅利用の条件に整理できます。ひとつずつ確認すれば、今できる範囲が見えてきます。

最初に決めるのは家計の最低ライン

――まず何から確認すればいいですか?

新井:家計の最低ラインです。毎月の返済、生活費、教育費、保険、税金を見て、家族の暮らしを守るために最低いくら必要かを出します。この数字がないまま「月30万円稼げたら辞めよう」と考えると、判断が粗くなります。逆に最低ラインが見えれば、そこに届くまでは会社を辞めない、と決められます。

――売上目標より先に、防衛ラインを決めるのですね。

新井:はい。さらに、起業準備に使うお金も月いくらまでと決めます。書籍、ツール、セミナー、広告費。少額でも積み重なると家計を圧迫しますからね。生活費と返済資金には手をつけない。ここを家族と共有しておくと、起業準備が「勝手に始めた危ないこと」ではなくなります。

会社を辞める段階と小さく検証する段階は別

――住宅ローンがあると、家族に反対されるケースも多そうです。

新井:それは自然です。家族から見ると「起業=給料がなくなる」と感じますから。でも、退職して始める段階と、在職中に小さく検証する段階はまったく違います。週末に1回だけ相談を受ける。知人ではない人にヒアリングする。勤務先と関係のない範囲で、公開情報だけを使って講座を試す。こういう検証なら、収入の柱を外さずにできます。

――ただ、会社員のままでも注意点はありますよね。

新井:もちろんあります。就業規則、競業避止、秘密保持、勤務時間外かどうか、確定申告、契約責任。ここは確認が必要です。小さいから何でも許されるわけではありません。だからこそ、最初に範囲を決める。会社の顧客、会社の資料、会社の端末は使わない。自分の時間と自分の材料だけで試す。この線引きが大事です。

自宅を使うなら住宅ローンと税務も確認する

――在宅で始めれば費用は抑えられそうですが、自宅利用にも注意がありますか?

新井:あります。自宅を事務所、教室、レンタルスペースのように使う場合は、住宅ローン契約、金融機関の承諾が必要か、火災保険、マンションなら管理規約、用途地域を確認してください。住宅ローン控除も居住部分が前提ですから、事業利用部分が大きくなると計算に影響することがあります。

――家で少し作業するだけなら大丈夫、と思い込みがちです。

新井:パソコンで資料を作る程度と、お客さんを自宅に呼ぶのでは意味が違います。そこを一緒にしないことです。税金やローンの扱いは個別事情で変わりますから、金融機関や税務署、専門家に確認する。家計を守る起業準備では、「確認してから小さく動く」が基本です。

収入の蛇口は太くするよりもう1本作る

――ローン返済中の人は、どんな一歩から始めると現実的でしょうか?

新井:いきなり大きな売上を狙わず、給料以外の小さな収入経路を1本作ることです。たとえば建設会社に勤める30代の方が、会社の図面や顧客を使わず、一般向けに図面の読み方を教える講座を週末に試したことがあります。最初は小さな反応でしたが、家計の最低ラインと活動時間を決めていたので、焦らず続けられました。

――売上が出ても、すぐ返済計画に組み込まないほうがいいのですね。

新井:そうです。月に数万円の売上が出ても、税金、経費、継続性を見ないと本当の手残りは分かりません。住宅ローンがあるなら、なおさら固定収入のように扱わないことです。記録をつけて、3カ月、6カ月と様子を見る。小さな売上を家計の安心材料に育てるには、時間が要ります。

怖さを消すより動ける範囲を決める

――最後に、住宅ローン返済中で一歩を迷っている30代へメッセージをお願いします。

新井:怖さをゼロにしてから動こうとすると、たぶん何年も動けません。大切なのは、怖さを消すことではなく、負える範囲を決めることです。毎月の家計最低ライン、準備費の上限、使える時間、会社のルール、自宅利用の条件。この5つを書き出すだけでも、漠然とした不安はかなり小さくなります。

――住宅ローンは、起業準備をあきらめる理由ではなく、進め方を慎重にする条件なのですね。

新井:その通りです。住宅ローンは家族を守るために選んだものです。だから、それを壊す準備はしない。会社を続けながら、小さく試して、数字を記録する。まずはこの1カ月の通帳とレシートを見て、家計の最低ラインを書き出すところから始めてください。そこからなら、起業準備は十分に現実的になりますよ。

起業家インタビュー(聞き手:伊藤純子)

新井一氏プロフィール

起業18フォーラム代表。「会社員のまま6カ月で起業する」方法を伝える起業支援キャリアカウンセラー。キャリア26年以上の実績を持ち、延べ60,000人の会社員の起業をサポート。会社員時代に始めた事業で培ったノウハウ、多数の起業家を生み出してきた実践的技術を武器に、起業支援&集客マーケティングの専門家として活動中。

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