合同会社と株式会社、どう選ぶ?

新井一

新井一

テーマ:起業

会社を作る段階で、最初に迷うのが会社の種類

――新井さん、会社員のまま起業準備を進めて、いよいよ法人を作る段階になった方から「合同会社と株式会社、どちらがいいのでしょうか」という相談が増えています。費用だけで決めてよいのか、信用も気になるようです。

新井:ここは本当に迷いますよね。会社を作るとなると、なんとなく株式会社のほうが立派に見える。でも、最初からその見え方だけで決めると、必要以上にお金と手間をかけてしまうことがあります。合同会社と株式会社は、どちらが上という話ではなく、費用を抑えるか、対外的な伝わりやすさを取るかの違いですよ。

――「株式会社にしておけば安心」と思ってしまいがちです。

新井:気持ちは分かります(笑) ただ、起業準備中の会社員が最初に見るべきなのは、看板の大きさよりも事業の中身です。誰に何を売るのか、1人で回せる規模なのか、取引先は個人中心なのか法人中心なのか。そこが決まっていないまま会社の形だけ立派にしても、肝心の売上にはつながりません。

費用差は、登録免許税と定款認証で出る

――具体的な費用では、どこに差が出ますか?

新井:大きいのは登録免許税と定款認証です。登録免許税は、合同会社なら最低6万円、株式会社なら最低15万円が目安になります。さらに株式会社は公証人による定款認証が必要で、資本金などの条件によって手数料がかかります。合同会社はこの定款認証が不要です。

――最低額だけでも差がありますね。

新井:そうです。設立時だけでなく、株式会社は決算公告の義務もあります。小さく始める段階では、こういう固定的な手間が意外と重く感じる人もいます。拙著でも書いていますが、会社員のまま始めるなら、まずは「1人でできるサイズ」から考えるのが基本です。借入や大きな仕入れを背負わず、自分1人とお客様1人で成り立つ形を作る。そのサイズなら、合同会社の身軽さはかなり相性がいいですよ。

――では、費用を抑えたい人は合同会社でよいのでしょうか。

新井:かなり有力な選択肢です。ただし、費用だけで決めきらないほうがいい。たとえば、最初から大手企業と取引する予定がある、入札や審査のある仕事に出る、将来出資者を入れる計画がある。こういう場合は、株式会社のほうが話が通りやすい場面もあります。

信用とは「偉そうに見える」ことではない

――信用という言葉が出ると、株式会社のほうが強そうに見えます。

新井:ここでいう信用は、偉そうに見えるという意味ではありません。初対面の相手が、あなたの会社を確認しやすいかどうかです。株式会社は公証人による定款認証を経て設立されますし、株主総会や取締役といった仕組みも一般的に知られています。相手から見ると、組織の形をイメージしやすいのです。

――合同会社だと不利になりますか?

新井:不利と決めつける必要はありません。合同会社でも有名な会社はありますし、今は選ぶ人も増えています。ただ、相手が昔ながらの法人審査をする業界だと、「株式会社でないと新規取引先登録がしにくい」と言われる可能性はあります。だから、自分のお客様が誰かを先に見ることです。個人向けの相談業、講座、小さな制作業なら合同会社で十分なケースも多い。法人向けで、相手の社内審査が厳しいなら株式会社を検討する。この順番ですね。

――自分側の都合だけではなく、相手側の確認のしやすさも見るわけですね。

新井:はい。会社の種類は、自分の気分を上げるためのものではなく、取引の入口で相手に余計な説明をさせないためのものでもあります。

起業準備中なら、法人化の前に売る中身を固める

――「法人にしたら本気になれる」という考え方もあります。これはどう見ますか?

新井:それで動ける人もいますが、順番としては少し危ないですね。法人化はゴールではなく、器を作る手続きです。器を作っても、中身が空なら売上は立ちません。僕のところに相談に来る方でも、会社名や印鑑やホームページまでは整えたのに、「何をいくらで誰に売るか」が曖昧なまま止まっている人がいます。

――先に決めるべきなのは、売るものなのですね。

新井:そうです。自分が会社員時代に自然にやってきたこと、人から頼まれたこと、感謝されたことを棚卸しして、最初の提供メニューを1つ作る。起業準備はそこからです。会社を辞める前に小さく試し、反応があるなら法人化の意味もはっきりしてきます。

――法人化のタイミングを焦らないほうがよいと。

新井:焦らなくて大丈夫です。個人事業で始めて、取引先や売上の状況を見てから法人化する人もいます。もちろん、契約上どうしても法人が必要な仕事なら早めに考える必要がありますが、その場合も「合同会社か株式会社か」だけを悩むのではなく、相手の審査条件を直接確認したほうが早いです。

迷ったら、3つの質問で絞り込む

――判断する時のチェックポイントを教えてください。

新井:3つあります。1つ目は、設立時の費用差を自分の資金計画に入れても無理がないか。2つ目は、予定している取引先が株式会社であることを求める可能性があるか。3つ目は、将来出資者を入れたり、株式を使った設計をしたりする具体的な予定があるかです。

――この3つで見れば、かなり整理できますね。

新井:はい。たとえば、会社員のまま副業から始めて、最初は個人向けにサービスを売る。大きな仕入れも借入もない。こういう人なら、合同会社で費用を抑える考え方は自然です。一方で、法人営業が中心で、相手の購買部門や審査部門を通る予定があるなら、株式会社にしておく理由が出てきます。

――最後に、法人形態で迷っている方へメッセージをお願いします。

新井:会社の種類で悩めるところまで来たのは、起業準備がかなり具体化している証拠です。ただ、そこで止まりすぎないでください。合同会社か株式会社かは、費用と信用と取引先の見え方で決める。そして、どちらを選んでも、最終的に見られるのは会社の形ではなく、あなたが何を提供できるかです。器を決めたら、次はお客様に渡す中身を磨いていきましょう。

――形を決めるためにも、先にお客様と提供内容を見るのですね。ありがとうございました。

新井:こちらこそ、ありがとうございました。

起業家インタビュー(聞き手:伊藤純子)

新井一氏プロフィール

起業18フォーラム代表。「会社員のまま6カ月で起業する」方法を伝える起業支援キャリアカウンセラー。キャリア26年以上の実績を持ち、延べ60,000人の会社員の起業をサポート。会社員時代に始めた事業で培ったノウハウ、多数の起業家を生み出してきた実践的技術を武器に、起業支援&集客マーケティングの専門家として活動中。

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