副業の収入が給与を上回ったら会社を辞めて大丈夫なのか?
請求書をPDFで送るなら、控えも電子で残す
――新井さん、今日は「請求書をメールで送ってください」と言われたときの話です。副業や個人仕事を始めると、PDFで請求書を送る場面が増えますよね。
新井:増えていますね。最初は「先方の指定書式に合わせればいい」と思いがちですが、実はそこだけ見ていると危ないですよ。メールでPDFの請求書を送った側にも、その控えを電子データのまま残す必要があります。
――受け取った領収書ではなく、自分が送った請求書も対象になるのですね。
新井:そうです。電子帳簿保存法の電子取引は、受け取ったデータだけの話ではありません。自分が作って相手に送った請求書、見積書、注文書の控えも入ります。紙で郵送していたころは控えを印刷して綴じれば済みました。でもメール添付や購買サイトへのアップロードになると、保存の場所が送信済みメール、パソコン、クラウドに散らばります。ここを最初に整えておくことが大事です。
印刷して綴じるだけでは足りない
――PDFを印刷してファイルに入れておく、というやり方ではだめなのでしょうか。
新井:今は「紙に出しておけば保存したことになる」という扱いでは通りません。印刷したものは確認用として役に立ちますが、電子取引データそのものを残すこととは別です。だから、送ったPDF、送信済みメール、アップロードした控えを消さない仕組みにしておく必要があります。
――具体的には、何から始めればいいですか。
新井:まずは保存先を1つ決めることです。専用ソフトを入れる前に、フォルダを作って、ファイル名をそろえる。たとえば「20260821_33000円_株式会社〇〇_請求書.pdf」のように、日付、金額、取引先が分かる名前にします。購買サイトに上げる場合も、画面からあとで出せるかを確認し、出せないなら自分の手元にも保存しておく。ここまでなら今日からできますよ。
保存の要件は改ざん防止と見つけやすさ
――電子で残すと聞くと、タイムスタンプなど難しい要件が必要そうです。
新井:選択肢はいくつかあります。タイムスタンプを使う方法、訂正や削除の記録が残るシステムを使う方法、訂正削除の防止に関する事務処理規程を作る方法などです。小さく始める人には、いきなり高い仕組みを入れるより、事務処理規程を作って運用するほうが現実的な場合も多いですね。
――規程というと大げさに聞こえます。
新井:名前は硬いですが、やることはシンプルです。勝手に訂正や削除をしない。やむを得ず直すなら、いつ、どの取引先の、どの金額のデータを、なぜ直したかを残す。これを決めておくわけです。もう1つは、必要なときに探せること。日付、金額、取引先で見つけられるようにしておくと、税務調査や取引先からの問い合わせにも慌てにくくなります。
新しく始めた人ほど、まず消さない仕組みを作る
――検索できる状態にするには、やはり専用ソフトが必要でしょうか。
新井:必ずしもそうではありません。前々年の売上高が5,000万円以下の人や、基準期間がない新規開業の初年・翌年は、検索機能の確保が不要になるケースがあります。ただし、データを消していいという意味ではありません。求められたらダウンロードできるように、電子データそのものを残す。ここは外せません。
――要件が整う前に請求書を送ることになったら、どう考えればいいですか。
新井:猶予措置もあります。システムや手順の整備が間に合わない相当の理由があり、調査などで電子データと出力書面を出せる状態なら、保存時の細かい要件がそろっていなくても認められる余地があります。事前申請は要りません。ただ、これを「印刷だけでいい」と誤解してはいけません。土台はあくまで電子データを残すことです。
1通目を送る前にフォルダを決める
――起業準備中の人は、どこまで整えてから仕事を受けるべきでしょう。
新井:完璧にしてから仕事を受けようとすると、最初の1件が遠くなります。僕なら、1通目を送る前に3つだけ決めます。保存フォルダ、ファイル名のルール、送信済みメールを消さないルール。この3つです。
――かなり現実的ですね。
新井:医療機器メーカーで品質保証をしていた方が、休日に取扱説明書の英訳や校正を受け始めたことがあります。最初は取引先ごとの指定に合わせるだけで精一杯でした。ある会社にはPDFをメールで送り、別の会社には購買サイトへアップロードする。ところが確定申告前に見直したら、控えが送信済みメールの中だけ、または先方サイトの中だけに残っていた。そこで日付、金額、取引先名でファイル名をそろえ、1つのフォルダに集め直したのです。
――それだけでも、かなり安心感が変わりそうです。
新井:変わりますよ。請求内容を聞かれたとき、その場で開けるようになります。差し戻しがあっても、どの版を送ったか確認できます。起業は派手な集客だけではなく、こういう地味な土台で信用が積み上がります。請求書の保存は、税務のためだけでなく、取引先に迷惑をかけないための仕事の型でもあります。
制度対応も、小さな段差に分ければ進められる
――最後に、これから個人で仕事を受ける人へ、最初の一歩をお願いします。
新井:今日やるなら、難しい制度名を調べ続けるより、まず「請求書」フォルダを作ってください。次に、送ったPDFをそこへ保存する。ファイル名に日付、金額、取引先を入れる。これで1段目です。
――いきなり全部ではなく、まず消さずに残すところからですね。
新井:そうです。起業準備は、準備そのものを目的にすると重くなります。実際の取引が始まる前に、必要な分だけ型を作る。1通送るたびに同じ型で残していけば、後から整えるのも楽になりますよ。
――ありがとうございました。メール請求書は送る前の保存ルールが大事だと分かりました。
新井:こちらこそ、ありがとうございました。
起業家インタビュー(聞き手:伊藤純子)
新井一氏プロフィール
起業18フォーラム代表。「会社員のまま6カ月で起業する」方法を伝える起業支援キャリアカウンセラー。キャリア26年以上の実績を持ち、延べ60,000人の会社員の起業をサポート。会社員時代に始めた事業で培ったノウハウ、多数の起業家を生み出してきた実践的技術を武器に、起業支援&集客マーケティングの専門家として活動中。
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