会社員のまま起業準備を始めたい人が陥る「情報収集の罠」とは? 起業支援25年のプロが明かす、リスクゼロで始める起業準備の新常識
「業務委託契約書」だから印紙が要る、とは限らない
――新井さん、会社員を続けながら個人で仕事を受け始めた方から、紙の業務委託契約書に「収入印紙を貼って返送してください」と言われた、という相談が増えているそうですね。
新井:ありますね。特に法人のお客様と初めて取引するときに慌てる方が多いです。でも、最初に見てほしいのは契約書のタイトルではありません。「業務委託契約書」と書いてあっても、印紙が要るかどうかは中身で決まるのですよ。
――題名では判断できないのですね。
新井:そうです。業務委託という言葉は便利ですが、実際には「成果物を完成させて納める仕事」なのか、「時間や役務を提供する仕事」なのかで扱いが変わります。ここを見ずに、相手に言われたから200円、4,000円と決めると危ないですね。
まず成果物を納める仕事か、時間を出す仕事かを分ける
――具体的には、どこを読めばよいのでしょうか?
新井:まず「何を引き受けているか」です。図面の清書、記事の納品、修理、清掃のように、完成した成果物や完了した仕事を納めるなら請負寄りです。一方で、相談対応、常駐支援、助言のように時間や役務そのものを提供するなら準委任寄りになります。
――同じ月額報酬でも、意味が違うのですね。
新井:違います。月額だから準委任、と決めつけないでください。月額でも、毎月一定の成果物を納める契約なら請負に近い場合があります。見る順番は、業務内容、報酬の発生条件、やり直しの定めです。検収や修補が書かれているなら、成果物を約束している可能性が高いですよ。
――請負型だと、収入印紙が必要になる可能性があると。
新井:はい。請負に関する契約書に当たる場合は、第2号文書として契約金額の階級で税額を見ます。1万円未満は非課税、1万円以上100万円以下なら200円というように分かれます。ただし、ここでも金額欄だけを見て終わりではありません。
契約期間と更新条項で4,000円になることがある
――金額欄だけでは足りない、というのはどういうことですか?
新井:継続的な取引の基本となる契約書に当たると、第7号文書として1通4,000円になることがあります。営業者どうしで、売買や請負などを継続して行うために、単価や支払方法、損害賠償などの条件を先に決めておく契約ですね。
――第2号と第7号のどちらか一方を選ぶ、という話ではないのですか?
新井:そこがつまずきやすいところです。1通の契約書が、第2号にも第7号にも見える場面があります。契約金額の記載がない第2号文書が第7号にも当たる場合は、第7号として4,000円を見ることになります。だから、月額だけ書いてある契約書ほど、期間の欄を見落とせません。
――期間が短ければ大丈夫ですか?
新井:契約期間の記載があり、その期間が3カ月以内で、更新の定めもない場合は第7号から外れる余地があります。逆に言うと、期間の記載がない、3カ月を超える、更新あり。このどれかなら注意です。「短い仕事のつもりだった」ではなく、紙にどう書かれているかを見ます。
電子で取り交わせるなら印紙の問題はかなり減る
――最近はPDFや電子契約も多いですよね。電子なら収入印紙はどうなりますか?
新井:印紙税は文書にかかる税です。電子メールでPDFをやり取りする、電子契約で締結するという形なら、紙の課税文書を作成していないため、収入印紙は原則として不要です。
――では、紙で印刷して保管したら印紙が必要ですか?
新井:自分の控えとして印刷して手元に置くだけなら、相手に交付しているわけではありません。問題になるのは、電子で送ったあとに紙の現物も相手に渡すような場合です。紙を交付すれば、その紙が課税文書として扱われる可能性があります。
――先方から紙で返送してと言われたら、どうしたらよいでしょう。
新井:まずは「電子での取り交わしでもよいですか」と聞いてみることです。失礼ではありません。むしろ、契約書の種類を見分けられないまま印紙を貼るより、電子で済むか確認したほうが実務的ですよ。
貼り忘れは契約無効ではなく、税の問題として見る
――もし貼り忘れてしまったら、契約そのものが無効になるのでしょうか?
新井:そこも分けて考えましょう。収入印紙を貼らなかった場合に問題になるのは、基本的には印紙税の不納付です。契約の効力そのものが、印紙の有無だけで消えるわけではありません。
――過怠税の話ですね。
新井:はい。本来の印紙税を納めていなかった場合は、本来額の3倍になることがあります。調査を予知する前に自分から申し出ると1.1倍に軽減される扱いもあります。消印を忘れた場合にも別の問題が出ます。だから軽く見てよい話ではありませんが、仕事の合意まで全部なくなると怖がる必要はありません。
――落ち着いて修正できる問題として見るのですね。
新井:そうです。焦って相手を責めたり、自分だけで決め込んだりしないこと。分からない1通があるなら、所轄の税務署に契約書を持って相談するのが早いです。
印紙で止まる前に、仕事の中身を先に固める
――起業準備中の方は、契約書の形式を整えるところで止まってしまうこともありそうです。
新井:本当に多いですよ。もちろん契約は大事です。でも、最初から完璧なひな型や印紙の判断だけに時間を使いすぎると、肝心の受注機会が遅れます。起業準備で先に固めるのは、印紙代ではなく「何を、いくらで、いつまでに納めるか」です。
――契約書は、仕事が動き出してから具体化する部分もあると。
新井:そうです。最初の小さな仕事なら、まずメールで条件を残す。法人との継続契約に進む段階で、紙にするのか電子にするのか、請負なのか準委任なのか、期間と更新条項はどうするのかを整理する。順番を間違えないことです。
――最後に、紙の業務委託契約書を前に迷っている方へ一言お願いします。
新井:印紙を買いに行く前に、契約書の題名をいったん隠して読んでください。成果物を納めるのか、時間を提供するのか。期間はあるのか、更新はあるのか。電子で済ませられるのか。この順番で見れば、かなり落ち着いて判断できます。ひとりで抱え込まず、必要なら税務署や専門家に確認しながら進めてください。
起業家インタビュー(聞き手:伊藤純子)
新井一氏プロフィール
起業18フォーラム代表。「会社員のまま6カ月で起業する」方法を伝える起業支援キャリアカウンセラー。キャリア26年以上の実績を持ち、延べ60,000人の会社員の起業をサポート。会社員時代に始めた事業で培ったノウハウ、多数の起業家を生み出してきた実践的技術を武器に、起業支援&集客マーケティングの専門家として活動中。
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