勤め先が買収された… 起業か転職か!?

新井一

新井一

テーマ:起業

買収の知らせで不安になるのは自然なこと

――新井さん、今日は「勤め先が買収されると聞いたとき、起業準備を始めるべきか」という相談です。雇用はすぐになくならないと言われても、上司や評価制度が変わると聞くと落ち着かないですよね。

新井:落ち着かないと思いますよ。会社の看板が変わるかもしれない、上司も評価も変わるかもしれない。そうなると「半年後、自分はどこで何をしているのだろう」と考えてしまうのは自然です。ただ、ここで大事なのは、不安をひとまとめにしないことです。

――ひとまとめにしない、ですか?

新井:はい。まず「雇用そのものが続くのか」という不安と、「続いたとして条件がどう変わるのか」という不安は別です。前者は、買収や経営統合の形でかなり見えてきます。後者は、説明資料や就業規則、評価制度の変更理由を見ないと判断できません。ここを分けずに、いきなり「辞めるか、残るか」で考えるから苦しくなるのです。

買収の形で雇用契約の扱いは変わる

――買収と聞くと、雇用契約も全部リセットされるように感じる方も多そうです。

新井:そこは誤解しやすいところですね。買収や経営統合といっても、株式の取得、合併、事業譲渡、会社分割など、いくつかの形があります。株式の取得なら、雇用主である会社自体は入れ替わらないので、労働契約は基本的にそのまま続きます。合併も包括承継ですから、労働契約や労働条件は存続する会社に引き継がれる扱いになります。

――形によって、本人の承諾が必要かどうかも変わるのですね。

新井:そうです。事業譲渡なら、労働契約を移すには本人ごとの承諾が必要になります。会社分割なら、労働契約承継法にもとづく通知や協議、異議申出の仕組みがあります。だから最初にやることは、噂に振り回されることではありません。社内説明資料を残し、人事に「今回の再編は株式取得なのか、合併なのか、事業譲渡なのか」を確認することです。

――起業準備の前に、まず自分の雇用契約の立ち位置を見るわけですね。

新井:その通りです。契約が引き継がれることと、その後の評価制度や配置が変わらないことは別問題です。労働契約法では、労働者と合意せずに就業規則を不利益に変えることは原則できません。例外があるとしても、変更内容の周知や合理性が必要です。納得できない変更が出たら、感情で反応する前に、手続きと理由を確認してください。

様子を見るなら期限を決めておく

――「新体制が落ち着くまで様子を見る」という選択は、悪くないのでしょうか。

新井:悪くありません。ただし、期限のない「様子見」は危ないです。統合後の評価制度や組織変更は、半年で終わるとは限りません。1年、2年と待っているうちに、起業準備に使えた時間だけが過ぎていくことがあります。

――不安だからすぐ辞める、というのも危険ですよね。

新井:はい、危険です。収入が止まってから売るものを考える順番になると、条件の悪い仕事も断りにくくなります。転職活動だけに時間を使うのも、悪いわけではありませんが、社外に出せる実績の棚卸しが後回しになりがちです。会社の動きは自分で止められません。でも、待っている間に何を残すかは、自分で決められます。

――期限を決めたうえで、同時に準備を進めるということですね。

新井:はい。たとえば「次の社内説明会までに、再編の形と自分の契約の扱いを確認する」「3カ月で、社外に説明できる経験を10個書き出す」と決める。起業準備は、退職届を書くことではありません。会社員のまま、どちらに転んでも使える材料をそろえることから始められます。

会社の看板を外して残る経験を拾う

――実際に、買収や再編をきっかけに準備を始めた方はいるのでしょうか。

新井:いますよ。精密機器メーカーで生産管理を14年続けてきた40代の方が、勤め先の買収をきっかけに起業18フォーラムへ来られました。最初は転職を考えていたのですが、履歴書を書こうとして手が止まったそうです。経歴欄は埋まるのに、「自分は何ができる人か」を一行で言えなかったからです。

――会社の中では評価されていても、外に説明する言葉がない状態ですね。

新井:そうです。そこで、役職や資格ではなく、過去3年で「名指しで頼まれたこと」を拾い直しました。すると、外注先の工程を見て不良の出どころを言い当てる、という地味だけれど価値のある仕事が見えてきたのです。そこから知り合いの町工場に1件だけ有料で相談を受け、少しずつ紹介が増えていきました。

――大きく始めたわけではないのですね。

新井:むしろ小さく始めたから続きました。拙著『起業がうまくいった人は一年目に何をしたか?』でも、一人で始められるか、一人で続けられるか、大きなお金がかからないかを見ます。買収で会社が揺れている時期こそ、いきなり大勝負をするより、会社の看板を外しても残る経験をひとつ商品化するほうが現実的です。

辞めるか残るかの前に材料を増やす

――最後に、同じように勤め先の買収で迷っている方へ、最初の一歩を教えてください。

新井:まず、社内説明資料を手元に残すこと。次に、今回の再編がどの形なのかを確認すること。そして、自分あてに回ってきた頼まれ事を過去3年分だけ書き出すことです。この3つなら、今日からできます。

――それだけでも、少し自分の側に戻ってこられそうです。

新井:買収も経営統合も、社員が選んで始めた話ではありません。でも、それをきっかけに自分の経験を棚卸しすることはできます。焦って辞める必要はありません。新体制をただ待つだけでもありません。雇用契約の扱いを確認しながら、どちらを選んでも使える材料を増やす。それが、いちばん堅実な起業準備ですよ。

――「様子を見る」と「何もしない」は違う、ということですね。ありがとうございました。

新井:こちらこそ、ありがとうございました。

起業家インタビュー(聞き手:伊藤純子)

新井一氏プロフィール

起業18フォーラム代表。「会社員のまま6カ月で起業する」方法を伝える起業支援キャリアカウンセラー。キャリア26年以上の実績を持ち、延べ60,000人の会社員の起業をサポート。会社員時代に始めた事業で培ったノウハウ、多数の起業家を生み出してきた実践的技術を武器に、起業支援&集客マーケティングの専門家として活動中。

新井一のセミナー日程一覧

\プロのサービスをここから予約・申込みできます/

新井一プロのサービスメニューを見る

リンクをコピーしました

関連するコラム

プロのおすすめするコラム

コラムテーマ

コラム一覧に戻る

プロのインタビューを読む

稼ぎ力を引き出す起業支援キャリアカウンセラー

新井一プロへの仕事の相談・依頼

仕事の相談・依頼