4月の「なんとなく起業したい」が、実は一番キケンな理由
屋号は名前決めではなく信用づくりの入口
――新井さん、個人事業を始めるときの屋号で手が止まる人は多いのでしょうか?
新井:多いですよ。名前って、考え始めると正解がありそうに見えますからね。でも、屋号は芸名コンテストではありません。お客さんが「何をしている人か」を思い出すための目印です。会社員の名刺には会社の信用が乗っていますが、個人で仕事を受けるときは、その信用を自分で積み上げていく必要があります。屋号は、その最初の器ですね。
――最初から完璧な名前を作らないといけない、と思い込まなくていいのですね。
新井:はい。むしろ、完璧を待って半年止まるほうがもったいない。事業が育てば、見せ方も変わります。まずは今の仕事に合う名前を決めて、名刺、請求書、口座の整理までつなげる。そのほうが、実際の信用づくりは早く進みます。
屋号を選ぶときは3つの軸で見る
――では、屋号を決めるときは何を基準にすればいいですか?
新井:3つあります。1つ目は、声に出して読みやすいこと。電話で伝えたときに聞き返されにくい名前がいいですね。2つ目は、検索して同じ名前が多すぎないこと。3つ目は、何の仕事かが少しでも伝わることです。凝った言葉より、伝わる言葉のほうが強いですよ。
――おしゃれさより、覚えてもらえるかどうかですね。
新井:その通りです。候補が出たら、一般検索、国税庁の法人番号公表サイト、商標を調べられるJ-PlatPatなどで確認します。個人事業なのに「株式会社」と誤認される文字を入れるのも避けたいですね。名前は自由に見えて、相手の権利や誤認の問題がある。ここだけは先に見ておきましょう。
屋号は後から見直せるが変更の手間はある
――一度決めた屋号は、後から変えられるのでしょうか?
新井:変えられます。開業届の屋号欄は任意ですから、空欄で出す人もいますし、あとで申告書や決算書の屋号欄を変えて使っていくこともあります。記録として残したいなら、開業届を出し直す方法もあります。ただし、請求書、契約書、Webサイト、決済サービス、口座の表示を直す手間は出ます。
――「変えられるから雑でいい」ではなく、「変えられるけれど使う場面を考える」ということですね。
新井:そうです。屋号は看板ですから、ころころ変えると覚えてもらいにくい。だから最初は、長く使えそうな名前を選ぶ。でも、名前が決まらないから動けない、という状態にはしない。このバランスが大事です。
口座やカードは生活費と分ける発想が先
――個人事業主でも、屋号入りの銀行口座やカードは作れますか?
新井:対応している金融機関はあります。ただ、商品、審査、必要書類はそれぞれ違います。屋号だけではなく、個人名と屋号を併記する形になることも多いですね。開業届の控え、e-Taxの受信通知、契約書、請求書、Webサイトなど、事業の実態を示す資料を求められることもあります。
――まず屋号付き口座を作ることが目的ではない、と。
新井:目的は、事業のお金と生活費を混ぜないことです。屋号付きにできれば信用の見え方は整いますが、個人名義の事業用口座でも、生活費と分けて記帳できれば第一歩になります。カードも同じで、屋号表示にこだわる前に、何に使ったかを後から説明できる状態にしておくことが大切です。
商号登記や商標は必要になってから考える
――屋号と商号登記、商標の違いで混乱する人もいそうです。
新井:ここも分けて考えましょう。屋号は個人事業の名前として使う表示です。商号登記は法務局で行う手続きで、費用もかかります。ただ、全国で名前を独占できる制度ではありません。名称を広く守りたいなら商標の話になります。最初から全部やろうとすると、手続きの勉強で止まってしまいますよ。
――まずは事業として継続して使える名前かを確認する、という順番ですね。
新井:はい。たとえば週末にチラシやPOPの制作を受けていた会社員の方が、屋号を決めて、振込先と名刺を整えただけで紹介されやすくなった例があります。相手は個人名より、屋号で仕事を覚えてくれることがある。月5万円ほどの受注でも、そういう積み上げが独立前の土台になります。
屋号は動きながら育てる
――最後に、屋号で迷っている人へ一言お願いします。
新井:屋号は、あなたの事業に「顔」をつける作業です。顔があると、相手は覚えやすいし、紹介もしやすい。ただし、顔を作ること自体が目的ではありません。名前を決めたら、小さく売ってみる。請求してみる。記帳してみる。そこまで進めて初めて、屋号は信用に変わっていきます。
――名前だけで止まらず、その先の行動までつなげるのですね。
新井:そうです。候補を3つ出して、検索と商標を確認して、いちばん伝わるものを選ぶ。まずはそれで十分です。屋号に1年悩むより、今月1件のお客さんに覚えてもらうほうが、起業準備は前に進みますよ。
起業家インタビュー(聞き手:伊藤純子)
新井一氏プロフィール
起業18フォーラム代表。「会社員のまま6カ月で起業する」方法を伝える起業支援キャリアカウンセラー。キャリア26年以上の実績を持ち、延べ60,000人の会社員の起業をサポート。会社員時代に始めた事業で培ったノウハウ、多数の起業家を生み出してきた実践的技術を武器に、起業支援&集客マーケティングの専門家として活動中。
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