「起業したいけどやりたいことがない」はむしろチャンス! 起業18代表が明かす会社員のための逆転発想術
独立を考える前に確認すること
――新井さん、今日は体調に波があり、通院を続けながら働き方を変えたい方からの相談です。会社を辞めて独立すると、お金や健康保険はどう変わるのでしょうか?
新井:体調に波がある方の場合、最初に見るべきなのは、事業の中身よりも「働けない月はどうするのか」ですね。
――仕事の見込みだけで判断しないということですね。
新井:そうですね。そのうえで調べることはたくさんあります。退職後の健康保険を任意継続にするのか、国民健康保険に切り替えるのか、家族の扶養に入れるのか。それぞれ期限や条件が違います。独立の前に、健康保険と働けない月の収入を分けて確認することが大切です。
会社員の健康保険と国民健康保険では守られ方が違う
――会社員の健康保険と、独立後の国民健康保険では何が違うのでしょうか?
新井:大きいのは、働けない期間の所得補償です。会社員が加入する健康保険には、傷病手当金があります。病気やけがで仕事に就けない状態が続き、給与が出ない場合などに、支給開始から通算1年6カ月まで受け取れる制度です。実際の対象になるかは、加入先の健康保険で必ず確認してください。
――国民健康保険には同じ制度はないのですか?
新井:国民健康保険にも傷病手当金という言葉はありますが、任意給付です。会社員の健康保険と同じように使えるとは限らないため、住まいの市区町村で確認してください。だから「独立したら健康保険料がいくらになるか」だけでなく、「休んだ月に何が出るのか」まで見る必要があります。
――任意継続なら安心なのでしょうか?
新井:そこも誤解されやすいところです。任意継続は退職後も最長2年間、会社員時代の健康保険を続けられる制度です。ただし、任意継続に入ってから新たに始まった休業の扱いは、在職中と同じとは限りません。退職前の状態によって扱いが変わるため、加入先で条件確認が必要です。
辞める前に社内で変えられる働き方を探す
――体調に波があると、会社を辞めるしかないと感じる方もいそうです。
新井:その気持ちは分かります。ただ、辞める前に社内で変えられることを確認してください。勤務時間、担当業務、通院日の扱い、在宅勤務の可否。こうした調整で働き方を変えられるなら、いきなり健康保険と収入の土台を手放さずに済みます。
――会社に相談するのは勇気がいりますね。
新井:はい。ただ、相談しないまま独立だけを考えると、選択肢が極端になります。続けるか辞めるか。この二択に見える前に、「今の会社に籍を置いたまま、どこまで負担を減らせるか」を確かめるのです。
――独立準備より先に、今の制度を使い切るということですか?
新井:使い切るというより、残せる土台を残したまま次の働き方を考えるということです。起業準備は勢いだけで進めるものではありません。特に体調の不安がある方は、生活の防波堤を先に確認してから動いたほうがいいですね。
相談先を一つずつ分けて確認する
――誰に相談すればよいのでしょうか?
新井:健康保険は加入先、国民健康保険は市区町村、社内制度は人事や総務、働き方の調整は上司や産業医。聞く相手が違います。
――一か所で全部は分からないのですね。
新井:そうです。面倒ですけどね。たとえば「任意継続にしたら保険料はいくらか」は健康保険の窓口で確認する話です。一方で「通院日に勤務時間をずらせるか」は会社の制度の話です。さらに「独立後に国保へ切り替えたら保険料がどうなるか」は市区町村です。
――確認する順番はありますか?
新井:まず今の健康保険で、傷病手当金の条件と退職時の扱いを確認します。次に会社の就業規則と勤務調整の制度を見ます。そのうえで、国民健康保険や任意継続の保険料を比べる。この順番なら、感情ではなく数字と制度で判断できます。
独立するかどうかは収入が途切れる月を想定して決める
――独立の判断では、どんな数字を見ればよいでしょうか?
新井:毎月の平均売上だけでは足りません。体調が悪くて働けない月があった場合に、家賃、食費、通院費、保険料を払えるかを見ます。売上がある月の計画ではなく、売上が落ちた月の生活費を先に出すのです。
――楽観的な売上計画ではなく、悪い月を見ておくのですね。
新井:はい。独立後は、仕事を休むと売上もなくなります。だからこそ、最初から毎日稼働する前提で組まないことです。週に何日なら無理なく働けるのか、通院日をどこに置くのか、体調が崩れたときに延期できる仕事なのか。このあたりまで考えておく必要があります。
――体調に合わせた事業設計が必要なのですね。
新井:その通りです。対面の仕事だけにすると、当日の体調不良がそのままキャンセルになります。予約変更しやすいオンライン相談、納期に幅を持たせた制作など、商品にも余白を入れるべきです。
今日やることは健康保険の窓口に確認すること
――最後に、今日からできる一歩を教えてください。
新井:今日やることは一つです。今入っている健康保険の窓口に、傷病手当金と退職時の扱いを確認してください。電話でも、問い合わせフォームでも構いません。
――何を聞けばよいのでしょうか?
新井:「自分の場合、傷病手当金の対象になる条件は何か」「退職前後で扱いはどう変わるか」「任意継続にした場合に何が引き継がれ、何が引き継がれないか」。この三つです。ここが分かるだけで、独立の不安はかなり具体的になります。
――まず制度を知ってから、働き方を考えるのですね。
新井:はい。体調に不安がある方が働き方を変えたいと思うことは、決して甘えではありません。ただし、生活を守る順番を飛ばしてはいけません。健康保険、社内調整、国保や任意継続、そして事業の形。この順番で確認すれば、独立はもっと現実的に考えられます。
起業家インタビュー(聞き手:伊藤純子)
新井一氏プロフィール
起業18フォーラム代表。「会社員のまま6カ月で起業する」方法を伝える起業支援キャリアカウンセラー。キャリア26年以上の実績を持ち、延べ60,000人の会社員の起業をサポート。会社員時代に始めた事業で培ったノウハウ、多数の起業家を生み出してきた実践的技術を武器に、起業支援&集客マーケティングの専門家として活動中。
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