強みがない会社員は頼まれごとの棚卸しから
起業に斬新なアイデアは必要なのか
――新井さん、起業したいのに「これだ」というアイデアが浮かばず、何も形にできないという相談は多いのでしょうか?
新井:多いですね。「誰もやっていない斬新な事業でないと成功しない」と思い込んでいる方は、本当に多いです。でも、最初にお伝えしたいのは、起業にすごいアイデアは要らないということです。むしろ、すごいアイデアを探し続けている時間が、準備を止めてしまうことのほうが多いですよ。
――「人と違うことをしなければ」と考えるほど、動けなくなるのですね。
新井:そうです。誰もやっていないことには、誰もやっていない理由がある場合もあります。需要がない、続かない、お金がかかりすぎる。斬新さだけに惹かれると、そこを見落とします。起業準備の入口では、奇抜さより「困っている人が本当にいるか」を見るほうがずっと大切です。
平凡な不満こそ商品づくりの入口になる
――では、アイデアはどこから探せばいいのでしょうか?
新井:身近な不満や困りごとからです。「面倒だな」「ここで毎回つまずくな」「もっとわかりやすく説明してほしいな」。こういう平凡な感覚が、商品やサービスの種になります。起業は発明大会ではありません。誰かの小さな困りごとを、あなたが少し先回りして解決することから始まります。
――自分が困った経験でもいいのですか?
新井:むしろ、そこが一番強いですよ。自分が検索しても答えを見つけにくかったこと、手続きで迷ったこと、人に聞きたかったこと。それを乗り越えた経験があれば、同じ場所で止まっている人に渡せます。自分では平凡に見えても、まだ困っている人にとっては価値があります。
一人で始められるかを先に見る
――とはいえ、思いついた困りごとが本当に起業の種になるか、不安になる方も多そうです。
新井:そこで見るポイントは3つです。一人で始められるか。一人で続けられるか。大きなお金がかからないか。拙著『起業がうまくいった人は一年目に何をしたか?』でも、この視点を大事にしています。最初から仲間や店舗や大きな設備を前提にすると、会社員のまま試すには重すぎます。
――大きな構想より、小さく試せるかを確認するのですね。
新井:はい。未就学のお子さんを育てながら準備していた方で、最初は「人がやっていない事業」を探して止まっていた方がいました。でも、自分が復職前に社内制度を調べて苦労した経験を振り返ったことで、同じ立場の人に向けた小さな相談メニューを作れたのです。斬新ではないけれど、困っている人がいる。そこが大事です。
最初の反応ゼロで失敗と決めない
――小さく出しても、すぐに申し込みが入らないこともありますよね。
新井:もちろんあります。最初の月に反応ゼロでも、失敗と決めつけないでください。大事なのは、誰に向けているかを絞り直し、言葉を変え、悩みが伝わる形にしていくことです。起業18フォーラムでも、最初は反応が薄かった方が、対象を絞っただけで5カ月目に初めて有料申し込みにつながったケースがあります。
――アイデアより、相手の悩みを具体化する作業が必要なのですね。
新井:その通りです。「育休明けで手続きに迷う人」「趣味の作品に値段をつけられない人」「会社の雑務を外で活かしたい人」くらいまで相手が見えると、言葉が変わります。ぼんやり「困っている人へ」と言っているうちは届きにくい。相手を狭くするほど、必要な人には深く届きます。
すごいアイデアより悩みの記録を集める
――今日からできる行動としては、何から始めるのがよいでしょうか?
新井:1週間だけでいいので、自分や身近な人が「これ、不便だな」と言った瞬間をメモしてください。商品名を考える必要はありません。悩みを集めるだけで十分です。そこに、あなたが過去に乗り越えた経験と重なるものがあれば、起業の種になります。
――アイデアをひねり出すより、困りごとを観察するほうが始めやすいですね。
新井:そうですね。すごい発想を待っている間に時間だけが過ぎるのはもったいない。起業準備は、平凡な困りごとを見つけ、少し小さく形にして、必要な人へ届けるところからで十分です。背伸びした斬新さより、目の前の人の「助かった」を増やしていきましょう。
起業家インタビュー(聞き手:伊藤純子)
新井一氏プロフィール
起業18フォーラム代表。「会社員のまま6カ月で起業する」方法を伝える起業支援キャリアカウンセラー。キャリア26年以上の実績を持ち、延べ60,000人の会社員の起業をサポート。会社員時代に始めた事業で培ったノウハウ、多数の起業家を生み出してきた実践的技術を武器に、起業支援&集客マーケティングの専門家として活動中。
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