「起業準備、いつ始めればいいですか?」44歳・会社員の問いに正直に答えます
給与が2か所ある状態として整理する
――新井さん、会社員を続けながら自分の会社も作って、そこから役員報酬を受け取る人がいます。本業の給与と役員報酬が両方あると、確定申告はどう考えればいいのでしょうか?
新井:まず押さえるのは、どちらも税法上は「給与所得」だという点です。本業の給与も、自分の会社から受け取る役員報酬も、同じ給与所得。つまり、給与を2か所から受け取っている状態として整理します。
――副業収入というより、給与が2本あると見るわけですね。
新井:そうです。ここを間違えると、住民税や社会保険の整理までずれてしまいます。会社員起業では「自分の会社だから自由に処理できる」と思いがちですが、役員報酬は給与です。自由度より先に、給与としてのルールを確認する必要があります。
年末調整できない給与は確定申告で合わせる
――年末調整は本業の会社でしてもらっている人が多いですよね。自分の会社の役員報酬はどうなりますか?
新井:年末調整ができるのは、基本的に主たる給与である本業のほうです。自分の会社からの役員報酬は従たる給与として、年末調整の対象外になります。役員報酬の収入金額が20万円を超える場合は、原則として確定申告が必要です。
――そのときは、何をそろえればいいのでしょう?
新井:本業の源泉徴収票と、自分の会社が発行する役員報酬の源泉徴収票。この2枚を使って確定申告書を作ります。帳簿の話に飛ぶ前に、まず「2か所の給与を1つの申告にまとめる」と考えると分かりやすいですよ。
住民税は普通徴収にできると思い込まない
――会社員の方がいちばん気にするのは、住民税で本業の会社に知られないか、という点かもしれません。
新井:そこは誤解が多いところです。確定申告書には「給与・公的年金等以外の所得」にかかる住民税を普通徴収にする欄があります。ただ、役員報酬は給与所得ですから、この欄の対象ではありません。役員報酬分の住民税も、本業給与からの特別徴収が原則です。
――「普通徴収を選べば大丈夫」とは言えないのですね。
新井:言えません。給与所得の住民税は、地方税法上、特別徴収が原則です。もちろん自治体ごとの運用や、給与支払報告書を出すときの例外的な手続きが関係することはあります。ただ、確定申告書の選択欄だけで役員報酬分を普通徴収に切り替えられる、とは考えないほうがいいですね。
天引き額の増加と就業規則を先に見る
――本業の会社には、役員報酬の内容まで通知されるのでしょうか?
新井:特別徴収義務者用の通知書には、給与から差し引く税額が記載されます。所得の種類や金額の内訳がそのまま細かく出るわけではありません。ただし、前年より天引き額が増えれば、経理担当者が「あれ?」と思う可能性はありますよね。
――そこは現実的に見ておく必要がありますね。
新井:はい。だから税金の処理だけで終わらせないことです。多くの会社では、会社設立や取締役就任について、事前の届け出や許可を就業規則で定めています。副業は認められていても、役員就任は別扱いになっていることもあります。起業を小さく始めるほど、こういう足元の確認を飛ばしてはいけません。
社会保険は二以上事業所勤務の手続きも確認する
――税金以外では、社会保険も見落としやすそうです。
新井:法人を設立して役員報酬を受け取るなら、原則としてその会社でも社会保険の加入義務が発生します。本業の会社ですでに社会保険に入っている場合は、「二以上事業所勤務届」を年金事務所に出し、2か所分の報酬を合算して保険料を決める手続きが必要になります。
――届出の期限もあるのですか?
新井:事実発生から10日以内が原則です。本業の会社が健康保険組合に加入している場合は、年金事務所だけでなく健康保険組合への手続きも関係します。税務署、自治体、年金事務所、勤務先。それぞれ見ているものが違うので、1枚の書類で全部が片づくと思わないほうがいいですね。
4点を先に並べれば後から慌てない
――最後に、これから役員報酬を受け取り始める会社員の方は、何から確認すればいいでしょう?
新井:順番に並べるなら4つです。1つ目は、本業と役員報酬の源泉徴収票を使って確定申告すること。2つ目は、役員報酬分の住民税は原則として本業給与から特別徴収されると理解すること。3つ目は、社会保険の二以上事業所勤務届が必要か確認すること。4つ目は、就業規則で役員就任の届け出や許可を確認することです。
――こうして並べると、やることは多いですが、見る場所ははっきりしますね。
新井:そうです。書類を出し忘れると、後から直すほうが面倒になります。迷うところは、税理士や社会保険労務士に早めに相談してください。会社を辞めずに起業するなら、勢いよりも整理です。小さく始めるためにも、税金・住民税・社会保険・就業規則を先にそろえておきましょう。
――ありがとうございました。
新井:こちらこそ、ありがとうございました。
起業家インタビュー(聞き手:伊藤純子)
新井一氏プロフィール
起業18フォーラム代表。「会社員のまま6カ月で起業する」方法を伝える起業支援キャリアカウンセラー。キャリア26年以上の実績を持ち、延べ60,000人の会社員の起業をサポート。会社員時代に始めた事業で培ったノウハウ、多数の起業家を生み出してきた実践的技術を武器に、起業支援&集客マーケティングの専門家として活動中。
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