会社員のまま「起業家マインド」を鍛えれば、辞めてから失敗しない|起業18フォーラム代表・新井一氏が語る、会社員と起業家の決定的な違い
SNSに映る成功は途中経過を省いた一枚
――新井さん、起業準備をしている人から「SNSを見るたびに焦る」という相談はありますか?
新井:とても多いです。会社を辞めた人、売上報告をしている人、講座を満席にしている人。そういう投稿ばかり見ていると、自分だけ止まっているように感じますよね。でも、まず知ってほしいのは、SNSに出てくる成功は途中経過を省いた一枚だということです。
――自分の現実と比べて落ち込んでしまうわけですね。
新井:そうです。相手の完成形と、自分の準備途中を並べてしまう。これでは焦るに決まっています。画面の向こうには、動けなかった時期も、失敗した夜も、地味な調べ物もあるはずです。そこが見えないまま比べると、勝てない比較になります。
起業に正しいペースや間に合う年齢はない
――それでも、同世代が先に進んでいると気になります。
新井:気になるのは自然です。ただ、起業に同じスタートラインはありません。家族構成も、貯金も、仕事の忙しさも、得意なことも違います。日本政策金融公庫の2025年度新規開業実態調査でも、開業時の平均年齢は43.9歳で、40代が最も多く、30代も多い。始める時期はかなり散らばっていますよ。
――20代後半や30代で焦る必要はないと。
新井:ありません。むしろ準備に時間を使える段階です。早く辞めた人が偉いわけではないし、遅く始めた人が不利とも限りません。起業は、同じトラックでタイムを競う競技ではないですから。
――比べる前提そのものを疑う必要がありますね。
新井:はい。周りが速く見えるのは、その人が自分の都合のよい瞬間だけを見せているからでもあります。あなたの生活全部と、相手の切り取られた報告を比べてはいけません。
比べる相手を先月の自分に変える
――では、焦りが出たときはどう考え直せばいいのでしょうか?
新井:比べる相手を、周りから先月の自分に変えることです。半年前より本を読んだか。1人に話を聞いたか。商品案を1つ書いたか。小さくても、前の自分より増えたものを見ます。
――進んでいる実感がない人も多そうです。
新井:進んでいる実感は、記録しないと見えません。拙著『会社で働きながら6カ月で起業する』では「知・人・金」を順に鍛える話をしています。最初は売上ではなく、自分のやることを知る段階です。他人の売上報告と、自分の知識の仕込みを比べても、段階が違うから苦しくなるだけですよ。
――今は「知」を増やす時期なのに、他人の「金」と比べているわけですね。
新井:まさにそれです。今日やる一歩が見えているなら、それは止まっている状態ではありません。焦りをゼロにするより、焦りが出たら「今の自分は何の段階か」と戻るほうが現実的です。
SNSを閉じることも起業準備の一部
――SNSを見ないほうがいいのでしょうか?
新井:使い方次第です。情報収集や発信には役立ちます。ただ、見た後に毎回落ち込むなら、いったん閉じるのも起業準備です。気合いで見続ける必要はありません。比べる材料を手元から消すだけで、焦りはかなり弱くなります。
――閉じた後は何をすればよいですか?
新井:今日やることを1つだけ決めます。講座の目次を1つ直す、過去の頼まれ事を書き出す、見込み客になりそうな人を1人思い浮かべる。そのくらいで十分です。SNSで5人の成功を見るより、自分の準備を1ミリ進めるほうが、起業には効きます。
――たしかに、焦っている時間は行動にはなっていませんね。
新井:そうですね。焦りは真剣さの裏返しでもありますが、放っておくと手を止めます。だから、画面から手元へ戻す習慣が大事です。
焦りが薄れた人は物差しを変えていた
――実際に、比べる相手を変えて前に進めた方はいますか?
新井:います。起業18フォーラムの会員さんで、事務職の経験を生かして資料づくりの講座を準備していた二宮さんという方がいました。20代後半で、同世代の発信を見るたびに「自分だけ遅れている」と落ち込んでいました。
――そこから、どう変わったのでしょうか?
新井:勉強会で、先月の自分と比べることに決めました。SNSを見る時間を減らし、講座の中身を1つずつ整えた。告知を続けるうちに受講者は少しずつ増え、延べ40名が受けてくれるところまで育ちました。派手な逆転ではありません。でも、確実に前へ進んだ手応えが焦りを小さくしました。
――周りを見ないのではなく、見る物差しを変えたわけですね。
新井:そうです。起業準備中に大事なのは、誰かを追い抜くことではありません。先月の自分より、知っていること、試したこと、話せることが1つ増えたかです。ゼロでなければ、あなたはちゃんと進んでいます。
――最後に、SNSで焦っている人にひと言お願いします。
新井:他人の成功を見て焦ったら、「これは完成形の一枚だ」と思い出してください。そして、画面を閉じて、先月の自分と比べる。起業は速さではなく、続けられる順番で進みます。今日の一歩に戻れた人から、焦りに振り回される時間は減っていきますよ。
起業家インタビュー(聞き手:伊藤純子)
新井一氏プロフィール
起業18フォーラム代表。「会社員のまま6カ月で起業する」方法を伝える起業支援キャリアカウンセラー。キャリア26年以上の実績を持ち、延べ60,000人の会社員の起業をサポート。会社員時代に始めた事業で培ったノウハウ、多数の起業家を生み出してきた実践的技術を武器に、起業支援&集客マーケティングの専門家として活動中。
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