起業が「怖い」と感じたら、まずリスクの正体を言語化してみてください
知られた事実を消そうとしない
――新井さん、今日は「同僚に起業準備がバレたらどうするか」という相談です。噂が広がって、上司の耳に入るのではと怖くなり、動きが止まってしまう方は多いのでしょうか?
新井:多いですね。給湯室やランチの雑談で「会社の外で何かやっているらしい」と聞こえた瞬間、急に職場全体が敵に見える方もいます。でも、最初に考えるべきことは、噂を完全に消すことではありません。まず確認するのは、勤務先の就業規則、雇用契約、誓約書、そして届出や許可の要否です。
――噂への反論より先に、会社のルールを確認するのですね。
新井:そうです。会社の時間、設備、顧客情報、秘密情報を使っていないか。本業に支障が出ていないか。競業に当たらないか。ここが整理できていないまま「バレたら終わり」と思い込むと、対策が「隠す」だけになります。隠すことが目的になると、起業準備そのものが苦しくなりますよ。
「知られたら終わり」という前提を外す
――会社の外の活動は、会社ごとに扱いが違いますよね。
新井:違います。厚生労働省のガイドラインやモデル就業規則は、副業・兼業を認める方向の参考例を示しています。ただし、それがそのまま自分の会社の許可になるわけではありません。会社ごとの規程、届出制か許可制か、禁止に近い表現なのかを読む必要があります。
――世の中では副業を認める会社も増えていますが、それだけで安心してはいけないと。
新井:その通りです。企業の容認率が上がっている調査もありますが、統計は個別の勤務先の判断ではありません。だから、焦って弁明する前に、事実を3つに分けてください。1つ目は会社ルール、2つ目は自分の活動内容、3つ目は誰にどこまで話しているか。この3つを分けるだけで、怖さはかなり小さくなります。
話す相手を3層に分けて整理する
――「誰にどこまで話しているか」は、意外と曖昧になりそうです。
新井:まさにそこです。相談に来る方の多くは「誰にも話していません」と言いながら、実際には社内の同期に少し、家族に少し、SNSに少し、社外の友人に少し出している。断片があちこちにあるから、自分でも把握できなくなるのですよ。
――どう整理すればよいでしょうか?
新井:3層に分けます。第1層は、中身まで話す相手。起業18フォーラムの仲間や、社外の信頼できる先輩など数人です。第2層は、輪郭だけ伝える相手。家族や社外の友人ですね。第3層は、雑談では話題にしない相手。社内の同僚や後輩です。ただし、規程上必要な上司や人事への届出・説明は、正確に行う。ここを混ぜないことが大切です。
――同僚に話さないことと、会社に必要な手続きをしないことは別ですね。
新井:はい。「隠す」と「話す相手を選ぶ」は違います。届出が必要なら正しく出す。一方で、給湯室の雑談で自分から活動内容を広げない。聞かれても「会社の規程に沿って確認しています」と短く答え、詳しい事業内容を語らない。この線引きで十分なことが多いですよ。
噂が広がった後にやってはいけない動き
――すでに噂が広がってしまった場合、何を避けるべきですか?
新井:まず、感情的に否定しないことです。「そんなことしていません」と強く言い切ると、後から届出や相談が必要になったときに自分の首を絞めます。次に、SNSを慌てて全消ししないこと。消した行為自体が不自然に見えることがあります。見直すなら、会社名、顧客名、職務上知った情報、勤務先を連想させる投稿がないかを冷静に点検する程度でいい。
――噂を止めようとして、かえって目立ってしまうこともありそうです。
新井:ありますね。人は、騒ぎが大きくならなければ意外と忘れます。こちらが毎日びくびくして話題にすればするほど、噂に燃料を足してしまう。だから、社内では淡々と本業をきちんとやる。勤務時間中に起業準備をしない。会社の資料や顧客に手を出さない。これが一番強い防御です。
一人で抱えきれないときの相談先
――それでも不安が消えない場合は、どこに相談すればよいでしょうか?
新井:事業づくりの相談なら、商工会議所やよろず支援拠点などを使えます。受付条件や予約方法は地域で違うので確認してください。一方で、懲戒リスクや雇用上の扱いが心配なら、労働局、労働組合、弁護士など、労務や法律に強い相談先を選ぶべきです。事業の相談と雇用トラブルの相談は、窓口を分けたほうがいいですね。
――職場での視線が気になって止まっている人に、最後に一言お願いします。
新井:拙著『会社を辞めずに朝晩30分からはじめる起業』でも、身近な人の心配や否定が起業準備を止める「ドリームキラー」になる話を書いています。噂も同じです。誰かの声を全部受け止める必要はありません。話す相手を選び直し、会社のルールを確認し、本業を崩さずに小さく続ける。今日やることは、職場で反論することではなく、就業規則を開いて、話す相手を3層に書き分けることですよ。
――知られたことより、そこからどう整えるかが大事なのですね。ありがとうございました。
新井:こちらこそ、ありがとうございました。
起業家インタビュー(聞き手:伊藤純子)
新井一氏プロフィール
起業18フォーラム代表。「会社員のまま6カ月で起業する」方法を伝える起業支援キャリアカウンセラー。キャリア26年以上の実績を持ち、延べ60,000人の会社員の起業をサポート。会社員時代に始めた事業で培ったノウハウ、多数の起業家を生み出してきた実践的技術を武器に、起業支援&集客マーケティングの専門家として活動中。
→ 新井一のセミナー日程一覧


