ボーナスを起業準備に使う前に決めておきたいお金の線引き

新井一

新井一

テーマ:起業

ボーナスは「余ったお金」ではなく生活を守る緩衝材

――新井さん、今日は「夏のボーナスを起業準備の元手にしてよいのか」という相談です。退職金は手をつけないほうがいいと聞きますが、ボーナスも同じように考えるべきでしょうか?

新井:これはよくある相談ですね。結論から言うと、ボーナスを使ってはいけないわけではありません。ただし、最初に決めるべきなのは「いくら使うか」ではなく、どこまでを生活防衛のお金として残すかです。会社員の方は、ボーナスが入ると少し気持ちが大きくなります。でも起業準備では、その一時的な安心感が判断を雑にしてしまうことがあります。

――たしかに、普段より大きなお金が入ると「今なら動ける」と思ってしまいそうです。

新井:そうなのですよ。けれど、ボーナスは毎月の収入ではありません。家電の故障、家族の予定、税金、保険、急な医療費。そういうものを吸収する緩衝材でもあります。そこを全部起業準備に回してしまうと、あとで日常生活の小さな揺れに耐えられなくなります。

退職金とボーナスは同じお金ではない

――退職金には手をつけないほうがいい、という話とは少し違うのですか?

新井:違います。退職金は、年齢や家族構成によっては老後資金そのものです。一方でボーナスは、年に数回入る余裕資金に見えます。ただ、どちらも「まとまったお金」という点では危険があります。まとまったお金を見ると、人はつい大きな決断をしてしまう。講座を一括で申し込む、機材をまとめて買う、ホームページ制作に大きく払う。これが危ないですね。

――起業準備だから投資したほうがいい、とは限らないのですね。

新井:もちろん必要な投資はあります。でも、最初から大きく使う必要はありません。会社員のまま始める起業準備では、小さく試して、反応を見てから次に使う。この順番が大事です。お金を先に使うと、使った分を正当化したくなって、撤退や修正が遅れます。

最初に作るべきは予算ではなく「使わない枠」

――では、ボーナスを起業準備に使う場合、何から決めればよいでしょう?

新井:まず「使う枠」ではなく「使わない枠」を決めてください。たとえば、生活費3カ月分、家族の予定費、税金や保険の支払い予定。このあたりは先に避ける。そのうえで残った金額の中から、さらに一部だけを起業準備費にする。順番としては、守るお金、試すお金、伸ばすお金です。

――守るお金を先に分けると、気持ちも落ち着きそうです。

新井:その通りです。お金の不安があるまま起業準備をすると、判断が極端になります。「早く回収しなきゃ」と焦って売り込みが強くなったり、逆に怖くなって動けなくなったりする。お金の線引きは、メンタルの線引きでもあります。

ボーナスで買うべきもの、買わなくてよいもの

――具体的には、何に使うならよいのでしょうか?

新井:最初は、すぐ試せて、失敗しても戻れるものです。たとえば、最低限の学習、簡単なLPの試作、少人数へのモニター提供、既存の知人に見せる資料づくり。このあたりは小さな投資で反応が取れます。逆に、最初から高額な機材、凝ったロゴ、豪華なサイト、長期契約のツールに使うのは慎重にしたほうがいい。

――形を整えるより、反応を見るために使うということですね。

新井:そうです。起業準備で必要なのは、きれいな外見よりも「誰が、何に、お金を払ってくれるか」の確認です。ボーナスを使うなら、その確認に近いところへ使う。お客様の声が取れる、メニューを試せる、1件でも有料に近づく。そういう支出なら意味があります。

ボーナスを使う前に家族へ説明できるか

――家族がいる場合は、やはり相談したほうがよいですか?

新井:絶対にしたほうがいいですね。金額の大小より、「何に使うのか」「どこまで使うのか」「いつ見直すのか」を説明できるかが大事です。家族は起業そのものに反対しているのではなく、生活が崩れることを心配している場合が多いですから。

――説明できない支出は、まだ使う段階ではないと考えてもよさそうですね。

新井:まさにそれです。自分でも説明できない投資は、だいたい勢いで買っています(笑) ボーナスは背中を押してくれるお金にもなりますが、使い方を間違えると不安を増やすお金にもなる。だから、少額で試す、期限を決める、結果を見て次を決める。この3つを守ってください。

起業準備のお金は「一発勝負」にしない

――最後に、ボーナスを使うか迷っている会社員の方へメッセージをお願いします。

新井:ボーナスを起業準備に使うなら、「これで人生を変えるぞ」と一発勝負にしないことです。会社員のまま準備できる強みは、生活を守りながら何度も小さく試せることです。いきなり大きく賭ける必要はありません。起業準備のお金は、勝負金ではなく検証費です。

――検証費と考えると、使い方がかなり変わりますね。

新井:変わりますよ。5万円使うなら、何を確かめるのか。3万円使うなら、どんな反応を取るのか。そこまで決めて使えば、たとえ思った結果が出なくても学びが残ります。ボーナスは、焦って大きく使うより、小さな検証を数回回すために使ってください。そのほうが、会社員のまま安全に前へ進めます。

起業家インタビュー(聞き手:伊藤純子)

新井一氏プロフィール

起業18フォーラム代表。「会社員のまま6カ月で起業する」方法を伝える起業支援キャリアカウンセラー。キャリア26年以上の実績を持ち、延べ60,000人の会社員の起業をサポート。会社員時代に始めた事業で培ったノウハウ、多数の起業家を生み出してきた実践的技術を武器に、起業支援&集客マーケティングの専門家として活動中。

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