休職から復職を控えた時期に無理なく起業準備を始める?

新井一

新井一

テーマ:起業

復職前の助走は負荷を見る

――新井さん、休職から復職を控えている時期に、会社の外でできる仕事を作っておきたいという相談です。これは起業準備を始めてもよい時期なのでしょうか?

新井:まず大前提として、療養と復職が最優先です。ここを飛ばして「戻る前に成果を出さなきゃ」と焦ると、せっかく整ってきた体力を使い切ってしまいます。復職前の助走で見るべきなのは、売上ではなく自分にとって続けられる負荷かどうかですね。

――起業準備というと、商品づくりや集客を急ぎたくなる人も多そうです。

新井:そうですね。でも、この時期はアクセルを踏む場面ではありません。たとえるなら、岸辺で小舟を浮かべてみる段階です。海に出る準備ではなく、水に触れてみる。1週間に何時間なら疲れすぎないか、考えるだけの日と少し手を動かす日の違いは何か。そこを観察するほうが、後で役に立ちます。

主治医と産業医に先に確認する

――最初にやることは何になりますか?

新井:主治医と産業医への確認です。主治医は日常生活の回復度を見ます。一方で産業医は、職場に戻ったときの業務負荷を見ます。この2つは近いようで別物です。だから「復職前に、短い発信やメモ程度の作業を始めてもよいか」「どのくらいの時間なら無理がないか」を、先に相談しておくことが大事です。

――自分では大丈夫と思っても、専門家の見立てを聞くわけですね。

新井:その通りです。休職中は、少し元気が戻ると「今ならできる」と感じやすい。でも、復職後は通勤、職場の人間関係、業務の集中力が一気に戻ってきます。外の仕事づくりを考えるなら、復職後の負荷まで含めて設計しないと続きません。

就業規則と手当の扱いを静かに確認する

――医療面の次に確認することはありますか?

新井:就業規則です。休職中や復職前の外部活動、兼業、副業、外部収入の扱いは会社によって違います。ここを曖昧にしたまま有料の相談枠を出したり、報酬を受け取ったりすると、後で説明が難しくなる場合があります。

――傷病手当金を受けている場合も注意が必要ですか?

新井:必要です。傷病手当金は「労務不能」が前提なので、外部収入があるかどうか、報告が必要かどうかは事前に確認したほうがいい。金額が小さいから大丈夫、ではありません。動き出す前に保険者や会社の窓口へ確認しておく。起業準備は小さく始めてよいのですが、確認だけは小さく省略しないほうがいいですよ。

今の職場と重ならない場所で小さく試す

――確認が済んだ後、実際の起業準備はどのように始めればいいでしょうか?

新井:僕がよく話すのは、居場所・カテゴリ・経路をずらす考え方です。今の会社の顧客や業務と重なる場所でいきなり仕事を取ろうとすると、心理的にも規則面でも重くなります。そうではなく、今の経験の周辺にある「まだ言葉になっていない困りごと」を、別の届け方で小さく出してみるのです。

――たとえば、どんな形ですか?

新井:開発職の方なら、開発案件そのものを受けるのではなく、「同じ職種の人が朝に考えを整理するための短い音声」や「現場で詰まりやすい段取りのメモ」を出してみる。営業職なら、営業代行をいきなり受けるのではなく、商談前の質問整理を無料で試す。職場とぶつかりにくく、体力も測れる形にすることです。

無料の試験配信を1つだけ出す

――有料にする前に、無料で試すのですね。

新井:はい。復職前は「売る」よりも「試す」です。無料の試験配信を1つだけ出して、反応よりも自分の体調を見ます。10分の音声、短い文章、1枚のチェックリストでもいい。出したあとに疲れすぎないか、次もやれそうか、復職準備と両立できそうか。ここを確認します。

――反応がなかったら落ち込みそうです。

新井:反応がなくても失敗ではありません。むしろ、誰にも届かなかった、作るのに時間がかかりすぎた、出した後にぐったりした、という情報が取れます。復職前の起業準備では、小さな反応と自分の負荷を同時に見る。これがいちばん現実的です。

復職後も続く形なら小さく商品化する

――復職後に続けられそうだと分かったら、次はどう進めますか?

新井:そこで初めて、小さな有料枠を考えます。月に1件、30分、数千円からでも構いません。大切なのは、復職後の生活リズムの中で無理なく続くことです。最初から月10万円を狙うより、月1件でも「会社の外で役に立てた」という経験を作るほうが土台になります。

――焦らず、復職と両方を崩さない形にするのですね。

新井:そうです。起業は逃げ道にも希望にもなりますが、体調を置き去りにすると続きません。休職から復職へ向かう時期は、起業準備を大きく進める時期ではなく、自分に合う小さな助走を見つける時期です。主治医、産業医、就業規則を確認したうえで、無料の試験配信を1つだけ。そこから始めれば十分ですよ。

起業家インタビュー(聞き手:伊藤純子)

新井一氏プロフィール

起業18フォーラム代表。「会社員のまま6カ月で起業する」方法を伝える起業支援キャリアカウンセラー。キャリア26年以上の実績を持ち、延べ60,000人の会社員の起業をサポート。会社員時代に始めた事業で培ったノウハウ、多数の起業家を生み出してきた実践的技術を武器に、起業支援&集客マーケティングの専門家として活動中。

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