蕎麦はツユに半分だけ漬ける、その奥義

熊澤彰

熊澤彰

テーマ:食育・マナー

箸使い

「蕎麦は、ツユに半分だけ漬けるんだ」に潜む、空気のお話


銀座のふぐ職人、熊澤でございます。

いよいよ、年越しそばです。

チョッとクサイ笑い話で、

ある有名な落語家が、死に際にひと言

「いっぺん、蕎麦をそばつゆに全部漬けて食べてみたかった~」

なんていうのが、ございます。

江戸っ子にとって、蕎麦は、頑なな蕎麦好きに支えられた文化の、意地、とでも申しますか、

「こうするもんでぃ、てぇい!」的な、

その先を、あまり考えちゃいけない風潮がございます。

でも、ねぇ、お蕎麦ぐらい、スキに食べたって、イイじゃぁありませんか。

今回は、お料理の味わい方の、お話です


かく申しあげる私は、無類のそば好きで、海苔も掛けない方が良い人間です。

この、無類の、というのが、お蕎麦屋さんサイドからは、ちょっとした問題で、

注文も、食べ方も、他の人とは違ってくる、

「盛り」と「かけ」を、一緒に注文して、

「盛り」を、タレにつけずに、半分くらいまで楽しんだりします。

こんなオリジナルな食べ方をしますから、

お蕎麦屋さんの店主に、外国人と間違われて、

身振りで「タレにつけるんだ」と、教えられたり、

厨房から「何人居るの?」って、飛んで来られたこともありました。

ホント、お忙しいのに、スイマセン。

ところで、タレに全部入れないのは?


そば猪口とお茶碗

前置きが長くなりました、お題のお話は、「空気」です。

私も、前述のとおり、お蕎麦はタレに半分だけ、漬ける人間です。

タレは、味の濃いのが、イイなぁ。

薄いタレ 支持派の方たちからは、

「薄ければ、全部漬けて、その方が良いのに」

とも、言われましたが。

何と申しましょうか、

濃いタレに少し漬けると、お箸に盛ったそばの中で、自然、

味の「濃いところ」「薄いところ」ができて、

このグラデーションが、最後、口の中で、良い香りになるんですよねー。

その時に、一緒に食べる「空気」が、とっても大切な存在になるわけです。

空気も、美味しい脇役


蕎麦は、音を立てて、すすります。

タレに漬かっていない、上の部分のそばを一緒にすすることで、

まず、空気が先に口に入る。

食べた空気が、香りを作ります。

むん。と、鼻に抜ける、淡い蕎麦の香り。

追いかけるように入ってくる濃い味のタレが、そばの香りと一緒になって。

ふわぁ~っと。

これが、蕎麦食いの、醍醐味。

蕎麦を思うさま、平らげたら、店員さんへ合図して、

なぜか四角い湯差しでくる、魅惑の蕎麦湯。

すこし揺らして、沈殿した蕎麦湯をならして、

そばつゆの少し残った、そば猪口へ入れて、ひとくち。

冷たいお蕎麦の後で飲る、温かい蕎麦の、蕎麦だけの香りが、心地良い。

あ~~~、幸せ。

淡白な食材ほど、空気を一緒に食べる


ふぐさし2人前

やおら、私の本業のお話を差し込みますが、

お刺身を食べる時もね、空気を一緒に「食べて」下さい。

ふぐだけじゃない、夏のカレイ、とか、コチなど、

白身の魚は、是非。

で、お口を動かしながら、食べた空気を、むーっと、鼻から出す。

おおおっ! というくらい、お刺身の味が香ります。

ここで、

私が普段、実践している、料理人の鼻の使い方も、ご紹介しましょう。

厳密にやりすぎると、鼻の奥が痛くなりますので、こんな感じ、と思ってください。

おちょこなどの小さな器で、味見の素材を取ります。

これを、まず、鼻の真下に持ってきたら、「すっ。」と、短く、鋭く嗅ぎます。

次に、口に少し含んで、空気を食べながら、鼻に抜ける。

のどを通ったら、残りの匂いを嗅いで、判断します。

最初の「すっ。」は、お料理が来た時の、一番最初にお客様が味わう香り。

次は、召し上がっている最中の、

そして、最後は、お食事の後の、後味、という事、かな~。

何事も、突き詰め切らない、それが楽しむコツです。

突き詰めて、

「こ、この味は」

というのは、我々職人に、お任せくださいね。

本国よりも、星付きのレストランが多い国、日本。

私が思うに、その理由は、

おそらく、日本人が世界一、鼻が利く人種だから、という事かもしれません。

若い頃、私は

「お前と居ると腹が減る」と、よく言われましたが、

お料理は、美味しければ、それでよし。

そう感じて頂けたら、幸いでございます。

皆様、どうぞよい新年をお迎えくださいませ。



<毎週日曜・水曜 12:30に更新します>

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熊澤彰
専門家

熊澤彰(ふぐ調理師)

ぎんざ姿

ふぐ調理師として40年以上の経験を持つ。自ら日本全国を渡り歩いて選んだこだわりの食材だけを使用。1組の顧客に最大限のおもてなしをしたいという思いから、1日1組最大6名に顧客を限定している。

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