防火管理者を「居住者に手当を払って選任するマンション理事長」は危険だ

深山州

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テーマ:防火管理

なかなかなり手がいない「分譲マンションの防火管理者」




店舗や事務所などが入っていないマンション(共同住宅)であれば、50名以上が居住すると「みなされる規模」であれば、防火管理者の設置が必要です。



一部屋が40㎡以上で、25戸あれば、25戸×2名=50名は居住できるマンションだ、、、と消防署は判断します。

また、50名も住んでいないようなマンションでも、高さが31を超える場合(おおよそ11階建て以上)は、統括防火管理者が必要となります。都心の商業地域に立つ投資型のワンルームマンションなどは、結構の割合でこれに該当します。



例えば、1階はエントランスに駐輪場・管理事務室と機械室で、2階から11階までが各2戸。
10フロア×2戸=総戸数20戸でも、統括防火管理者の選任が求められます。

マンション管理組合(理事会)の取り組みで、以外と苦労するのが「防火管理者のなり手不足」。
仕事柄、沢山のマンションを訪問しますが、1階の掲示板を見ると「防火管理者を募集しています」と言った趣旨の掲示をかなりの頻度で見かけます。

管理組合(理事長)としては、所轄の消防署から「防火管理者が未選任です。速やかに選任してください。」と指導が入れば、なんとしても居住者から防火管理者を選任して、消防署へ報告しなければなりません。

しかし、そもそも防火管理者を選任するためには、当然ながら「防火管理者の資格」が必要で、取得者は多くありません。
防火管理者資格を取得するためには、消防署が主催する講習に2日間連続(9時~17時)で出席し、簡単ではありますがテストに合格しなければなりません。

問題は「2日間連続の講習」。
この講習は平日に設定されていることがほとんどのため、仕事を持っている方に講習を受けてもらうことは困難です。
また、この防火管理者の講習が自宅の近くの消防署で行われていないことも多く、受けに行くのも一苦労です。

働き世代には、会社の理解がないと(または有給休暇を取らないと)なかなか取得できないのが防火管理者資格、といえます。

一方で、会社勤めを終えたシニア世代にとっては、防火管理者は比較的取得しやすい資格と言えます。
また、勤務先の会社の業務の一環で防火管理者を取得した方(例えば自社オフィスの防火管理者への就任を求められた従業員の方)は、最初から資格を持っている、といったケースもあります。

そこで、多くのマンション管理組合では、「既に防火管理者資格を持っている居住者」に就任をお願いするか、「シニア世代で新たに防火管理者資格を取ってもらうか」して、なんとか防火管理者のなり手を確保しようとします。

それでもなり手がいない場合で、責任感の強い理事長は、しかたなく自ら消防署へ受講しに、、、

「防火管理者へ選任するだけでノルマ達成」の大間違い



防火管理者のなり手がなかなか現れない場合、なり手に対して「アメ」つまりインセンティブを提供するマンションも多いようです。
受講料(6,000円程度)+講習の開催場所までの往復交通費+食事代(講習は終日缶詰の2日間ですから2食分)は最低減で、これに加えて「防火管理者の手当」を支給する管理組合も多いです。

不思議なことに、この「マンション居住者への防火管理者手当」、なぜか「年間3万円」が相場?のようです。
インターネットで3万円が相場、みたいなものが拡散しているのでしょうか。

「理事会役員は輪番制でボランティアだから役員報酬ゼロでも良いけれど、防火管理者はムリにお願いしているし、消防法で必要な条件だし、なんとなくリスクがありそうだから、手当を支払うべき」

みたいな世論が、マンション管理組合で出来上がっているところが多いのではないでしょうか?

理事長!お金払って防火管理者選任だけでは却ってリスクが高まっていますよ!

「お金を支払って居住者から防火管理者を募り選任する作戦」は、防火管理者のなり手不足対策としては有効なようです。毎年3万円ももらえて、消防署に届け出れば良いのなら、ちょっとしたお小遣いとしては嬉しいですよね。

ところが。
法的に「マンションの管理者(責任者)」である理事長にとって、
防火管理者のなり手をみつけて消防署へ届け出るだけでは、全然リスクヘッジになっていません。

理事長の目線で言えば、大切なことは
「選任した防火管理者に、防火管理者としての仕事(防火管理業務)を履行してもらうこと」
です。

防火管理業務をキッチリ果たしてもらうことで、はじめて理事長としての法令遵守が完成するのです。

・年1回の消防訓練を必ず実施して、消防署へ届け出る
・日常の防火管理(巡回点検等)を行う

最悪なのは

「管理組合(の長である理事長)がお金を払って防火管理者を雇い」「実態として防火管理業務をやらせていない」

つまり『名義貸し』とみなされることです。
この状態で万が一火災事故が発生し、被害が拡大した場合、警察と消防が検証に入る際に、

『管理組合として、普段の防火管理はちゃんとやっていたのか?』
『理事長は防火管理者をして、防火管理業務をさせていたか?』
『消防訓練は毎年やっていたのか?』
『共用部分への私物残置について必要な措置は講じていたのか?』

ということが問われるのです。

自分たちで防火管理『業務』ができないなら、外注も一つの方法

当社はマンション管理士の事務所として、2014年(平成26年)から『防火管理者の外部委託(アウトソーシング)サービス』を立ち上げました。
平成26年、、、というのは、消防法が改正され、『統括防火管理者制度』ができるなど、消防法令が一層厳しくなった時です。

防火管理者の委託サービスを開始して、いざ蓋を開けてみたら、管理組合(分譲マンション)だけでなく、ありとあらゆる『防火管理者が必要な建物』のオーナー様や、不動産会社・管理会社からのクライアント紹介があって、今では150件の契約にまでになっています。

管理組合が主体的に防火管理を実践し続けられないのでしたら、『居住者にお金を支払って無理やり防火管理者を選任し、名義貸しで備えが何もできていない』よりも、もう少しお金を積み増ししてでもプロに防火管理を委託する、という選択を、是非オススメします。
管理会社に管理業務を委託するのと同じですよね。

それが理事長を火災リスクから守る最良の策です。

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専門家

深山州(マンション管理士)

株式会社メルすみごこち事務所/株式会社クローバーコミュニティ

タワーマンション・大規模マンション・投資型マンション・複合型マンション・団地・小規模マンション・自主管理マンション・高齢化マンション・リゾートマンション等のマンションの管理に実績と経験があります。

深山州プロは朝日新聞が厳正なる審査をした登録専門家です

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