相続問題を未然に防止!トラブル回避方法とは?
共有不動産の相続人に外国人の方がいる場合、相続人が全員日本人の場合とは異なった手続きになります。
事例「Aさん兄妹の場合」
Aさん、B子さん兄妹のお父さんが亡くなり、Aさんたちはお父さんが持っていた土地を相続することになりました。ただ、その土地は、Aさんたちのお父さんと、お父さんの姉(Aさん兄妹にとっては叔母)との共有になっていました。共有持分はAさんのお父さん1/2、叔母1/2です。
Aさん兄妹がその土地を叔母と半分に分け(分筆)、そのうえで自分たちの分を売却したいと相談したところ、叔母も承諾してくれました。ただ、一つ困ったことがあります。
実は、Aさん兄妹のお父さんは、Aさんたちのお母さんとは再婚でした。最初の結婚相手はアメリカ人女性で、その女性との間に1人、男の子をもうけていました。離婚後、女性は子供を伴って帰国しました。
Aさん兄妹もそのことは知っていましたが、その女性にも子供にも会ったことはありません。叔母が連絡先を知っていたので、連絡することはできますが、どういう手続きを踏めばいいか分からず困っているのです。
日本の法律では、前妻の子供にも相続の権利があります。
たとえば、夫が亡くなりその妻(配偶者)と子(1人)が相続人になったとしましょう。そして、亡くなった夫には前妻がおり、前妻との間にも子が1人いたとします。すると相続人は全部で3人ということになります(離婚した前妻には相続権はありません)。
この場合、妻(配偶者)が1/2、そして残りの半分を妻の子、前妻の子が1/2ずつ均等に分けることになります。
仮に夫が残した財産が3000万円とすると、妻が「3000万円×1/2=1500万円」。妻の子が「1500万円×1/2=750万円」。前妻の子が「1500万円×1/2=750万円」になります。
渉外相続について
「渉外相続」という言葉をご存知でしょうか。被相続人(亡くなった人)または相続人が外国人である場合の相続のことを言います。
日本の法律では、被相続人(Aさん兄妹の事例では2人のお父さん)が日本人である限り、その相続人の国籍にかかわらず、日本の法律が適用されます。被相続人や相続人が日本国内に住んでいるかどうかは問いません。Aさん兄妹のケースでは、お父さんの前妻の子も相続の権利があることになります。(被相続人が外国人であれば、相続人が日本人であっても、被相続人の国の法律が適用されることになります。)
さて、Aさん兄妹が踏むべき手続きは、まず、遺産分割協議書を作成し、お父さんの前妻の子に同意してもらうことになります。具体的には、遺産分割協議書の英訳にサインをしてもらうわけです。ただし、それはAさん兄妹と前妻の子の間だけで行うのではなく、法的に確かなものにするため、現地の公証人(notary public)において行ってもらわなければなりません。そして、そのサインが本人のものであることを証明するための「宣誓供述書(Affidavit)」を取得してもらう必要があります。
日本では、相続した不動産はその名義を被相続人から相続人の名義に変更しなければなりません。これを相続登記と言います。
その際、被相続人の戸籍謄本(出生から死亡まで)や相続人の戸籍謄本(現在)、相続人の住民票、相続人の実印と署名がある遺産分割協議書、印鑑証明などが必要になります。
しかし、ほとんどの外国には日本のような戸籍制度はありません。また、印鑑というものもありません。そこで、相続人の本人確認、サイン認証などを公証する「宣誓供述書(Affidavit)」が必要になるわけです。
Aさん兄妹は、遺産分割協議書と共に現地から送られた宣誓供述書(Affidavit)と翻訳文を添付して法務局に提出することになります。
国によって異なる考え方
渉外相続については大きく2つの考え方があります。
一つは、「相続統一主義」という考え方で、日本のように「遺産の種類(動産、不動産)に関係なく被相続人の本国法で決める」というものです。相続統一主義の中でも本国法主義と言います。つまり、被相続人の国籍を基準とするということです。日本のほか、韓国、ドイツ、イタリアなどが採用しています。
ただ、同じ相続統一主義でも、被相続人の最後の住所地を基準とする「住所地法」を採っている国もあります。国籍ではなく最後の住所地が基準ということです。スイス、デンマークなどが採用している考え方です。
もう一つは、動産と不動産を区別して考える「相続分割主義」です。遺産の中に不動産があった場合は「不動産所在地の法律による」ものとし、動産については「被相続人の最後の住所地の法律による」とするものです。アメリカ、イギリスなどが採用しています。
Aさん兄妹の事例では、相続する不動産が日本にあるわけですから、その不動産については日本の法律が適用されるわけです。
相続人に外国人がいる場合の対応については、下記記事でもわかりやすく解説しています。
共有不動産の相続人に外国人がいる場合の相続登記について