経営は自然現象として説明できるのか ― AIと挑んだ思考実験
コンビニのコーヒー売り場で見つけた、マーケティングのヒント
先日、立ち寄ったセブン‐イレブンで、興味深い店頭POPを見かけました。「セレクトブレンド」というコーヒーの案内です。
そこには、3種類のコーヒーが並び、それぞれに次のキャッチコピーが添えられていました。
- 「アゲる一杯」―力強いコクのキリマンジャロブレンド
- 「整う一杯」―コクと酸味のコロンビアブレンド
- 「ホッとする一杯」―華やかな香りのグアテマラブレンド
面白いと感じたのは、コーヒーの産地や味わいだけでなく、飲む人の「気分」と結びつけて提案している点です。
朝、仕事に向かうときには「アゲる一杯」。仕事の合間には「整う一杯」。一仕事終えたら「ホッとする一杯」。
「どんな味のコーヒーが好きですか?」ではなく、「今、どんな気分になりたいですか?」と問いかけているようです。
経営コンサルタントという仕事柄、こうした光景に出会うと、ついビジネスモデルのことを考えてしまいます。
「何を売るか」と「何を買っているか」は違う
ビジネスモデルを考える基本は、「誰に、何を、どのように」です。
誰を顧客とし、どのような価値を、どのような仕組みで届けるのか。その中でも「何を」という問いは、特に重要だと考えています。
例えば、水道工事業者が提供しているのは「水道設備の工事や修理」です。しかし、顧客が求めているのは「安心して水を使える暮らし」ではないでしょうか。
OA機器の保守会社も同様です。提供するのは「機械のメンテナンス」ですが、顧客が求めるのは「業務が止まらない安心」かもしれません。
つまり、企業が「何を売っているか」と、顧客が「何を買っているか」は、必ずしも一致しないのです。
今回のセブン‐イレブンのコーヒーは、この違いを考えるうえで、わかりやすい事例だと思います。
同じ顧客でも、求める価値は変わる
もう一つ注目したいのは、同じ顧客でも、そのときの状況によって求めるものが変わるという点です。
マーケティングでは、年齢や性別、職業などによって顧客を分類することがあります。しかし、それだけでは顧客のニーズを十分に捉えられないこともあります。
例えば、同じ人でも、朝の通勤途中と午後の休憩時間では、コーヒーに求めるものが違うかもしれません。
今回の「アゲる」「整う」「ホッとする」という提案は、顧客の属性ではなく、その瞬間の気分や目的に着目しています。
これは中小企業にも応用できる考え方です。
飲食店であれば、「短時間で食事を済ませたい」「ゆっくり会話を楽しみたい」「自分へのご褒美にしたい」といった利用場面から商品やサービスを考えることができます。
企業向けサービスでも、成長期には売上拡大を求めていた経営者が、事業承継を控えると組織の安定や円滑な引き継ぎを重視するようになることがあります。
同じ顧客でも、状況が変われば、必要とする価値も変わるのです。
「何を」の捉え方が変われば、ビジネスも変わる
もちろん、商品やサービスの中身より、キャッチコピーが重要だという話ではありません。
今回も、特徴の異なる3種類のブレンドを用意し、それぞれの味わいと気分を結びつけています。商品そのものの特徴と、顧客に伝える価値が対応していることが大切です。
一方、中小企業がこうした考え方を取り入れるために、必ずしも新商品を開発する必要はありません。
既存の商品やサービスでも、「顧客は何に困っているのか」「利用することで、どのような状態になれるのか」を考え直すことで、新たな価値の伝え方が見えてきます。
例えば、「水漏れ修理に対応します」という案内を、「突然の水漏れにも対応し、いつもの暮らしを取り戻すお手伝いをします」と表現すれば、顧客が得られる価値がより具体的に伝わります。
こうした発想は、広告表現だけでなく、商品開発やサービスの見直しにもつながります。
「何を」の定義が変われば、「誰に」も「どのように」も変わり得る。
ここに、ビジネスモデルを考える面白さがあると思います。
自社の商品を、商品名を使わずに説明できますか?
今回のコーヒーの店頭POPを見て、経営者の皆さんに考えていただきたい問いが浮かびました。
「自社の商品やサービスを、商品名や業務内容を使わずに、お客様が得られる価値だけで説明するとしたら、何と言うでしょうか?」
これは、案外難しい問いです。
私自身、経営コンサルタントとして提供しているのは、経営計画の策定支援や資金繰り改善、事業承継支援などです。
しかし、それらはあくまでも手段です。経営者が本当に求めているのは、経営課題が整理され、次に何をすべきかが見えることや、安心して事業を次の世代に引き継げることではないでしょうか。
そう考えると、私自身も「何を提供しているのか」を改めて問い直す必要があります。
ちなみに、店頭で見かけたときには、キャンペーン価格で一杯138円(税込)とのことでした。
もちろん、セブン‐イレブンの回し者ではありません(笑)。
身近なコンビニのコーヒー売り場にも、経営やマーケティングを考えるヒントが隠れています。
自社が売っていると思っているものと、お客様が本当に買っているもの。
その違いに気づくことが、ビジネスを見直す第一歩になるのではないでしょうか。



