指先の巧緻性を高める取り組みをご家庭で
入学準備で本当に大切なこと
文字や計算の前に、幼児期に育てておきたい「基礎概念」の力
年長児さんの「入学準備」と聞くと、多くの方がまず思い浮かべるのは、ひらがなの読み書きや簡単な計算ではないでしょうか。
もちろん、それらも小学校生活に入っていく上で必要な力のひとつです。
けれども、長年多くのお子さまと保護者さまに関わってきて、いつも感じることがあります。
本当に押さえておいていただきたいのは、そこだけではない、ということです。
小学校入学前にこそ、丁寧に育てておきたいもの。
それは、**「基礎概念」**です。
幼児期の学びの土台は「基礎概念」にある
基礎概念とは、たとえば
色や形
大きい・小さい
多い・少ない
長い・短い
前・後ろ
左右
順番・順列・比較
数の感覚・量
といった、ものごとを理解するための土台となる力です。
そして、その積み重ねの先にあるのが、
**「時の概念」と「お金の概念」**です。
この二つは、日常生活に深く関わる重要な概念であるにもかかわらず、
子どもにとっては目に見えにくく、理解しにくい分野でもあります。
だからこそ、幼児期のうちに丁寧に育てておいていただきたいのです。
「時計が読める」とは、数字が読めることではない
たとえば時計です。
「長い針が12になったら出かけるよ」
「あと10分で片づけようね」
「7時になったら寝る準備をしようね」
私たち大人は何気なく使っている言葉ですが、子どもにとって“時間”というものはとても抽象的です。
数字を読めることと、時計が分かることは同じではありません。
時計を理解するためには、数字の認識だけでなく、針の動き、時間の流れ、生活との結びつきなど、複数の理解が必要になります。
ですから、ただドリルをさせれば身につく、というものではないのです。
「お金の概念」もまた、実生活の中で育てたい力
お金についても同じことが言えます。
100円玉と10円玉の違いが分かること。
いくらあれば買えるのかを理解すること。
高い・安いのだいたいの感覚を持つこと。
買い物のやりとりの意味が分かること。
おつりの意味が分かること。
これらは単なる数字の問題ではありません。
実物に触れ、目で見て、手で扱いながら、生活の中で少しずつ理解していくものです。
私の教室でも、年長クラスでは4月から順に基礎概念をおさらいし、12月頃からはお金の概念にも取り組んでまいります。
その際、理解できているお子さまと、そうでないお子さまの差がはっきり出ることがあります。
けれどもそれは、能力の差というより、それまでにどれだけ具体物を通して入力されてきたかの差であることが多いのです。
幼児期の学びは「目と手」を通して育つ
幼児期の学びは、頭の中だけで進めるものではありません。
時計であれば、実際に針を動かせる教材を使う。
お金であれば、おもちゃのお金や実際の硬貨を使って、出す、もらう、数える、両替をする、
おつりの計算をする、比べるといった経験をする。
そのように、目で見て、手を使って学ぶことがとても大切です。
何かを身につけさせたいときには、まず実感を伴って学べる環境やアイテムが必要です。
何もないところで、「覚えなさい」「できるようになりなさい」と求めても、子どもは理解の手段を持てません。
子どもにとって本当の理解とは、抽象的な説明を聞くだけで生まれるものではなく、体験を通して自分の中に積み上がっていくものなのです。
時計の学びは、もっと小さい頃から始められる
「時計の教え方が分からない」というお声をいただくことがありますが、時計の理解は、年長になって突然始めるものではありません。
土台づくりは、もっと小さい頃から始めることができます。
0歳、1歳の、右脳優位の時期には、
時計のフラッシュカードを見せる。
壁にはアナログ時計を掛ける。
そして会話の中に、“時”の要素をたくさん入れる。
たとえば、
「長い針が6になったらお風呂に入ろうね」
「12時になったらごはんだね」
「3時になったらおやつにしようね」
というように、日常の中で自然に時間に触れさせていくのです。
これは、教え込むのではなく、まずは入力です。
見せる。
聞かせる。
生活の中で繰り返す。
この積み重ねが、後の理解の土台になります。
幼児期の家庭教育で大切なのは「入力」である
学校では、どうしても“できること”が求められます。
つまり、入力よりも出力に重点が置かれるのです。
これは、6歳を過ぎる頃から、脳の働きも次第に出力優位へ移っていくため、ある意味では自然な流れです。
だからこそ家庭では、意識して**「入力」を進めること**が必要なのです。
まずは、たっぷり見せること。
たっぷり聞かせること。
生活の中で話題にして実際に経験させること。
その上で、教材などを使いながら、右脳的なイメージと左脳的な理解をつないでいきます。
そして最終的に、
合わせる
取る
言う
書く
ドリルをする
といった出力へ持っていくのが、自然で無理のない流れです。
「入力」が足りないまま「出力」を求めないこと
ここで大切なのは、順番を間違えないことです。
十分な入力がないまま、いきなり
「読んでごらん」
「書いてごらん」
「どうして分からないの」
「また間違っている」
と出力ばかりを求められると、子どもは混乱し、苦手意識を持ちやすくなります。
それはその子に力がないからではありません。
多くの場合、必要な入力がまだ足りていないだけなのです。
大人はつい、「教えたのにできない」と思ってしまいがちです。
しかし、子どもの理解は、一度聞いただけで定着するものではありません。
見て、聞いて、触って、繰り返して、ようやく自分のものになっていくのです。
ですから、くれぐれも、入力が十分でない段階で出力を急がせ、間違いを責めることのないようにしていただきたいと思います。
入学準備とは、「安心して学校生活に入るための準備」
入学準備とは、単に文字が書けることでも、計算が早くできることでもありません。
学校という新しい世界に入っていく前に、
生活力を身につけ(自分の身の回りのことは自分で整えられる)、
先生の言葉を聞いて理解し、
そのうえで自分で考え判断し、
落ち着いて行動していくための土台を整えること。
これらが「入学準備」と言えるでしょう。
その意味で、時の概念やお金の概念は、まさに生きる力につながる大切な基礎です。
目に見える学力だけを急ぐのではなく、目に見えにくい土台を丁寧に育てること。
それが、入学後のお子さまを大きく助けてくれます。
焦らず、比べず、土台を育てていきましょう
年長さんになると、どうしても周囲と比べてしまいやすくなります。
「あの子はもう書ける」
「うちの子はまだ時計が分からない」
「このままで間に合うのかしら」
そうして不安になるお母さまのお気持ちも、よく分かります。
けれども、子どもの育ちは、何よりも土台が大切です。
土台がしっかりしていれば、その後の学びは安定します。
反対に、土台が曖昧なまま先へ進むと、どこかで苦しさが出てきます。
どうか焦らず、比べず、目の前のお子さまのペースを大切になさってください。
二次元で教え込むのではなく、ツールをつかって立体的で豊かな入力を。
出力を急がせる前に、生活の中でたっぷり体験を。
その積み重ねが、入学後の学びを楽にし、子どもの自信を育てていくのです。



