もう売り込みは通用しないのに、未だに経営者の意識が変わってない
「優秀な人材を集めたチームを作って、そのチームがVIPを担当すればもっと業績があがるのではないか?」と考えた経営者の方がいらっしゃいました。
経営者は、高い業績を達成する“優秀な”セールスの話はよく聞いていたのです。こうした方々は主張していました。
「お買い物が少ないけど手間が掛かるお客様がいるので、VIP対応する時間が取れないのです。」
そこで、この経営者は考えました。
「お買い物が少ないお客様は他のセールスへ移して、優秀なセールスにVIP顧客を集約して担当させれば良いのではないか。」(以下、「効率主義営業体制」と呼びます)
この経営者はこの案を採用し、さらに“優秀な”セールスそれぞれに専属のアシスタントスタッフまで付けて、業績向上を図ろうとしたのです。結果は思ったような成果はあげられませんでした。もちろん、売上には様々な要因があるのですが、効率的な営業体制が従来の働き方よりも、業績向上に貢献できるという考え方は正しくなかったと言えます。
むしろ弊害の方が大きかったと思われます。1つは、これまでのお買い上げ高の大きさからVIPに位置付けられているのですが、今年の、さらに来年以降も同じようにお買い上げ頂けるか否かは保証されていないということです。実際に、お客様が病気になってしまい、お買い上げ高がほとんどなくなった方もいらっしゃいました。一方で、「お買い物が少ないお客様」と位置付けられる方の中から、高額のお買い上げをされるお客様が現れました。よくよく調べて見ると、自社では「買わない顧客」ですが、他社では「VIP」と位置付けられる方もいらっしゃったのです。
そして2つ目は、アシスタントスタッフの生産性です。もともとVIP顧客は効率が良い訳です。一人の顧客に要する活動は多くなりますが、担当顧客を絞られているので、アシスタントスタッフを付けることはなかった。むしろ、アシスタントスタッフではなくセールスとして担当顧客を持たせた方が業績を伸ばせた可能性が高い。さらにその他セールスはさらに多くの顧客を抱えることで、一人ひとりへの活動時間が少なくなってしまった。お買い上げがさらに少ない顧客はほとんど接点を持たない状況まで見られれたのです。
さらに3つ目は、セールス間の軋轢を生んでしまったことです。経営者が“優秀な”と思ったセールスが本当に優秀か否かは実は分かりません。一定期間における個人業績が良かったから“優秀”と位置付けられましたが、それは本人の努力だけでなく、担当顧客のポテンシャルの違いもあるのです。セールスの中には一生懸命頑張っているにも関わらず、担当顧客のポテンシャルの問題などもあって売上が伸び悩んでいることもあります。「なんで彼奴らだけ…」との感情を生み出し、結果としてモチベーションを損ね、組織へのロイヤルティを損ねてしまったと言えます。
企業が存続するためには売上を確保していくことはもちろん大切ですが、この効率主義営業体制は組織のミッションが売上拡大最優先であることを明確にしてしまった。効率の良い顧客を尊重し、お買い上げが滞る顧客を切り捨てる施策には、経営者がどんなに「お客様第一」を叫んでも、「本音は売上だよね」と思われてしまうのです。
結局、売上高を一番伸ばしたのは、「買わない客」を集めたチームでした。「昨年買わなかった顧客」は「今年も買わない顧客」ではありません。毎年のようにお買い上げ高は変動します。それも、売り手側の要因だけでなく、顧客自身の要因によって。だから、営業体制としては「公平な接遇」ができるものが良いのです。それも、“優秀な”セールスではなく、多種多様な人材を集めたチームこそ、最強の営業チームが作れると本当に思っています。