鏡像関係は、絶対的孤独な人間の寂しさと孤立感を癒す
赤ちゃんは寄る辺なき存在です。寄る辺ないとは頼りない、一人では生きられない、誰かの保護や助けがないと瞬時も生きられないという意味です。誰かが養育しない限り、子供は1秒もある意味で生きていけません。これをフロイトという精神分析家は「寄る辺なき存在」と定義しました。
幼い子供にとって拒絶は死を意味してしまう
幼年期は寄る辺なき存在なので、全て要求しかありません。とすると子供が体験するのは受け容れられる(Yes)か拒絶される(No)か二つに一つです。
親にしてみたら24時間の間全面的に頼ってくる、寄る辺なき存在に対して全て応えられるでしょうか? 養育だけをしている親は存在しません。生活の場では主婦という側面があります。主婦としての労働が多々あります。それにその子だけではなく、夫や他の子供だったり祖父母だったり、いわゆる世話をする人が一人ではありません。ということは自分のエネルギーは分散しなければなりません。この子だけに全てかかずらうということはできないのです。すると、Yes、NoでいうとNoが混じってきます。
このNo(拒絶)は寄る辺なき存在にとって何を意味するかというと、死を意味してしまいます。だから子供は毎日が命懸けです。そんなことを思って親は子供を見ているわけではありません。ですが、寄る辺なき存在にしてみたら命懸けで生きているのです。
すると拒絶されるということは、衝撃的な体験になります。というのはYesで当たり前、これは良くも悪くもない普通のことです。寄る辺なき存在にとっては世話をされるというのは当たり前だから、喜んだり感謝したりということはないわけです。そこに来て拒絶されると死の恐怖になるのです。とてつもない不均衡です。
拒絶の回数が圧倒的に多くなるとどうなるか?
そんな状況の中で、次第に拒絶体験が大幅に受け容れられる体験を上回ってしまって比率が壊れた時、どうなるのでしょうか。
人間が拒絶されたら、どのような心がそこに生まれるかを想像したことがありますか? 子供が要求したとします。これが拒絶された場合、何が生じるでしょうか? 親の立場ではなくて、子供の立場に立って想像してみて下さい。拒絶された子供が最初に感じるのは嫌われたということです。受け容れられた場合は自分は好かれたとなります。
さらに拒絶の回数が多くなると嫌われただけではなく、攻撃されたと感じます。なぜならば、それが苦痛に感じるからです。苦痛とは心が痛いということです。嫌われて攻撃されて苦痛を味わっている、それが度々、もしくは未来において起こり得るのではないかという心情は、未来に対して不安を作ります。するとこの不安を解消したいと心的メカニズムが人間には働きます。苦痛と不安を和らげるために、一つの事実を膨らませるのです。
人間はいつも拒絶されて嫌われているわけではなく、ある程度は受け容れられて好かれてもいます。でもその比率が9:1ぐらいで、圧倒的に嫌われた回数の方が多いとします。
嫌われた事実は変わりませんが、相対的に見えないぐらい小さくしてしまうことはできます。嫌われたことを小さくするには、嫌われた何倍もの大きい好きにすればいいのです。好きを膨らませれば相対的にネガティブな部分は小さくなります。比べる対象が大きくなれば自らは小さくなります。これで嫌な親が見えなくなります。
限界に達し、不安、抑うつ、怒り、自責の念に駆られる
しかし膨張には限界があります。風船でも膨らませ続けると最後は破裂してしまいます。ずっと膨らませ続けるにはエネルギーが要ります。いずれ限界に達して破裂してしまうのです。その結果、真実が見えます。等身大の自分が見えます。圧倒的に嫌いが多くて攻撃された嫌な自分、疎ましがられていた自分という存在に気付いてしまった時の、この衝撃を表すのが怒りと抑うつです。抑うつというのは落ち込むという意味です。攻撃されたことに怒りを感じます。だから落ち込みと怒りが同時発生するのです。そして自責の念に駆られます。こうなってしまったのはみんな自分が悪いんだ、と。そして強烈な不安感を抱きます。
以上のように不安や抑うつ、怒りや自責の念の原因が、実は幼い時期にある場合があるのです。
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