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野口由美

健康不安で苦しむ患者の心身を親身にケアする心療内科医

野口由美(のぐちゆみ) / 医師

クリニック千里の森

コラム

風呂を覗きに来る父親「お風呂が怖い」

2023年5月12日 公開 / 2023年5月13日更新

テーマ:症例紹介

コラムカテゴリ:医療・病院

いつも体がつらくてたまらない、子供のころから抑うつ状態という女性が来院されました。

血液検査結果から深刻な栄養素不足が見てとれ、栄養療法を開始することになりました。

体調不良の原因は、幼少期の体験とも関連がありそうです。

幼少期に経験したつらい出来事を話されましたので、幼少時退行催眠を提案し、診察の途中でミニ退行催眠を行いました。
その後の感想や経過をあわせてご紹介します。

不安でしかたありません

40歳の女性です。

「いつもとても体調が悪いです。

どうしてこんなに体力がないんだろうかと思っています。

たいしたこともしていないのに、ちょっと外出するだけでも、歩くのもつらくて、すぐに疲れてしまう。

体力がなくて、体がついていかないんです。

買い物するだけで一日中ぐったりしてしまいます。

この年齢になっても、仕事にもついておらず、これからどうしたらいいのか不安で仕方がありません」

「手を洗わないと、不潔な感じがして、何度も何度も、手を石鹼で洗うので、手が荒れてしまいます。

照明のスイッチをさわると、感電するのではないかと不安になり、なんどもなんどもタオルで手をふかなければスイッチを触ることができません」

いつ頃から、そのような症状が始まったのですか?

「実は、子供の時から、うつ状態でした。

体もいつもしんどくてたまりませんでした」

それはたいへんでしたね。
ご両親はどのように言っておられたのですか?

「私は、こどものころから、父親のサンドバックのような役割を果たしていました。
父は機嫌が悪いと私にあたってきてストレス発散していたんです。
やめてくれと言っても毎日のようにやってきます。

母は弟をかわいがっていて、私のことは…。
あなたのことは好きになれないと言われました」

それは本当につらかったですね。

そのような辛いトラウマや、不安で仕方のない気持ちに対して、バッチフラワーレメディを紹介したところ、ぜひ試してみたいと言われましたので、トリートメントボトルをお作りすることになりました。

血液検査をみてみよう

持ってきていただいた血液検査を見ますと、いつもしんどくてたまらないことや、不安でしかたない様子が現れていて、とても気になる結果なので、説明させていただいてもよろしいですか。

中性脂肪は35、血糖は70と、あきらかに低血糖があります。
しかも、採血した時の血糖値も低いので、検査した時もしんどかったのではないかと思いますよ。

鉄や亜鉛などミネラル不足もみられますし、ビタミンB群もタンパク質も不足しています。

食事内容をお聞きしますと、「ごはん、お味噌汁」などを作っておられるということで、体調がよくないなか、頑張って料理しておられて、すばらしいですね。

たくさんは食べられない様子なので、その点、工夫できる方法がいくつかありますので、お伝えしますね。

これだけたくさんの不安を抱えていると、それだけで大きなストレスになってしまいます。

そうすると、消化吸収も低下してしまうんですね。

さらには、ご両親との関係性を考えると、おそらく小さい時から、大きなストレスを感じていて、食べても栄養素を吸収できていなかったと思います。

だから、いつも体がつらくて、抑うつ気味だったのではないかと思いますよ。

ミネラル、ビタミンB群、タンパク質、血糖がないとエネルギーを作ることができないんですね。
すると、いつもエネルギー不足ですから、体を動かすのもつらくなるんです。

神経伝達物質を作るためにも、ミネラル、ビタミンB群、タンパク質が必要ですから、不足していると気持ちは不安定になります。

子供のときからうつ気味だったと言われていたのも、栄養素不足が関係しているんじゃないかと思いますよ。

低血糖対策や、消化吸収が低下しているときに利用するとよい食材などを説明しますと、ぜひ試したいとメモしておられます。

お風呂がこわい

今特に、困っていることはありますか?

「毎日、お風呂に入りたいのですが、これができなくて、とても悩んでいます」

体がつらくて入浴できないの?

「まぁ、それもあるのですが…、

実は、私が思春期のころ、私が入浴すると、父が風呂を覗きにくるんです。

やめてくれって言っても、なんどもやってくるんです。

思春期のころってそういうのがいやでしょ。

それを面白がっていやがらせしてくるんです。

それがいやでいやで、今でも、お風呂に入ると、自然に体に力が入って、リラックスできません。
なんだか、お風呂がこわくて緊張するんです」

ミニ退行催眠

それではね、こんな方法がありますよ。

小さいころの自分に会いに行って、『お風呂を覗かれて困る問題』を、子供の自分に変わって、今のおとなのあなたが解決してあげる、という方法があります。

「えー、やってみたいです」

やってみますか。

それでは、このまま、軽く目をつぶって、そのころの自分をイメージしてみましょう。

その頃の自分をイメージできましたか?

「はい」

今、小さい自分はどんな様子?

「湯船に入っているのですが、リラックスできていません。

父が覗きに来るのではないかと、緊張して、ぎゅっと力をいれて、小さくうずくまっています」

なにか起こりましたか?

「父が覗きに来ました」

小さい自分はどんな様子ですか?

「もう、おとうさん、やめて、って叫んでいます」

お父さんはどんな様子?

「なんども覗きに来て、おもしろがっています」

どうしますか?

こどもの自分ではどうにもならないようであれば、現在のおとなのあなたが、そばに行って、父親に抗議することもできますよ。
どうしますか?

「やります。
父に対決します」

今、何が起こっていますか?

「今、父をとっちめています」

…。
えー?とっちめているって何をしているの?

「父親を風呂から追い出して、『いいかげんやめんかい』と叱っています。

でもぜんぜん、聞かないので、押し倒して、懲らしめています」

なんと…。
今はどうなりましたか?

「コテンパンにやっつけました。父はへろへろになっています」

わぁーすごいことになりましたね。

「はい」(なんだかうれしそう)

小さい自分はどんな様子ですか

「安心しています。
笑っています」
なんと言ってあげますか?

「あなたは全然悪くないからね」

これからどうしますか?
小さい自分と一緒になにか遊んだりしてもいいですよ。

「二人で一緒にお風呂にはいります」

わぁ、いいですね。
今、どんな感じ

「とても楽しいです。水鉄砲とかして遊んでいます」
いいですね。

じゅうぶんに遊んだら、私に知らせてくださいね。
じゅうぶんに遊びましたか?

「はい」

これからも、いつでも小さい自分と会うことができますよ。

会うときの合図を決めてもいいですね。

会いたいときはいつでも会えますよ。

それでは、そろそろ、今ここに戻ってきますよ。

小さい自分にお別れの挨拶をしましょう。

よろしいですか。

三つ数えたら、今ここに戻ってきますよ。

いかがでしたか?

「小さい自分がとても楽しそうに笑っていたので、私もうれしかったです。

父をコテンパンにやっつけたのがよかった。

ぐうの音も出ない感じにやっつけました。

これで、安心してお風呂に入れそうです」


一か月後、
「あれから、安心して毎日入浴できるようになりました」
と話してくださいました。

幼少時退行催眠

今回行ったミニ催眠は、幼少時退行催眠のちっちゃい版です。
それを、診察の途中で、診察室の椅子に座ったまま行っています。

退行催眠というと、なんだか大変そうですが、診察の中で、こんな方法があるけどやってみる?ってたずねると、みなさん、やってみる!って答えます。

そして、全員、とても上手に催眠を経験されます。

小さい自分に会って、話したり、遊んだりする経験は、ふたりがあたたかな絆を結ぶ貴重な経験です。

お互いに、一人ぼっちではないという気持ちを強く抱くことができるでしょう。

また、おとなの今の自分にとって、小さい自分を守ったという体験は、催眠が解けた後も、ずーっと心の中に残ります。

その経験は、小さい自分にとって心強いものになりますし、
おとなの自分にとっても、『やり遂げた。小さい自分を守り抜いた』という強い気持ちを確認できます。

小さい自分はとても弱くて、こころから大切に扱いたいという気持ちがあふれます。

すると、それは、次第に『今の自分も同様に大切にする気持ち』へとつながっていくのです。

小さい自分に会いに行くのは、診察室でなければできないことはありません。

ご自分ひとりでも会いに行くことができますよ。

ただ目をつぶって、小さい自分をイメージするだけです。

今、小さい自分は何をしているのか、どんな気持ちなのかを感じてみましょう。

そして、小さい自分に対して、自分が抱いている感情をしっかりと感じうけとめてください。

小さい自分に寄り添っているだけで、おとなのあなたも気持ちが穏やかになるのを感じることでしょう。

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