離婚事件簿その1~事情聴取編(前編)
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晴れて、当事者間で面会交流についての折り合いが付いた場合には、面会交流を認める諸条件が「調停調書」という書面に記載され、両当事者間に交付され、両当事者がそれに従った面会交流を実施していくことを前提に、事件は解決終了することになる。
ここで、面会交流の調停を成立させる場合に、どこまでの諸条件について具体的に調停調書に記載されるのかについてお話ししよう。
調停調書に記載することがある事項は、思いつくまま列挙するだけでも、以下のように大変広範囲にわたる。
① 回数や時間・頻度
月に何回、あるいは、年に何回、一回あたり何時間、何時から何時までなど。
② 場所や内容
どこで面会をさせるのか、どのような内容の面会交流を認めるのか(食事を伴うのか、伴わないのか、旅行なども認めるのかなど)。
③ 宿泊を伴う面会交流を認めるのか、認める場合にはその頻度や回数。
④ 具体的な日程の決定をどうやって行うのか、あるいは、具体的に、第2日曜日の午前10時から午後5時まで、など、形式的に決めておくのか。
⑤ 監護親の立会・同伴を要件とするか。
⑥ 監護親の立会・同伴を要件としない場合には、子供の受け渡しをどのように行うのか。
⑦ 電話・メール・手紙・プレゼントの送付などのやり取り、運動会や授業参観、生活発表会などの行事への参加を認めるのか、認めないのか、認める場合には、どのような条件・方法のもと認めるのか。
⑧ 子供が会いたくないといったり、子供の行事、病気、その他急な用事などによって調停での約束通りの面会交流ができない場合にはどうするのか。
⑨ 非監護親による養育費の支払が滞った場合の面会交流はどうするのか。
⑩ 面会交流についての親同士の連絡方法はどうやって行うのか。
⑪ 非監護親の親(おじいちゃんおばあちゃん)やきょうだい(おじさんやおばさん)やその子(子供から見た従姉妹)への面会交流まで認めるのか、認めないのか、認める場合にはその条件。
などなど、である。
ただ、実際には、常にこれら全てを調停調書に記載するわけではなく、記載内容は事案によって異なる。
当事者間に信頼関係が希薄なほど、後で揉めるのは目に見えているから、事細かい条件や事項について、いちいち調停調書で定めておかなければならないし、逆に、ある程度の信頼関係があれば、事細かい条件や事項については、状況に応じて、当事者間で話をして適当に決めていくことができるので、いちいち調停調書に記載しなかったりする。
しかし、ここで気をつけなければならないのは、せっかく調停が成立しても、その内容を必ずしも相手(監護親)が守ってくれるという保証はないということである。
調停調書の記載内容は、調停での約束が守られないという不測の事態をも想定して、定めておくのが望ましい。
では、具体的にはどのような記載が必要なのかということだが、この点、まず、調停調書で定められた内容(約束)が守られなかった場合に、どのような手続をとるのかということから説明しなければならない。
調停調書に定められた内容が守られない場合、家庭裁判所が、監護親に対して、調停調書での約束に従った面会交流を実現するように「履行勧告」を行うことがあるが、これには強制力がない。
また、裁判所の執行官が強制的に監護親から子供を奪い取って非監護親のもとに連れてきて面会をさせるという、直接的な強制手続も認められていない。
調停で決まった面会交流の実現に相手(監護親)が協力しない場合に非監護親が取り得る手段は、面会交流調停の義務に違反したことを理由とする損害賠償請求(慰謝料請求)をするか、「間接強制」と呼ばれる特殊な強制執行をするくらいしかないのが実情である。
間接強制とは、簡単に言うと、裁判所が、調停調書で定められた約束に違反して面会交流に協力しなかった監護親に対して、例えば1回の違反について、一定額(3~5万円程度が多い)の金銭を、非監護親に支払うよう命じることで、金銭的なペナルティを課すことをもって、間接的に調停調書に従った面会交流の実施を促す制度である(監護親が支払にも応じないという場合には、財産を差し押さえることができる)。
しかし、この間接強制には二つの問題点がある。
一つは、そもそも面会交流というのは、両方の親が、面会交流について子供の健全な発育にとって有意義なものであると積極的に理解した上で行われるからこそ、親の愛情が子供に伝わるのであって、間接強制や損害賠償を命じられるから、いやいや面会させるというのでは、本当に意義のある面会交流とはいえないのではないか、という点である。
子供は感受性が強いから、監護親が、自分(子供)が非監護親と面会交流することを快く思っていないことなどお見通しである。
なので、子供は、非監護親との面会交流を純粋に楽しみにしている気持ちがあっても、その純粋な気持ちを抑え込もうとするだろう。
結局、監護親がいやいやのまま面会をさせると、子供は両親の間で板挟みになってしまい、その心に大きな負担が掛かるわけで、果たしてこのような面会交流は、子の福祉に合致するのか。
もう一つの問題点は、ある程度具体的に、調停調書や審判で面会交流をする際の方法や条件が明確に記載されていなければ、そもそも間接強制ができない、という点である。
この点については、最高裁判所の平成25年3月28日決定で判断が示されている。
最高裁判所は、面会交流をしなかったことに対して間接強制を認めるためには、以下の程度に具体的に審判または調停で条件が決まっていなければならず、抽象的な条件が定められているに過ぎない場合には、間接強制ができないという判断であり、具体的な判示事項は以下のとおりであった。
〈判示事項〉
1 監護親に対し非監護親が子と面会交流をすることを許さなければならないと命ずる審判に基づき間接強制決定をすることができる場合
2 監護親に対し非監護親が子と面会交流をすることを許さなければならないと命ずる審判に基づき間接強制決定をすることができるとされた事例
〈裁判要旨〉
1 監護親に対し非監護親が子と面会交流をすることを許さなければならないと命ずる審判において、「面会交流の日時又は頻度、各回の面会交流時間の長さ、子の引渡しの方法等が具体的に定められているなど監護親がすべき給付の特定に欠けるところがない」といえる場合は、上記審判に基づき監護親に対し間接強制決定をすることができる。
2 監護親に対し非監護親が子と面会交流をすることを許さなければならないと命ずる審判において、次の(1)、(2)のとおり定められているなど判示の事情の下では、監護親がすべき給付の特定に欠けるところはないといえ、上記審判に基づき監護親に対し間接強制決定をすることができる。
(1) 面会交流の日程等は、月1回、毎月第2土曜日の午前10時から午後4時までとし、場所は、子の福祉を考慮して非監護親の自宅以外の非監護親が定めた場所とする。
(2) 子の受渡場所は、監護親の自宅以外の場所とし、当事者間で協議して定めるが、協議が調わないときは、所定の駅改札口付近とし、監護親は、面会交流開始時に、受渡場所において子を非監護親に引き渡し、子を引き渡す場面のほかは面会交流に立ち会わず、非監護親は、面会交流終了時に、受渡場所において子を監護親に引き渡す。
以上の次第であるから、せっかく調停を成立させたとしても、調停調書において、上記最高裁決定で示された「面会交流の日時又は頻度、各回の面会交流時間の長さ、子の引渡しの方法等が具体的に定められているなど監護親がすべき給付の特定に欠けるところがないといえる」程度の事項が定められていないと判断される場合には、非監護親は、調停調書の内容を守らない監護親に対して、間接強制すらできず、結局、再度、調停をやり直さなければならないのである。
非監護親サイドは、監護親が調停調書の内容を守らず、間接強制をしなければならないような事態が生じることが想定されるのであれば、最低でも、上記最高裁判例が示した基準に従った記載内容の調書となるように注意しなければならない。
弁護士 松尾善紀
【関連リンク】 離婚における子供の問題